☆各年の私のBEST



 このコーナーでは私がページに掲載した本の中から、各年の私のBESTを発表します。
 ランク付けの基準は、あくまで私を面白がらせた、感動させた順です。芸術性やメッセージ性等まるで評価基準にありません。
 なお、あくまで私がその年に読んだ本から選んでいるので、発行年とはずれる場合があります。

 96年97年98年99年00年01年02年03年04年05年06年07年08年09年10年11年,12年13年14年15年16年17年18年19年20年21年22年23年



◆ 2023年

◇国内作品BEST7
順位書  名寸      評      等
水車小屋のネネ 全編通して、人と人との助け合い、優しい良心がいっぱいの物語。都合四十年の長い物語だが、新しい登場人物を加えて出会いと別れを繰り返し、飽きさせない。読み終わるのが惜しかった。
しろがねの葉 戦国末期から徳川初期の銀山の死と隣り合わせの繁栄の世界が詳しく描かれ、たいへん興味深い。女であることの葛藤に苦しみながらも懸命に生き抜いていく主人公の姿は感動的。
木挽町のあだ討ち 六章立てのうちの五章、仇討ちの目撃者たちによる過去の人生模様、我が人生の語りがめっぽう面白い。少しふくらませればどれも本1冊になりそうなほど中身が濃い。
踏切の幽霊 怖さはともかく幽霊譚として良くできており、女性の身元を探っていくミステリーとして引き込まれ面白かった。人間ドラマとして読み応えがあった。
厳島 “日本三大奇襲”のひとつ「厳島の戦い」を描いた戦国ドラマ。 とにかく合戦シーンの迫力が半端なく、迫真の肉弾戦が臨場感たっぷりに描かれ興奮させられた。
可燃物 冷静沈着に事件に向き合う主人公の警部の造形がいい。五短編、どれもしっかり練り込まれた硬質な作品で、淡々とした文章は適度な緊張感をはらんで進んでいく。
連鎖 大阪府警の刑事コンビによる金融絡みの殺人事件捜査劇。軽妙な大阪弁による掛け合い漫才的な台詞回し主体の物語で、二人の掛け合いのリズムがそのまま作品全体のリズムとなっている。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
真珠湾の冬 戦乱の時代に主人公が辿る数奇な運命と執念の捜査。全編緊迫感に富んだ、ドラマチックなスケールの大きいミステリー。また時代に翻弄される男女のロマン溢れるドラマでもある。
頬に哀しみを刻め 息子を殺された二人の父親が、深い悔恨を胸に復讐に突き進む。全編疾走するクライムサスペンスの面白本。血で血を洗う暴力の嵐は前作「黒き荒野の果て」よりさらにヒートアップ。
ミン・スーが犯した幾千もの罪 復讐劇だがファンタジー色のあるハードボイルド西部劇のロードノベル。主人公の長い行程が不思議な夢の中の出来事のような物語。
トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー ゲームを共同開発する男女の四半世紀にわたる関係を描く。主人公三人の、友情、愛憎半ばする関係、ゲーム作りを通した人生の物語は読み応え十分。
悪魔はいつもそこに いかにも現代アメリカ作品らしい残酷な“狂信と暴力”のノワール文学。地獄に吸い込まれそうな不条理な暗黒譚だが、過激な暴力描写だけで見せる作品ではない。



□2023年を振り返って

・国内作品
 今年は7作品を挙げました。ジャンル的にはヴァラエティに富んだ7作ですが、3位まではすんなり決まり、あとは並びも顔ぶれも選外作品も含め順不同という感じです。
 1位はまさにダントツ。素晴らしい小説でした。2位は懸命に生き抜く主人公の姿に感動。3位は物語の中身の濃さに脱帽しました。
 そのほか、最後のどんでん返しがすごかった「方舟」と見てはいけないような悪夢の世界に入り込んだように思わせる「禍」などが印象に残りました。

・海外作品
 豊作だった昨年にくらべ、2023年はようやく5作品を挙げた感じです。
 1位は主人公の数奇な運命のドラマがたいへん面白く、2位は激しい暴力の嵐だが疾走感がたまらない作品。3位は好みのロードノベルで、幻想味が入った面白本でした。
 そのほか、巨匠スティーヴン・キングの超能力少年・少女ものの「異能機関」、相変わらず鮮やかなホロヴィッツの本格推理「ナイフをひねれば」などが印象に残りました。

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◆ 2022年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
リバー 650ページ近い大長編ながら、巻頭から幕切れまでだれることなく、間断なく緊迫感が持続する、読み応え十分の圧巻の犯罪群像小説。作者の筆力に感服した。
残月記 表題作の長編と中編二作。三作とも月をモチーフにした悪夢的な物語。表題作は過酷で残酷で怖い話だが、最後は究極の愛の物語となり、まさに感動的と言える作品だった。
ミシンと金魚 主人公である老女のひとり語りで終始するが、この語りが凄い独特の文章で、語りに魔力がある。短い作品だがその中に壮絶な女の一生が詰まっている。
レッドクローバー 登場人物たちが持つ毒をはらんだ絶望感、怒り、閉塞感が半端ない。恐ろしく、不穏で、まったく救いのない話なのだが、いやでも惹き付けられてしまう力がある。
看守の信念 五短篇でどの作品も刑務所という特殊な環境を舞台とした囚人と看守たちの人間ドラマが緊張感を持って描かれ、面白い。終盤の衝撃は凄いが前作を読んでいることが必要。
八月の母 少女監禁暴行死事件に材をとったドラマ。負の感情がむき出しになったような、読むのも辛い強烈な話だが、先が気になって読み進めずにはいられない。
脱北航路 拉致被害者を連れて日本に亡命しようと試みる北朝鮮潜水艦の決死の脱出行。冒頭からラストまで死闘の連続で、スピード感を持ってぐいぐい押しまくる。映画を見ているような臨場感と迫力がある。
喜べ、幸いなる魂よ 18世紀ヨーロッパにおける四十年以上にわたる群像ドラマ。紆余曲折ある展開の物語はとても面白く、引き込まれるように読んだ。


◆海外作品BEST7
順位書  名寸      評      等
われら闇より天を見る 物語にのめり込み、感情移入し、登場人物すべてに救いを求める気持ちになった。しっかり積み重ねられた重厚なミステリードラマで、時間を忘れて読んだ。
このやさしき大地 ひと夏の少年たちの過酷な旅を描く冒険ロードノベル。大恐慌の厳しい社会情勢にあって、様々な局面で彼らに手を差し伸べる人が多いのも温かい。締めもこれ以上ないほど感動的。
プロジェクト・ヘイル・メアリー 人類の存亡を賭けたミッションがひとりの宇宙飛行士に委ねられる。全編スリリングで、思いがけない展開の連続だが、終盤はさらにヒートアップ。幕切れのユーモアも良い。
殺しへのライン 作家ホロヴィッツ&元刑事ホーソーンのコンビの犯人当てミステリーの第三作だが、もはや安定の面白さ。犯人に至る手がかりをちりばめた構成は今回も実に見事。
ミッドナイト・ライブラリー 主人公が体験する様々な人生が次々に趣向を変えて登場し、時にスリリング、時にユーモアを持つ。奇抜な着想のドラマで、人生に無限の可能性を感じさせる物語。
星のせいにして スペイン風邪大流行の中で、誕生と死が繰り返される病院で働く助産看護婦の奮闘する姿を描く。戦争とウイルス禍、まさに今読むべき本。
阿片窟の死 冒頭からテンポよく物語に引き込み、その後もスピード感を持って淀みなく流れていく犯罪捜査劇。クライマックスの緊張感は高い。



□2022年を振り返って

・国内作品
 今年は豊作、8作品を挙げましたが、まだまだランクインさせたい作品が目白押しで、順位も顔ぶれも考えるたびに入れ替わるという感じです。
 1位は昨年最後に読んだ本ですが、読み応え十分で圧倒されました。2位は緻密に構築された物語世界に驚き、究極の愛の物語に感動。3位は魔力ある語りに魅了されました。
 そのほか、後味の悪い幕切れなどはいかにも桐野夏生らしい「燕は戻ってこない」とチェロの音が全編に鳴り響いている感じの「ラブカは静かに弓を持つ」、人生の描き方に圧倒される凄みがある「汝、星のごとく」などが印象に残りました。

・海外作品
 国内作品と同様、2022年は海外ものも豊作の一年で、ここでは7作品を挙げました。
 1位は自らを“無法者”と称する少女のパートが素晴らしく、2位は好みのドラマチックな冒険ロードノベル。3位は全編スリリングないかにもアメリカものSFで幕切れのユーモアも良し。
 そのほか、最後まで疾走する面白本「黒き荒野の果て」と第二次大戦下の図書館員の友情と勇敢な行動を描く「あの図書館の彼女たち」、YAものだが大人が読んでも十分に楽しめる本格推理「ロンドン・アイの謎」などが印象に残りました。

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◆ 2021年

◇国内作品BEST7
順位書  名寸      評      等
機龍警察 白骨街道 ミャンマーを舞台に、警視庁特捜部による現代のインパール作戦とも呼ぶべき壮絶な戦いが描かれる。圧倒的な戦闘アクションの連続にミステリー味も加え、存分に楽しめた。
黒牢城 歴史小説と推理ミステリーを見事に融合させた作品。四つの章のそれぞれ謎はいずれも密室風味に味付けされ、謎解きには興奮させられ、ページを捲る手が止まらない。
高瀬庄左衛門御留書 抑えた簡潔な筆致から、主人公の人生が静かに浮かび上がる、時代小説の佳品。言葉少なに交わされる主人公と嫁との抑えに抑えた心の交流が胸に沁みる。
同志少女よ、敵を撃て 独ソ戦において女性狙撃兵となったソ連人少女を主人公とした戦場ドラマ。全編にわたりアクションが豊富で迫力もありエンタメ性は高い。驚きのデビュー作。
ババヤガの夜 喧嘩上等・女ファイターによる痛快そのもののバイオレンスアクションもの。物語は速すぎるくらいのスピード感を持って最後まで突っ走る。
心淋し川 吹きだまりのような長屋を舞台に、そこに住む人々を描き、時代物らしい風情を感じさせる連作短編集。いつの世も変わらぬ人々の思いが情味を持って描かれている。
看守の流儀 刑務所が舞台、刑務官が主役の連作短編集。張り詰めた緊張感と濃密な人間ドラマを感じさせる。ミステリーとしても面白く、読後感も良い。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
父を撃った12の銃弾 現在パートはロードノベルであり、思春期の娘の青春、成長物語であり、親子の物語でもある。父親を描く過去パートは暴力に彩られたクライムストーリー。構成も見事な心に残る作品。
三体V 死神永生 シリーズもついに完結となったが、完結篇も期待を超える面白本で、あまりのスケールの大きさに読み終わって呆然。想像をはるかに超えて、神の領域にまで踏み込んだ壮大な作品だ。
ヨルガオ殺人事件 上巻の前半が現代パート、後半から下巻の前半がひとつの推理小説をまるまる載せ、後半は再び現代パートに戻って謎解き。犯人当てミステリーとして2倍楽しめ、どちらも細かく鋭い推理に舌を巻く。
宇宙の春 ハードSFからファンタジーまで変幻自在のヴァラエティに富んだ全十編。政治的な問題作、躍動感に満ちた戦いの作品など興味深く面白い作品が多い。
ブート・バザールの少年探偵 インド人作家によるアメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。語り部となる9歳の少年の目を通して、インド社会の現実を鋭く活写している。



□2021年を振り返って

・国内作品
 7作品を挙げましたが、4位まではすんなりと決まり、あとの3作は圏外となった作品も含めて考えるたびに入れ替わるという感じです。
 1位の戦闘アクションには圧倒されましたし、2位の歴史ものミステリーの雰囲気にもしびれました。また3位の時代小説は感情を抑えた短い言葉のやり取りの中に万感の思いが込められて感動しました。
 そのほか、ディストピアものの心理スリラー「日没」とハードボイルドタッチの時代ミステリー「へんこつ」、籠城戦の凄惨な極限状況がリアルで凄い「もろびとの空」などが印象に残りました。

・海外作品
 1位から3位までは不動の面白さですんなり決まりましたが、あとの作品は比較的小粒で、結局今年は5作品を挙げるに留まりました。
 1位の感動は今後もずっと心に残るでしょうし、2位のスケールの大きさには読み終わって呆然、3位は見事な推理劇に魅せられました。
 そのほか、いずれもSFの、叙情的な物語集「過ぎにし夏、マーズヒルで」と、センスの良さを感じさせる韓国SF「わたしたちが光の速さで進めないなら」などが印象に残りました。

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◆ 2020年

◇国内作品BEST7
順位書  名寸      評      等
熱源 主人公二人は時代の波に揉まれ、国家に翻弄されながらも、人としての尊厳を持ち懸命に生きる。史実を巧みに織り交ぜ興味深く、娯楽性も併せ持つ力作。
ボニン浄土 江戸時代と現代の小笠原を舞台に描き、180年にわたり時空を超えて繋がる大きなドラマだ。ミステリー味も加えた物語は読み応えがあった。
流浪の月 図らずも事件の加害者と被害者となってしまった主人公二人の苦しむ姿に読んでいる方も苦しく、思わず頁を閉じたくなるような辛い物語。嵐のような作品で読み応えがあった。
少年と犬 直木賞受賞作。連作短編6編でどの話も面白く、味わいのあるものになっている。人間と犬の絆が強く感じられ、作者の犬への愛情に満ちた作品集。
52ヘルツのクジラたち DV、介護地獄、泥沼の恋愛から虐待されている少年まで登場し、胸が張り裂けそうな重く辛い物語だが、希望はあると思わせる優しい結末になっている。
雨の中の涙のように スター俳優を狂言回しのように使い、辛く悲しい人たちの生き様を描く八章立ての作品。いずれの章もドラマチックな展開で読み応えがあり心に響いてくる。
銀花の蔵 主人公とその家族を巡る約50年にわたる物語が、ドラマチックにまるでテレビの連続ドラマのように展開する。爽やかさも感じさせるところが良い。


◆海外作品BEST6
順位書  名寸      評      等
三体U 黒暗森林 全世界2900万部突破というSF巨編3部作のパート2。エンタメ小説として読みやすく、まるで先の見えない展開に随所で驚かされる。 超絶面白本。
ザリガニの鳴くところ 2パートに分かれ、美しい自然の中で孤独に耐えながら生きるの娘のパートが素晴らしいし、ミステリーパートも法廷劇として緊張感に満ちている。傑作と感じた。
夕陽の道を北へゆけ 常に死と隣り合わせ、全編恐ろしいほどの緊迫感に満ちたロード・ノヴェル。登場人物も多彩で、先の見えない展開はまさに一気読みの面白さも持つ。
あの本は読まれているか 小説「ドクトル・ジバゴ」をめぐって冷戦時代のソ連とアメリカを舞台にしたスケールの大きな読み応え充分の歴史ミステリー。とりわけソ連パートは大河小説の趣を持つ。
その裁きは死 昨年の「メインテーマは殺人」に続く犯人当て本格ミステリーの第二作。終盤、物語中のあちこちに謎を解明するヒントがあったことを知る巧みな構成に感心させられる。
壊れた世界の者たちよ 6編の中編集。いずれも読み応え十分な作品ばかり。現代アメリカが抱える諸問題が鋭く描かれ、その理不尽さ、残酷さが胸を締めつけるようだ。



□2020年を振り返って

・国内作品
 昨年同様7作品を挙げましたが、これという決定打がなくBEST選びに苦労しました。どんぐりの背比べという感じです。
 1位と2位はいずれも壮大なドラマ性を感じさせる作品ですが、歴史ものとしても興味深く、面白く読みました。
 3位と5位は読み進めるのをためらうようなつらく苦しい話ですが、ラストの平穏さに胸を打たれます。
 そのほか、ミステリー「欺瞞の殺意」と「暴虎の牙」、人気歌舞伎役者の波乱に富んだ生き様で魅せた「江戸の夢びらき」などが印象に残りました。

・海外作品
 今年は6作品を挙げましたが、この6作のなんと密度の濃いことか。いずれも傑作揃いです。
 1位はエンタメSFとして昨年の第1作を凌ぐ驚きの超絶面白本、2位は美しい小説でした。3位、4位も読み応え十分の大作、5位の謎の解明にはまたしてもやられた感。
 そのほか、終盤には驚きも用意された感動作「オルガ」、黒人少年の過酷な運命を描くピュリッツァー賞受賞作「ニッケル・ボーイズ」などが印象に残りました。

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◆ 2019年

◇国内作品BEST7
順位書  名寸      評      等
罪の轍 600ページ近く全編緊張感に満ちており、まさにページをめくる手が止まらない超面白本。昭和38年の社会背景に加え、関係者すべてしっかり書き込まれた力作だ。
凍てつく太陽 アイヌ出身の特高刑事を主人公としたサスペンスミステリーは、まったく先の読めない展開で、スケールも大きく、骨太な娯楽作だ。
とめどなく囁く 主人公が心の葛藤に押しつぶされそうになりながら真相を探っていく様子、周囲との神経をすり減らすようなやり取りがいかにも桐野作品らしくて好み。
平場の月 大人の恋愛小説。物語は王道のお涙頂戴もののパターンだが、それでも淡々とした最後にはぐっとこみ上げさせるものがあった。
男たちの船出 千石積みの船を造って、荒れ狂う佐渡の海に挑む男たちのたいへん骨太な物語。ドラマチックな展開に迫力ある描写が胸躍らされた。
欺す衆生 人を欺して金を稼ぎ金融世界をのし上がっていく男を描く、果てしない欲望の長編ドラマ。読み手を終始ぐいぐい引っ張って離さない面白さがある。
刀と傘-明治京洛推理帖 ミステリー連作短編。時代の雰囲気がほの暗いトーンで鮮やかに出ている。推理テーマも、一編ごとに趣向が凝らされ、サービス精神旺盛で楽しい。


◆海外作品BEST7
順位書  名寸      評      等
11月に去りし者 ケネディ暗殺事件を上手く取り込み、追う者、追われる者の緊迫感が全編を覆っている優れたミステリー。また登場人物の心情が沁みる作品でもある。
三体 壮大な奇想が連続して展開する、波乱に富んだスケールのとんでもなく大きな物語。SFが少々苦手でもエンタメ小説としてかなり楽しめる。
メインテーマは殺人 正統派の謎解きミステリ。 たいへん巧妙に仕掛けられた伏線の数々が、事件解明後にしっかり回収されるさまは、見事と唸らされる。
拳銃使いの娘 語り手を次々に変えながら、一直線にラストまでテンポ良く突き進む犯罪活劇。歯切れのよい文章に場面転換も素早く、アクションの連続で存分に楽しめる。
座席ナンバー7Aの恐怖 閉鎖空間でのタイムリミットによりサスペンスにどっぷりと浸れる。複雑な設定に、予測不可能の謎また謎の展開で読み手を翻弄してくれる。
荒野にて 孤独な少年が、処分されそうになっている競走馬と共に広大なアメリカを旅する典型的なロードノベル。純粋な心を失わない少年の過酷な旅路は素直に感動を誘う。
ブルーバード、ブルーバード アメリカ南部の田舎町、根強い黒人蔑視の環境の中であくまで正義を貫こうとする黒人テキサスレンジャーの姿勢は潔い。人間ドラマとしても練られている。



□2019年を振り返って

・国内作品
 昨年同様7作品を挙げました。なかなかバラエティに富んだ顔ぶれになったと思います。
 1位は社会派ミステリーとして傑作だと思います。2位は物語としての面白さに満ちており、3位は作者らしい心理描写に痺れました。4位は恋愛ものとして久々に上位に挙げた作品。
 そのほか、いずれも読後感が爽やかな短編集の伊与原新「月まで三キロ」、ひとつの謎で長尺を最後まで引っ張る篠田節子「鏡の背面」などが印象に残りました。

・海外作品
 2位を除きやや小粒な印象ですが、挙げていったら7本になったという感じです。
 1位は心に沁みるクライムミステリー、2位はスケールの大きさに度肝を抜かれました。3位の正統派謎解きも楽しい。4位以下は順不同という感じです。
 そのほか、バラエティに富んだ陳浩基「ディオゲネス変奏曲 」と大仕掛けの雷鈞「黄(コウ)」という中華圏ミステリー2作が特に印象に残りました。

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◆ 2018年

◇国内作品BEST7
順位書  名寸      評      等
宝島 米軍占領下の沖縄で主人公3人の男女が走り抜けた自立と闘争、希望と悲しみの物語がとにかく熱く語られる、骨太な青春群像小説。リアルな戦後史としても興味深い。
火定 天平の奈良の都を舞台に、恐ろしい天然痘の猛威に翻弄される人間たち、医師らの奮闘の熱が頁からほとばしるような凄いドラマ。
ひとつむぎの手 現役医師の作者だけあって、医療場面はリアルで緊迫感あり。医療ヒューマンドラマにミステリー要素を加えて、娯楽性も併せ持った物語となった。
大人は泣かないと思っていた 7編連作だが、それぞれの主人公が様々な状況の中で悩みながら、今を懸命に生きている。それが各編面白いエピソードで綴られ、たいへん爽やかな作品。
ひと 両親を若くして亡くした主人公が、なんとか前向きに日々生きていこうと懸命に頑張る姿に大変好感が持てる物語。
泥濘 「疫病神」シリーズ7作目だがマンネリ感なし。主人公2人の掛け合い漫才のようなやり取りが相変わらず舌好調。とにかく一気に読ませる面白さがある。
それまでの明日 原ォ14年ぶりの新作。物語のスタイルはやや古い感じでノスタルジー感を覚えてしまうが、相変わらずの抑制された文体にはしびれます。


◆海外作品BEST6
順位書  名寸      評      等
地下鉄道 血と暴力に彩られたアメリカの黒歴史を直視する社会劇であり、サスペンスフルな逃亡劇であり、また人間の絆の物語でもある。
カササギ殺人事件 上巻はわくわくするような面白さの伝統的ミステリー。下巻はスピード感のある現代ミステリー。まさに1つの作品で2倍楽しめる。
そしてミランダを殺す 物語の設定自体にさしたる新味はないが、狙う側、狙われる側が入れ替わり立ち替わり、何度も唖然とさせられる驚きの展開で、ラストまで一気に読ませる。
ダ・フォース 全編圧倒的な熱を持って展開する警察小説。前半は警察ヒーローもの、一転後半は悪徳警官もので、主人公の転落と孤独、究極の選択と裏切りのドラマ。
IQ 日系アメリカ人作者による黒人コミュニティを舞台とした物語。全体に適度なアクションを交え、緩急をつけたテンポの良い展開。
オンブレ 読者をぐっと引き寄せる主人公の登場場面もうまいし、荒野での追跡劇はサスペンスたっぷり。駅馬車に同乗した人々の人間模様の描き分けも巧み。



□2018年を振り返って

・国内作品
 今年の国内作品は昨年よりやや盛り返し、7作品を挙げました。
 1位と2位、種類は違えどその熱量は凄いものがありました。読んでいて圧倒されます。以下、3〜6位の順位は僅差で、最後には心が温かくなるような作品が良いですね。
 そのほか、ヒリヒリするような感情の昂ぶりの町田その子「1ミリの後悔もない、はずがない」、緊張感の漂う本城雅人「傍流の記者」、終始温かい瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」などが印象に残りました。

・海外作品
 大豊作だった昨年に比べやや小粒で、6作をランクイン。こうやって並べると各誌のミステリーベスト10上位作の上に「地下鉄道」が載ったという構成です。
 1位は圧倒的でしたが、以下の作品も面白さではかなりのものが揃いました。
 そのほか、ヴァラエティに富んだケン・リュウの現代中国SFアンソロジー「折りたたみ北京」、俳優トム・ハンクスの小説家デビュー作「変わったタイプ」などが印象に残りました。

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◆ 2017年

◇国内作品BEST6
順位書  名寸      評      等
三鬼−三島屋変調百物語四之続 宮部みゆきはエンターテインメント小説のまさに“職人”。彼女の職人技から繰り出される不可思議なお話の数々は、思わず上手いなぁと感心する奇抜さと面白さ。
蘇我の娘の古事記 飛鳥時代の百済からの渡来人の盲目の娘をヒロインに据え、まさに波瀾万丈の生涯が古事記の成り立ちと見事に絡めて描かれ、非常に興味深い作品。
罪の声 現実の未解決事件について丁寧かつ緻密に組み立てられたストーリーには感心するし、家族をめぐる人間ドラマとしてもしっかり。
北海タイムス物語 熱すぎる職場を舞台にした、仕事に誇りを持つ者たちの、直球の“熱血”お仕事小説であり、青年の成長小説、青春小説でした。
ボクたちはみんな大人になれなかった 切ない恋愛小説だが、決して軽くはない、ちょっと胸を突いてくるような言葉が全編にわたってとてもリズム良く綴られていく現代的な作品だ。
夜行 夢の中のような現実感のないミステリアスな雰囲気が全編に漂う怪談話で、怪しげな中に背筋が寒くなるような怖さも味わえる。


◆海外作品BEST7
順位書  名寸      評      等
フロスト始末 フロスト警部の悪戦苦闘・右往左往ぶりが相変わらず面白く、上下巻かなりの長尺でもよく整理されていて読みやすい。これが最終作とはなんとも残念。
湖の男 シリーズ4作目でますます面白い。東西冷戦下の社会状況を巧みに取り入れ、読み手を掴んで離さない面白さ。人間模様の描写も手抜きなし
湖畔荘 物語の構成は巧妙・精緻に計算され組み上げられている。“偶然の一致”を使われても強引に納得させられるばかりか、思わず笑顔にさせられてしまう。
母の記憶に SFという枠に収まりきれない、ファンタジーやミステリーなどとのジャンルミックス的な全16編で、面白い作品が目白押しだ。
ビリー・リンの永遠の一日 英雄に祭り上げられた若い兵士の目を通して“偉大な国”を希求するアメリカの本質を突いた見事な物語であり、青春小説としても素晴らしい。
13・67 社会派の衣をまとった本格ミステリー。ていねいに詰めていく語り口で進行は分かりやすく、物語の仕掛けも多彩でたいへん面白い。
東の果て、夜へ 広大で荒んだアメリカで綴られる黒人少年の我が身の置き所を探すような旅路と彼の成長。動きのある冷たく厳しい物語が静かに淡々と描かれる。



□2017年を振り返って

・国内作品
 今年の国内作品はちょっと低調でしたね。なんとか6作品挙げた感じです。
 1位の宮部みゆき、面白いのは当たり前で、そのまま1位は順位付けとしてはつまらないかもしれないが、いいものはいい。
 以下、2位は思わぬ拾いもの、以下犯罪小説、熱血小説、都会派小説と多彩な作品が並びました。
 そのほか、YAものに近いが人の繋がりに希望を見いだせる「かがみの孤城」、とりわけ女性の強さが感じられる「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」などが印象に残りました。

・海外作品
 国内作品に比べ、今年の海外ものは豊作でした。日本に翻訳紹介される段階で選ばれているとは言え、面白い本が目白押しです。
 1〜3位はどれが1位でもいい感じ。超絶面白本を出し続けた作者への弔意を表してフロストを1位に。4位以下も本当に僅差。順位は考えるたびに変わりそうです。
 そのほか、奇抜なSFにハードボイルド・ミステリをミックスした「書架の探偵」、犬の持つ善良さ、愛の塊のような姿が胸を打つ「その犬の歩むところ」などが印象に残りました。

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◆ 2016年

◇国内作品BEST7
順位書  名寸      評      等
室町無頼 戦国時代前夜の、幕府などなにするものぞという気概を持った無頼の男たちの、身分格差を打破する勢い・エネルギーが伝わってくる、めちゃくちゃ熱い物語だ。
罪の終わり 終末世界を背景にサスペンスたっぷりの物語が娯楽性を併せ持って壮大に展開される。国内小説とは思えないほどの圧倒的な世界観。
眩(くらら) 葛飾北斎の娘・お栄という魅力的な主人公を得て、真っ直ぐな性格のお栄の、絵を描くこと、絵を追求することへの熱情が全編に感じられた。
リボルバー・リリー 主人公ふたりがまさに不死身の戦いを繰り広げる、500ページにわたるフルスピード、ノンストップの娯楽アクション巨編。
怪奇探偵リジー&クリスタル 趣向を変えた5話の短編集で、リジーとクリスタルのコンビの掛け合いも楽しく、いずれもテンポの良い展開で実に面白い。さっぱり話題にならなかったのはなぜでしょう?
裸の華 桜木紫乃の作品には珍しい若者の成長話。だがこの物語の白眉は主人公の師匠のストリッパーの凄絶な踊り場面。ストリッパーの矜持というかプライドが染み出て圧倒された。
明るい夜に出かけて ラジオの深夜放送を題材に、大学に目的を失い休学しながらも懸命に前を向こうとする主人公のひたむきさ、真面目さが爽やか。登場する若者たちの姿が眩しい。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
つつましい英雄 ノーベル文学賞作家による、信念を持って行動する市井の人を描いた作品で、毅然とした主人公の姿勢に背筋が伸びる思い。と言っても堅苦しさは微塵もなく、エンタメ度の高い超面白本だ。
すべての見えない光 戦争という大きなうねりの中における盲目のフランス人少女と若いドイツ兵の流転の人生は実にドラマチック。たくさんの短い断章で時間を前後して語られる構成も見事。
終わりなき道 殺人罪で服役し出所した元警官と停職中の女性警官、2人に次々に苦難が襲い、物語は様々な方向に根を張り広がって、先の読めない、600頁弱、息もつかせぬ面白さ。
過ぎ去りし世界 「夜に生きる」に続くアメリカ暗黒裏社会のサスペンスあふれるドラマは、マリオ・プーヅォの「ゴッドファーザー」に匹敵する面白さ。
ミスター・メルセデス ホラーの帝王キングの、ホラーの彩りのない純正ミステリ。物語の面白さで上下巻引っ張る。クライマックスへの盛り上げも半端ない。手に汗握る疾走感が味わえる。



□2016年を振り返って

・国内作品
 今年もほぼ例年通りBESTに7作を挙げましたが、やや小粒なラインアップになりました。
 その中で、1位の文中からほとばしるような男たちの熱いエネルギー、2位の灰色の終末感はやはり頭抜けていたと思います。
 以下は女性が主人公の作品が多く、7位の青春小説も含めてきりっとした気持ちの良い作品が並びました。5位の明るい怪奇趣味も底抜け楽しかったです。
 そのほか、横山秀夫を彷彿させるサスペンスたっぷりな「ミッドナイト・ジャーナル」、痛快な娯楽作「疾(はし)れ、新蔵」などが印象に残りました。

・海外作品
 今回選んだ5作はいずれも長尺ですが、長さをまったく感じさせない面白さがありました。
 1位はノーベル賞作家の作品ですがとにかく読んで面白い物語です。2位の静かな余韻にも感動、3位以下はエンタメ度の高いアメリカンミステリが並びました。
 そのほか、厭世的な雰囲気の「拾った女」、静かな余韻の「その雪と血を」、笑って泣ける「幸せなひとりぼっち」などが印象に残りました。

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◆ 2015年

◇国内作品BEST7
順位書  名寸      評      等
朝が来る 前半は泣ける。後半は読む続けるのもつらい話だが、とにかく最後が素晴らしい。朝が来ると思わせてくれます。自信もって1位に推す感涙のドラマです。
弧狼の血 とにかく型破りのキャラクタ造形に加え、巻頭から緊迫感に満ちたスピード感のある全編一気読みの面白本だ。黒川博行を超えたか。
ミステリ、青春もの、大河、異国と小説のいろいろな要素をこれでもかとぶち込んだ物語。とにかく面白い。直木賞受賞も納得(これも結構珍しい)の一冊。
土漠の花 凄い!凄い!冒頭からラストまでまさに死闘の連続で、ぐいぐい押しまくる冒険アクション小説。戦闘に不慣れな自衛隊を襲う危機という設定が生きている。
小さな異邦人 8つのミステリ短編が収められているが、いずれも緻密に組み上げられた見事な作品ばかりという驚きの作品集。連城作品らしさもしっかり。
インドクリスタル 久しぶりに作者らしい作品を読んだと感じた、読み応え満点の力作。以前の篠田作品らしい設定、仕掛け、展開の面白本でした。
永い言い訳 妻に突然先立たれた浮気夫の茫然自失となった状態が実にリアルで、感情がもろに吐露されるような描写だが、全体の印象は寒々しく感じるのが作者らしいところ。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
シリーズ3作目で1作ごとに面白さが増してとうとう1位になりました。単なる捜査ものでないミステリドラマとしてたいへんに読み応えある作品に仕上がっている。
紙の動物園 作者の短編15編を集めた日本オリジナル編集本。ジャンル、設定など実にヴァラエティに富んだ選集でうれしい驚きに満ちている。
神の水 水を巡る近未来における争いという設定はSFだが、中身はスリル満点、ハードアクション連発の大活劇犯罪小説でした。SFが苦手な人も関係なし。
世界の終わりの七日間 待ち望んでました、終末ミステリ3部作の完結編。小惑星衝突前一週間の物語は十分満足のいくもので終わりました。荒廃した終末感たっぷりの描写がいい。
ありふれた祈り 設定、人物造形、展開等、手を抜いた所が全くないしっかりとしたミステリドラマ。淡々とした前半も飽きさせることはなく、後半の急展開も見事。



□2015年を振り返って

・国内作品
 今年のBESTは7本。良作は多かったけれど、BESTとして挙げるのはここまでです。
 感涙ものの1位は、ほかにどんな作品があってもこれを1位に置きたいと思わせる作品。2位は予想を超えた驚きの面白本でした。
 3位は青春小説の体裁ながらスケールの大きさに脱帽。4位から6位も面白度では引けをとらない作品が並びました。
 そのほか、心理ドラマ「水やりはいつも深夜だけど」、切れ味鋭い「機龍警察 火宅」、深刻な話をソフトに語る「長いお別れ」、本格ミステリ「王とサーカス」などが印象に残りました。

・海外作品
 今年は5作を挙げました。順位は付けましたが群を抜いたものはなく、5作ともすべて横並びの1位という感じです。
 ミステリドラマ2作に対し、SFまたはSF仕立てが3作も並んだのが今年の特徴でしょうか。ハードSFは苦手ですが、こういうエンタメに振った作品は大歓迎です。
 その他、淡々とした静かな筆致だが激しい「低地」、リアルなフォト・ドキュメンタリー「あなたを選んでくれるもの」などが印象に残りました。

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◆ 2014年

◇国内作品BEST7
順位書  名寸      評      等
恋歌 昨年一作だけ”四つ星半”を付けた作品。波乱に富んだ、たいへんドラマチックで激しい物語であり、かつ恋情がほとばしるような恋愛小説。見事な直木賞受賞作でした。
破門 どれを読んでも面白い「疫病神」シリーズの中でも最も面白いのではないかな。掛け合い漫才だけじゃなく、読み手を絶対に飽きさせない展開も凄い。作者は「後妻業」もタイムリーでした。
櫛挽道守 櫛職人の父親の背中を追って、ひたむきにまっすぐに生きていく女性の苦難と喜びの物語。幕末期の田舎町と一家の空気が感じられる小説です。
エブリシングフロウズ 中学生を主人公にしたとても素直な作品で好感が持てました。行動、態度等々現代の子どもたちらしさが感じられた作品です。
星々たち 設定から何からいかにも桜木紫乃の作品で、生きていく女たちの哀しみが星のように瞬いている。「夜空のブルース」とか「星のブルース」という名の曲を聴いている感じです。
スタープレイヤー 始まりは陳腐なゲーム小説のようだが、読み進めると無限の面白さが広がっていく。前半の面白さだけなら今年一番かも。
ミチルさん、今日も上機嫌 40代半ばのバツイチの美魔女というあまり小説の主人公には向かないようなキャラだが、読んでいて前向きになれるような変な小説。お仕事小説としてもGOOD。


◆海外作品BEST7
順位書  名寸      評      等
秘密 600ページを超える長編だが、冒頭の衝撃から結末までミステリの醍醐味を満喫させてくれる作品。作者があらゆる手練・手管を使って読者を幻惑してくれる。
その女アレックス 各誌ミステリベストワン総なめの感がある作品だが、それも納得。サスペンススリラーにしっかりとした人間ドラマが加えられた希有な作品でもある。
地上最後の刑事 小惑星の地球衝突による人類滅亡の危機まで半年という状況を背景とした正統派警察小説。緊張感をバックにしっかり組み立てられた捜査劇がいい。危機まで3か月の「カウントダウン・シティ」とあわせて3位に。
ゴーストマン−時限紙幣 アメリカンサスペンスアクション大作。派手な娯楽性満点の一気読みの快作です。とても作者のデビュー作とは思えません。
約束の道 父親と12歳と7歳の娘姉妹のあてのない逃避行と、親子を追う2人の男を描くサスペンスに満ちた人間ドラマ。少しずつ深まる親子の絆を描くロードノベル、好きですね。
逃げる幻 70年も前の推理小説で、スピード感とは無縁の悠揚とした語りだが、古さはまったく感じさせないし、その展開にはものの見事に驚かされました。まさに名品です。
闇の中の男 ポール・オースターがこんな娯楽作を、とちょっと驚きのリアルな作中作がある構成の物語。作者近年の最高作と感じ、どうしてもベストに挙げたかった作品です。



□2014年を振り返って

・国内作品
 今年のBESTは7本。四つ星以上はかなりあるが、BESTとして挙げる自分の好みの本はここまででしょうか。
 1位は文句なし、見事な小説でした。2位は相変わらずの大阪弁による漫才だけでなく、展開が流れるような面白さ。3位の主人公のひたむきさは心に沁みます。
 ミステリ主体のページのつもりが特に国内ものの場合、ミステリ作品の比率がどんどん下がってきているようで、自分の好みも変わったということでしょうか。
 そのほか、各誌ミステリベストワン独占の感がある「満願」、話題としてタイムリーな「後妻業」、破天荒な「阿蘭陀西鶴」などが印象に残りました。

・海外作品
 今年は初めて7作を挙げました。どうしても7作挙げたかったというところです。海外作品は国内作品と違い、ミステリ中心のベストとなりました。
 1位は文句なしのまさに”ミステリ”でした。2位も凄い。構成がとにかく見事です。3位は設定だけで驚かす作品ではなく見事な警察小説になっていました。
 その他、挿絵も楽しい中世冒険小説「三銃士の息子」、幻惑される「コンプリケーション」、ドラマチックな「沈黙を破る者」などが印象に残りました。

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◆ 2013年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
巨鯨の海 昨年刊行本の中では作品の質としても面白さでも図抜けた作品。人間と自然の営みが、これほど壮絶に、かつ静かに余韻深く描かれた作品はちょっと無いと思いました。
工場 表題作はちょっとSFっぽい設定の不思議な魅力を持った作品だが、併載のお仕事小説がリアリティに満ちた鮮やかな出来栄えでとりわけ素晴らしい。
なぎさ 人が生きていく中での、人間同士のぶつかり合い、いろいろな関係性が描かれ、つながることの大切さが静かに沁みてくるような物語。
ヨハネスブルグの天使たち SFはちょっと苦手でBESTに入れることもめった無いのですが、この作品は、その発想、構成、世界に通用するSFだと思いました。
ホテルローヤル 男と女の濃密な空間であるラブホテルを舞台にしながら、独特の寂寥感が漂い、作者の乾いた筆致の世界が癖になりそうです。直木賞受賞作。
海と月の迷路 長崎の軍艦島を舞台にした息詰まるサスペンスに満ちた捜査劇。最近、こういったオーソドックスなミステリが減っているようで残念です。
一刀流無想剣 斬 とにかくめちゃめちゃ面白い。冒頭からラストまでまさに一気呵成に突っ走った娯楽活劇。ただアクションだけで保たせていないところも凄い。
家族写真 これはいかにも荻原浩らしい軽妙な味の家族小説集。1作だけ異質な「プラスチックファミリー」という短編、実はこれが一番気に入ってます。泣かせます。


◆海外作品BEST6
順位書  名寸      評      等
夜に生きる 久しぶりに大作を読んだ満足感に浸れました。大河ギャングドラマでまさにルヘイン版「ゴッドファーザー」です。降りそそぐ陽光の中での非情な人間ドラマです。
暗殺者の正義 迫力満点のアクション場面がもうこれでもかというくらい連続して止まらない。娯楽アクションに徹した面白本です。この前作、「暗殺者グレイマン」も凄い。
チャイルド・オブ・ゴッド タイトルからして冒とく的で、とんでもなく暴力的で禍々しい物語ですが、小説としての完成度は半端ない。40年前にすでにマッカッシーの世界は完成されていたのですね。
緑衣の女 昨年の「湿地」に比べるとミステリとしてかなり完成度が上がっているようです。暗く、重いテーマの物語ですが、面白さもしっかり持っています。
遮断地区 ミステリの女王が挑んだ社会派ドラマとも言える物語ですが、冒頭からじりじりと緊張感が持続して一気に発火点につなげていく見事な展開です。
シスターズ・ブラザーズ 装丁が実に面白いですが、もちろん中身もカバーに負けない面白さ。情け容赦ない殺し屋兄弟の話ですが、気のいい弟の語りがコミカルです。



□2013年を振り返って

・国内作品
 今年のBESTは8本を挙げました。
 1位はさほどページ数の多い作品ではないですが、大迫力、重量級と感じさせる作品です。まさに圧倒されました。2位は不思議な魅力。今後の作者には期待できそうです。
 3位以降は家族小説、SF、ミステリ、剣劇ものとさまざまなジャンルのものを取り上げました。今年の注目は桜木紫乃だったでしょうか。長編が読みたいところです。
 そのほか、角田光代の拳闘小説「空の拳」、ツボを押さえた娯楽もの「政と源」、新しい発見的な「光秀の定理」が印象に残りました。

・海外作品
 1位はとにかく読み応え十分な風格漂う大作。2位は今時こんな面白い小説があったのかと驚いたアクションです。
 3位はお気に入りマッカーシーの古い作品が邦訳されてありがとうという感じ。
 その他、洒脱な「こうしてお前は彼女にフラれる」、重いテーマに挑む姿勢に敬服する「コリーニ事件」などが印象に残りました。

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◆ 2012年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
64(ロクヨン) 作者お得意の緊張感溢れる警察ミステリが完全復活した。階級や縄張り意識の圧倒的に強い職場で小舟のように翻弄される広報室の姿が600ページ超描かれ圧倒されます。
晴天の迷いクジラ 生きていくのに疲れた者たちが彷徨いの果てにかすかに見える希望。この手の物語はなにか、読んでいて気持ちが入ってしまいます。ジワッとくる秀作です。
竜虎 満州を舞台にした大陸冒険活劇ロマンの三部作完結編。かっこいい男とかっこいい女の、血湧き肉躍る日本版の西部劇です。
海の見える街 カバーの印象から軽い青春ものかと思っていたら、上辺をなぞるような軽さはなく、現代の若者の関わり合いがしっかり描かれていて好感を持った作品。
起終点駅 これまたカバー絵の雰囲気とは異なる物語で、人のつながりについて「無縁」をテーマとした各短編は潔さを感じさせ、質の高い作品集と感じた次第。
結婚 深みには少々欠けるが、作者の作品の中では娯楽度がかなり高く、社会ドラマとしてもなかなかよくできており、読んで面白いものに仕上がっている。
楽園のカンヴァス 各所で絶賛されている作品で、真贋鑑定の積み重ねがほとんど描かれていないなど私は不満が多かったものの、スケールの大きな設定、ドラマチックな筋立てはやはり見事。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
極北 極限の環境でのサバイバルものではあるが、重苦しさより、とにかく読んで面白い物語に仕上がっている。娯楽性の高い社会派冒険小説としてお薦めの一品。
償いの報酬 近年、高齢の作家の健在ぶりを示す作品が出てきているが、スカダーにまた会えるとは!そして、その出来栄えも往年の作品群に劣らぬ素晴らしいものでした。
占領都市 TOKYO YEAR ZERO U 戦後の混乱期に起きた有名な事件を題材にしたシリーズの2作目だが、その文体は前作よりいっそう狂気の度合いが増した。かなり読者を選ぶ作品だが、私はしびれました。
ブルックリン・フォリーズ オースターの作品の中ではかなり気楽に楽しめる本ではないだろうか。人間同士の関わり合いを、ブルックリンの空気を気持ちよく感じながら楽しめる。
解錠師 解錠という特殊な技の場面はむろん面白くスリリングだが、その場面だけの作品ではない。人物描写もしっかりしており、ミステリとして完成度の高い作品。



□2012年を振り返って

・国内作品
 今年のBESTは7本を挙げました。面白い本はたくさんありましたが、BESTに列するのはどうかという小粒なものが多かったようです。
 1位は作者久しぶりの大長編ですが、圧倒されました。2位も傑作だと思います。心が震える物語。
 3位は冒険もの、4,5位はドラマと挙げると、今年は昨年とまるで異なり時代小説が全然入っていないことに気がつきました。かろうじて「無双の花」が印象に残った程度。
 そのほか、TVドラマも面白かった「鍵のない夢を見る」、波瀾万丈の「銀婚式」が特に印象に残りました。

・海外作品
 1位は極寒の地での大冒険ドラマで娯楽性十分な作品。2位はスカダーの新作というだけでも驚きなのに、こんなに面白いとは。
 3位は待ち焦がれたシリーズ第2作で、混乱、絶望、狂気の渦巻く超暗黒小説。読むにはそれなりの覚悟が必要です。
 その他、昨年1位にした作品の続編「罪悪」、相変わらず絶好調ウィンズロウの「紳士の黙約」など、面白い本の多い年でした。

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◆ 2011年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
漂砂のうたう 武士だった男が維新による時代の急変を受け社会の底辺に身を落とし、諦めを身の纏いつつ生きる姿、そして彼が属する遊郭の様子や人間模様が実に見事に描かれた傑作。
ジェノサイド まさに2011年のミステリ、エンタメ本を代表する超面白本。国内ものには珍しいスケールの大きさと、興味をひきつける設定と展開には唸りました。600ページでもまだもっと読みたい。
夜去り川 自分の好みだけならこの本が2位。時代的には1位の「漂砂のうたう」に近く、非常に不安定な時代に生きる人間たちの姿がしっかり、じっくり描かれていて素晴らしい。
絆回廊 新宿鮫] シリーズ10作目になるのにいささかも面白さが衰えないのは驚き。新たな展開で鮫島警部の環境も大きく変化し、またまた次作が待ち遠しい。
ばんば憑き 職人”宮部みゆき”の本はいくら面白くてもここには挙げないつもりだったが、やはりベスト5には載せとかないと。なにか面白い童話を読んでいるような気分にさせてくれる。
川あかり 時代小説ではあるが、人一倍臆病な青年の成長物語としてたいへん爽やかな作品。作られた世界ではあるが、はらはらさせられ読後はほっと暖かくなる物語世界。
統ばる島 自分の見たことも聞いたこともないような話が味わえるのも読書の楽しみだが、この本も現代の沖縄が舞台ながら、まったく知らない土地の実に面白い話を楽しみました。
月の上の観覧車 たまにはこういう本もベストに挙げてみたいと思いました。派手さ、面白さとは無縁ですが、読み返し味わいたい物語ばかり。人生を考えるような年になったのかもしれません。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
犯罪 薄い体裁の中に11のこれまた短い話が整然と並んでいる、中身は圧倒的な人間ドラマが詰め込まれていた。読後誰もが、罪とは、裁きとは、などと考えずにはいられなくなる中身の濃い本でした。
逃亡のガルヴェストン 逃避行というか、この手の話が好みなんですね。当たりの多かったポケミスの中で最も好きなのがこの本。ダークな物語なのに涙が出るようなラストが堪らない。
夜明けのパトロール このホームページのBEST選びでも常連のウィンズロウの新シリーズ第1作。読者を楽しませる術を心得た面白本です。すでに第2作も出ているようで、邦訳が待ち遠しい。
エージェント6 レオ・デミドフのシリーズ最終作。3作ともスケールの大きな物語で、サスペンス満点、娯楽性も十分でした。最後は大団円にふさわしい感動が待っています。
忘れられた花園 3位、4位のような派手さとは無縁だが、20世紀初頭のイギリス領主館という舞台設定の雰囲気が見事で、本の造りも凝っているし、長さを少々我慢しても味わいたい作品。



□2011年を振り返って

・国内作品
 今年のBESTはジャンル的にもヴァラエティに富んだラインナップとなりました。この中でBEST4までは別格です。すんなりと決まりました。
 1位と3位は翻訳ものでは味わうことのできない、日本の時代小説らしい作品で、人情の機微に触れるような、面白さだけではない物語。
 そして2位のスケールの大きさには圧倒されました。ぜひ映画化してほしい作品です。それもハリウッドで。
 他に、古書好きが狂喜する久しぶりの「本棚探偵の生還」、幻想的な世界を見事に見せてくれる「11(eleven)」などが印象に残りました。

・海外作品
 1位は、本は薄いが中身は濃い。装丁の不気味さそのまま、人間という生き物の複雑怪奇な様が淡々と描かれた作品です。
 2位は絶望の逃避行の中に一条の光を見る物語、3、4位はランクインの常連ですが、徹底した娯楽性にはいつもながら感心し、存分に楽しみました。
 それにしても今年のハヤカワポケミスは充実してましたね。その中で「二流小説家」だけ未読なのはまったくの不覚。
 他に、ジョン・ハートあたりを思わせる「ねじれた文字、ねじれた路」、一気読みのサイコ・スリラー「ブラッド・ブラザー」などが印象に残りました。

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◆ 2010年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
天地明察 感動的な物語というのはさほど珍しくはないが、本作は物語のスケール、主人公の情熱、そして読んで面白いという点でも抜きん出た作品。誰にでも薦められる好編です。
マルドゥック・スクランブル〔改訂新版〕 これが「天地明察」と同じ作者と言うのも驚きのSFで、前半の戦闘シーン、後半のカジノでのトランプによる死闘でほとんどのページが費やされているが、サスペンス満点の大拍手。
星と輝き花と咲き 大変珍しい明治期のアイドル物語だが、今と変わらぬアイドルとその周囲の喧騒ぶりが実に新鮮でかつ面白く描かれている。「円朝の女」と合わせ、3位にランクインです。
リテイク・シックスティーン SFものの体裁をとった青春小説だが、作りものでない実に自然な高校生の姿が描かれており、大変好感が持てる。休業して故郷に帰っているという作者の復帰を楽しみにしています。
叫びと祈り 世界本格ミステリ紀行といった趣きで、各短編とも大胆な仕掛けとしっかりした推理が楽しめる娯楽作。こういう趣向もあったんだと感心しました。
貴族探偵 本格推理ものは嫌いじゃないけどちょっと苦手な私ですが、主人公?のふざけた設定が傑作。同ジャンルの「謎解きはディナーのあとで」も良かったが、よりこちらの方が好みなので。
北帰行 長年水準以上の作品を書き続ける作者だが、最近は警察ものに偏っているのは冒険小説に心躍った私としてはちょっと寂しい。本作もサスペンス満点で十分楽しめましたが・・・。
影法師 さしたる話題にもならなかった時代小説だが、まぁ読んでみなと薦めたい作品。高い娯楽性を保ちながら、武士の、男の友情を読みやすく描いている。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
ブラッド・メリディアン ストーリー、表現など良くも悪くも極端な作品で、誰にでも気軽に薦められる本ではないが、こんな残酷なものが文学として認識できる域にあるというところがとにかく素晴らしい。
卵をめぐる祖父の戦争 もはや笑うしかないような極限状況での悲劇を笑い飛ばした青春小説。メッセージを内に秘めた娯楽性満点の作りは見事。新生ポケミス最初の秀作。
ラスト・チャイルド ミステリとして物語の面白さもさることながら、登場人物がそれぞれしっかり描けているので実にドラマチックで、心に迫る物語になっている。
フランキー・マシーンの冬 このホームページを開いた頃からウィンズロウの作品を読んでいるが、ますます面白味を増している感じ。かなりの長尺もとにかく娯楽性満点で仕上げる技に感服。
失踪家族 以前に家族が行方不明になって・・・という設定が今年は多かったが、いずれも見事にドラマチックな衝撃作となっている。語り手の心理が巧みに描かれサスペンス満点の作品。



□2010年を振り返って

・国内作品
 今年は冲方丁の年でした。2作とも圧倒的な面白さですが、人間ドラマと息詰まるような死闘劇、その分野も面白さの質もまるで異なるのが凄い。
 3位以下は順位がどう入れ替わってもあまり変わりないほどの差ですが、様々なジャンルが入って、ヴァラエティに富んだ顔ぶれになりました。
 3位、松井今朝子の地味ながらコンスタントな水準の高さはもっと評価されていいと思っています。
 他に、謎めいた写楽の実像に迫る大作「写楽 閉じた国の幻」、作者らしい鋭さが快感の「妻の超然」などが印象に残りました。

・海外作品
 海外ものは、もともと翻訳段階で選別されるので面白い作品が多いのも当然でしょうが、雑誌のBEST選びで上位の「愛おしい骨」より面白い本がこんなにあるぞ、という感じですね。
 1位は、人間にこんなことができるのかというほどの残酷な世界ですが、無言で突きつけてくるような作者の姿勢に圧倒されました
 2位はメッセージ性まで笑い飛ばしてしまうような見事な悲喜劇、4位は徹底した娯楽性、3位、5位はドラマとしての面白さに満足しました。
 他に、狂気の「ベルファストの12人の亡霊」、クックの本領「沼地の記憶」、アメリカン・アクション「エコー・パーク」などが印象に残りました。

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◆ 2009年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
IN(イン) しつこいくらいに人の心の内を鋭利な刃物で抉っていくような、作者独特の語り口がたまりません。読み手を選ぶかもしれませんが、私は好きですね。この1位は完全に私の趣味。”愛憎”という言葉がぴったりの作品。
暴雪圏 暴雪の中、犯罪者とともに一軒のペンションに閉じ込めらていく人々を描くサスペンスで、設定は珍しくもないが、徐々に緊迫感を増していく描き方が抜群の巧さで面白度は最高。
犬なら普通のこと 血飛沫舞う犯罪ものだが、沖縄の熱い太陽のもと、全編ゆるいユーモアに包まれ、大きな穴の空いた杜撰な犯罪計画の顛末が一気呵成に描かれる面白本。
オリンピックの身代金 作者は私よりも若いのに、昭和39年の高揚した日本社会の世相、人々の姿がよく出ているのにまず感心。犯罪劇としても、開会式に向け、いやがうえにも高まっていく緊張感がたまりません。
造花の密 騙されることが楽しめる作品。これくらいドカンとやってくれると嬉しいですね。一転スタイルを変えた後半も読みごたえあり。さすがベテラン作家です。
骨の記憶 50年に及ぶまさに波乱万丈の物語で、500ページの長尺全編、たっぷり楽しませてくれる。理屈抜きに面白い物語を読みたければこれでしょう。
逃亡者 謎また謎の物語が得意の作者ですが、この作品はミステリというより、女犯罪者の長期間にわたる逃亡劇で、新味はないが、人間ドラマとして読ませます。
道絶えずば、また 作者の諸作はいずれもあまり話題にならないが、水準を超えたものばかりで、私は気に入っています。とりわけ本作品はミステリ色が強く、時代もの、歌舞伎ものはどうも、という方も十分楽しめるはず。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
犬の力 えっ、これがウィンズロウの作品、と驚くほど強烈な悪の世界が、ユーモアのかけらもなく、力技で読者を押しまくります。まさに戦争物語ですが、現実にメキシコでは年間6000人も麻薬抗争で死んでいるとか・・・恐ろしい。
グローバリズム出ずる処の殺人者より 自分の想像を超えた世界や、風変わりな語り口が楽しめるのも、本を読む楽しみのひとつですが、中国首相あての手紙という形式といい、インド社会の現実といい、なかなか読めるものじゃないという感じです。
グラーグ57 旧ソ連社会の内情という社会派要素を盛り込んだ前作に対し、今回は時代は同じでも、徹底的にエンタメに徹した物語です。映画化すれば巨額の制作費がかかりそうなスケールの大きさです。
幻影の書 数奇な人間ドラマというのはこういう物語のことを指すんでしょう。しかし、読み手を楽しませることに徹した作品ではないのでちょっと手強いかもしれませんが、いい頭の刺激になります。
極限捜査 流行なのか、これも冷戦時代の東ヨーロッパの人権が抑圧された社会における捜査官を描いた物語だが、より重く暗い印象の作品。むろん、緊迫感に満ちた警察小説として十分楽しめます。



□2009年を振り返って

・国内作品
 今年はこれぞベスト1という作品がなかなか決まらず、いっそ空席とも思いましたが、なんとか順位を付けました。8位まで団子状態、どれが1位でも同じです。
 面白さではなかなかの本が多かったと思いますが、思わず惹きつけられるような人間的魅力に富んだ主人公が少なかったですね。8作いずれもベテラン作家の作品というのも面白い。「ダブル・ジョーカー」とか「龍神の雨」、「学問」とかも読んでるんですがね
 他に、ミステリの香り高い「銀座ブルース」、火星探査旅行を題材とした「ドーン」、登場人物がみな生き生きとした「るり姉」などが印象に残りました。
 なお、小説に限らず私が09年に購入した本のBESTは、小鷹信光著「私のペイパーバック−ポケットの中の25セントの小宇宙」でした。

・海外作品
 国内ものと異なり、読みごたえのある作品が多かった年でした。スケールだけの違いではなく、物語の面白さを感じさせるものばかりです。
 1位は、圧倒的な暴力・悪の世界ですが、とにかくその迫力・スケールにやられました。
 3位、5位もそれに連なる作品ですが、一方、2位、4位は単なるエンタメ小説とは一線を画しながら読み手を楽しませ満足させてくれる作品。
 他に、娯楽作「オッド・トーマスの霊感」、ハードボイルドの一品「川は静かに流れ」、二番煎じとならず昨年の初作同様に面白い「荒野のホームズ、西へ行く」などが印象に残りました。

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◆ 2008年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
裏切り涼山 これぞエンタテインメント!という感じの痛快娯楽小説。おのれの信念に従って生きる熱い男の物語は読んでいて気持ちがいい。登場人物からストーリーまで曖昧さのないきっぱりしたところが魅力。
出星前夜 一地域における歴史上の大きなうねりを事細かに、かつそれに関与した人々と彼らの心情までしっかりと描写するその筆力に圧倒される。娯楽性では1位に譲るが、作品世界では完全に凌駕している。
そろそろ旅に 十返舎一九と称することになる主人公の、人間味が少々溢れすぎるくらいの生き様を描いた物語で、うらやましくなるほどの奔放さと物語の面白さに感心。
黄金の王 白銀の王 この作品もまた主人公の人間的魅力がたまらない。現実の施政者にはとても求められないような、国を思い、人民を思い、信念を貫く姿の素晴らしさに魅了される。
ゴールデンスランバー スケールの大きな娯楽小説。大がかりな警察の追及に、逃げて逃げて逃げまくる主人公の、スリルとサスペンスに満ちた物語は、まさにページをめくる手が止まらない。
ボックス! 青春スポーツものというと、ただ頑張れ頑張れのスポ根ものとか、自己中心的な青臭い話になりがちだが、これは物語の面白さが際立っている。次はどう展開するか、本の厚みを感じさせない面白本。
みのたけの春 時代の波に翻弄される周りの若者たちに対し、ひたすら”みのたけ”に徹する主人公は、しかし憶病でも年寄りくさくもなく、前向きに懸命に生きている。いい小説を読んだと感じさせる、のびのびした筆致が好ましい。
犬身 あり得ない設定にも何の違和感も感じさせないところがまず見事。設定の奇抜さで読ませるものでは断じてなく、その設定の中で、実に生々しく、濃密に、かつ面白い物語が展開していく。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
ザ・ロード あらゆる生物が死に絶えていく終末世界は何らの説明もないゆえ、様々な想像をかきたてる。父と子の道行の非情さを、外見だけから”子連れ狼”などに譬えるような見方はやめてほしいところ。
北東の大地、逃亡の西 短編の多くが犯罪者を描いたものだが、法律違反とか罪人とかにテーマがあるわけではない。その人間を、その生活をとにかくリアルに描く、それが読む者の心に響いてくる。
チャイルド44 スリルに満ちた娯楽小説に社会派の要素を巧みに注ぎ込んで、見事にブレンドしたもの。旧ソ連を舞台とした設定が秀逸で興味をそそり、上下巻を通して面白さが持続する。
20世紀の幽霊たち 奇想、恐怖、SF、幻想、さまざまなジャンルがてんこ盛りの短編作品集。16編もありながら、これはだめだ、というものが見当たらない。これからは息子の時代になったか。
消えたカラヴァッジョ 美術品をめぐるミステリーというのはジャンルが確立されていると思うが、これはノンフィクション。しかし練り上げられた創作ものより数段面白いのではないか。人間が群れてくる世界はどんどん複雑怪奇になっていくことがよく分かる。



□2008年を振り返って

・国内作品
 今年もベスト8まで選びました。今年は特に、信念を貫く者、自分の生き方に正直な者等々、主人公が人間的魅力に満ちた作品が多かったような。
 思い通りにならない世の中で、芯の通った人間の姿は、読んでいて実に気持ちがいい。しかし主人公が男ばかりで、かっこいい女性の作品が見られなかったのは今思えば残念でした。
 各誌ベスト10ランクインの作品もけっこう読んでいるつもりですが、上位に入れるような作品とは思えないものも多いですね。
 他に、忍者の世界に材を置いたアクション娯楽巨編「忍びの国」、作者独特のタッチで堕ちていく若者をリアルに描く「ばかもの」などが印象に残りました。

・海外作品
 今年は5本を選びましたが、どれも本当に見事な作品ばかりで、設定などはシンプルなのに、国内ものとは一回りのスケールの違いを感じました。
 1位は、読み始めてすぐこれは今年のBEST1と感じ、読み進めてそれが確信になった小説です。
 2位、4位は短編集ですが、2位が人生を鮮やかに描いたところが、4位はその多彩な技に圧倒されました。
 他に、シンプルな徹底娯楽作「聞いてないとは言わせない」、淡々とした中に明確に人生を見せる「見知らぬ場所」、奇抜な着想以上に本編が面白い「荒野のホームズ」などが印象に残りました。「ティファニーで朝食を」も素晴らしかったが、再訳のため選考対象外としました。

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◆ 2007年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
赤朽葉家の伝説 300ページ足らずの物語だが、とんでもない大作を読んだ気にさせる大河小説。よくもこんなお話を思いつき、読んで面白く表現できるものだと、ほとほと感服しました。
メタボラ いかにも桐野夏生らしい、緊迫感に満ちた人間ドラマ。遠慮会釈なく、生のぶつかり合いを、南国的なゆとり、ユーモアのある沖縄弁というオブラートにうまく包みながら、ガンガン見せてくれる。
夜は短し歩けよ乙女 あと一歩で「本屋大賞」を逃した作品。中身は青春ファンタジーだが、ジャンルも、読者対象も、枠を超えた面白さを持っている。ただ、全体に"奇妙な世界"でもあるので、そのノリについていけないと苦しいかも。
夜は一緒に散歩しよ ホラーです。めちゃくちゃ怖い。でもページを捲る手が止まらない、怖いもの見たさってこういうことかと分らせてくれる怪談。
映画篇 実際の名作映画を題材に取った短編集。こじつけでなく、巧みにその映画を取り入れて無理がない。素敵で素直でカッコいい作品集でした。
変身 ひどい醜男がある朝目覚めたらとんでもない美男子になっていた、なんていう設定はともかく、外見は変わっても主人公の純情朴訥ぶりが泣かせます。嶽本節が全開の怪作。
夜想 この物語もまた突拍子もない設定だし、宗教団体の話だとなんとなく筋書きが読めてしまうものだが、本作は人間ドラマとしてたいへん読み応えのあるものになっている。
花宵道中 久しぶりにランクインした時代小説だが、江戸時代、花街という舞台に名を借りた女たちの激情がページからほとばしり出てくる激しい物語。連作短編で、それぞれの適度なつながりも見事。


◆海外作品BEST4
順位書  名寸      評      等
TOKYO YEAR ZERO まずは、体の中を蟲が這っているような、内から声が迸り出るような文体にまいりました。ただし、ストーリーも、前後の流れも十分にこなれているとは言えず、かなり好みは分かれる作品と思う。
復讐はお好き? 1位とは異なり、こちらはだれが読んでもその面白さは保証付き。個性あふれる登場人物たちに、スリルに満ちたストーリー、ユーモアあふれる語り口と、文句なしのエンタテインメント。
ハリウッド警察25時 昨年の「あなたに不利な証拠として」と系列は同種だが、こちらは舞台がハリウッド、面白いエピソードには事欠かないところゆえ、娯楽性も高い。
血と暴力の国 殺人が連続するような話だが、サスペンスに富んだ物語は十分な娯楽性も併せ持っている。しかしその奥には、アメリカの現実の病巣を的確につかんだ作者の郷愁と嘆きが明確に読み取れる作品。



□2007年を振り返って

・国内作品
 今年もベスト8まで選びましたが、5位まではすんなり、あとは少々小粒ですが、好みで8位までランクインとしました。
 その中で1位にしたのは奇想大河家族小説。物語の面白さに圧倒されました。
 2位は、作者の特徴が存分に発揮されたもので、ミステリー色を織り交ぜた人間ドラマとして会心の作です。
 その他、ファンタジー、ホラー、社会派ドラマ等々、ヴァラエティにとんだ顔ぶれとなりました。
 他に、ライトコメディの「美晴さんランナウェイ」、奇想の「秋の牢獄」、力技の娯楽作「悪果」などが印象に残りました。

・海外作品
 今年はベスト4まで。特に上半期が、私の期待が大き過ぎたのか、話題や前評判の割に今ひとつと感じられたものが多くて低調でした。
 1位は、その熱にうかされたような語りには好き嫌いがあるでしょうが、私はその衝撃的な文体に魅せられました。
 2位は、その徹底した娯楽性に感嘆です。500ページ以上を突っ走るサービス精神満点の作品。
 他にクックの「石のささやき」に熟練の巧さを、そして86歳、フランシスの「再起」の完成度には本当に驚かされました。

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◆ 2006年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
アイの物語 SFの1位は自分でも意外だが、人間と人間に近づいたロボットとの限りなく人間ドラマに近い感動作。ここまで行くにはまだかなり先だろうが、十分なリアリティを感じさせる。
DIVE!!(ダイブ) 昔のスポーツ根性ものとは違い、とにかく楽しんで自らの立てた目標に向かって熱く闘う少年たちのエネルギッシュな物語。そのハラハラドキドキ度は猛烈高いぞ。
ゆりかごで眠れ なんと面白い話を作るもんだと感心してしまうほどのストーリー。カッコいい主人公、破天荒な物語と娯楽性満点の作品で、500ページを一気読み!
ゆれる 未見ですが映画のノベライズ。しかし1冊の本として素晴らしい作品。言葉では埋められないほどの感情のうねりがジワジワとしみ出てくるような、とてもスリリングな物語。
ジウ−警視庁捜査班特殊係 2人の女性警官を主人公に配した、見せる警察活劇小説。さりげなく彼女たちの日常部分まで描き、感情移入させる。全3作だが、犯罪者側の設定がどんどん×になってゆき残念。
狼花−新宿鮫\ 5年ぶりの新作だが、その面白さはいささかも衰えていない。話はやや小ぶりだったが、過去の宿敵と決別し、今後の新たな展開を期待させる。
シャドウ 本格ミステリーに分類される類の作品だが、娯楽性も十分で、変幻自在の展開は騙される面白さを感じさせてくれる。
トーキョー・バビロン 相変わらずの騙し騙され馳ワールドだが、本作も絶好調。金の亡者たちがこれでもかと押し寄せる百鬼夜行の世界をたっぷりと見せてくれる。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
荒ぶる血 うわぁ、なんだこれは!と驚くほどの超おもしろ娯楽活劇小説。理屈なんかいらない、問答無用で、面白ければ文句無いだろ、と叫んでいるような本だ。
天使と罪の街 毎回ベストに選んでしまうボッシュですが、ただ面白いだけでない、良質のドラマをこれだけ続けていることに本当に敬意を表しますね。
あなたに不利な証拠として 死と隣り合わせの極限状況が続く中での女性警官たちの生々しい人間ドラマ。批評家たちの推薦もこれはホンモノでした。
ドラマ・シティ 他のペレケーノス作品に比べて凄惨な銃の現場が少なめで、その分人物や人々の交流の描き方の厚みが増して好印象だった。
出生地 日本を舞台にした海外ミステリーでこれほど違和感が無いのも珍しい。その点を加味しなくてもサスペンスあふれる物語が楽しめる。



□2006年を振り返って

・国内作品
 ベスト8まで選びましたが、全体に小粒で、これ!というものは無く、ベストワンは空席にしようか迷うほどでした。
 その中であえて1位にしたのはSF。ロボットがリアリティを感じさせる時代になって、なおその想像力に驚かされました。
 2位は以前の作品の文庫化ですが、「風が強く吹いている」など今年多かったスポーツ青春ものの代表として。
 その他、5位「ジウ」は3部作+「ストロベリーナイト」により。第1作の水準と衝撃が続けば1位もありでしたが、設定が中途半端になっていったのは残念。
 他に、一昨年2位とした絲山秋子の「沖で待つ」、挿絵も素敵な大人の童話「ミーナの行進」などが印象に残りました。

・海外作品
 四つ星作品が6冊しかない、その点では淋しい年でしたが、そのどれもがランクから外せないものばかりで結局5本掲げることに。
 1位は、エンタテインメント活劇小説として、その面白さは半端でないものでした。
 2位はお馴染みのという感じですが、いいものはいい。3位は今年の翻訳ミステリ最大の話題作でしょう。人間が描けている物語は読み応えが違います。
 他に「ながい眠り」がランク外となりましたが、とても半世紀前の作品とは思えないものでした。

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◆ 2005年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
サウスバウンド 傑作家族小説。登場人物はかなり外れた個性派揃いだが、皆、実に生き生きとしており、読んでいてとても気持ちがいいし、楽しく前向きな気分になれます。
犯人に告ぐ 現実にはない設定だと思っていたら最近は警察もマスコミを活用するようになってきたようだ。緊迫感に満ち満ちた、リアルでかつ娯楽性たっぷりの傑作警察小説。
震度0 作者お得意の警察を舞台に、権力欲にとりつかれた男たちのどろどろとした魑魅魍魎の世界を、犯罪ものにも負けない緊張感で全編を貫き通して描いた。
下妻物語・完 映画はめちゃくちゃキワものだったが(かつ面白さも抜群)、桃子の語りで綴られるこの物語も強烈に個性の強い面白本でした。へそ曲がりと前しか見えない2人に乾杯!
古道具 中野商店 物語の流れや奇抜さで楽しませる本もいいけれど、平凡な人と人とのつながりをじっくりと飾りなく描くこの本も好きです。胸に響かせるのに大仕掛けはいりませんね。
君たちに明日はない リストラ請負人という時代的に相当リアルな職業を持ち出してきたが、話の流れも良く、絶対に退屈させない娯楽性重視のつくりには脱帽。
シャングリ・ラ 2段組600ページにわたって疾走するスーパーアクションには本当に疲れましたが、そのパワーはやはり認めざるを得ません。過激なコンピューターゲームも軽く一蹴してしまう凄さです。
弧宿の人 またまた作者の職人技を堪能した気分。800ページを超える長編ですが、7位とは異なり読み進むのに疲れとは無縁。読了して満足感に浸れる物語。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
暗く聖なる夜 これぞハードボイルド!と唸らせる名品です。50歳を越え、人生に悩みつつ、なお自らが納得できないものには意地でも屈しないボッシュの"立ち向かう"姿勢に自らを奮い立たせたくなるような作品です。
回想のビュイック8 とにかく不思議な話、奇妙な物語でスティーヴン・キングの右に出る作家はいませんね。それから人間を見つめる目が温かいことも嬉しい。この作品でも700ページに渡って存分に楽しませてくれます。
蜘蛛の巣のなかで クックの作品はその語り口が独特で、それため続けて読むと食傷気味になってしまうが、やはり上手い。今回は希望のあるラストがとりわけ良かった。
売り込み 興味深い設定と天国から地獄へ、変化のあるストーリーで抜群に面白い物語。自分の知らない世界が読めるというのも読書の楽しみです。
白骨 連続殺人鬼を追う作家と女カメラマンのコンビ。先の読めない追跡行は娯楽性満点の物語で、とにかく面白いことでランクインです。



□2005年を振り返って

・国内作品
 今年も8本。ほかにもランクインさせたいものがありましたが、40冊くらいの国内作品から選ぶのでこの程度がバランスいいかと思いまして・・・。
 1位は少年を主人公にした家族小説の傑作、2位、3位は一転して全編スリルの塊のような警察小説です。
 以下、コメディー、SF、恋愛ものから時代小説まで様々なジャンルが並びました。ジャンルは違えど、とにかく読んで面白いのは間違いない8冊です。
 しかし今年最も残念だったのは、原ォの新作が読めなかったこと。次作は続けて早い時期にと、昨年作者は語っていましたが、やはり無理でしたか・・・。
 他にミステリー系では「天使のナイフ」、「推理小説」、また家族小説の「さくら」などが印象に残りました。

・海外作品
 1位は、ミステリ中心のこのホームページにふさわしいハードボイルドなのが嬉しい。
 2位の巨匠の奇想、3位の技巧派の語りの妙はさすがの感じで、いつもどおりの力を発揮してくれた、とも言えますか。
 娯楽性たっぷりの4位、5位も存分に楽しめました。
 他に「女神の天秤」、「弱気な死人」などが印象に残りました。

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◆ 2004年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
愚か者、死すべし すでに過去の人になりかけていた作者の見事な復活(?)に大拍手。近年のやわなミステリ本ではほとんど拝めないハードボイルドな語り口が堪能できます。
海の仙人 短い物語だが、この心地良さはどう表現すればいいのか。ファンタジーなる架空の存在にも妙に心惹かれるものがあり、気持ちが自然に物語の中に引き込まれていきます。
パンク侍、斬られて候 メインが腹ふり党などというふざけた設定で内容もまたばかげた話でありながら、実にインパクトのある作品で、とにかく一読あれ、という感じ。
鷹姫さま お鳥見女房 シリーズ3作目にしてさらにその筆技に磨きのかかった感がある。時代"劇"としての雰囲気も巧みで、つくりものでない素朴で素直な人情味が感じられます。
ワイルド・ソウル 娯楽要素の目いっぱい詰まったサービス満点のエンタテインメントだが、背景となるアマゾン入植者たちの悲劇にもまったく手を抜いていない点も感心。
黄金旅風 とてもドラマチックな話で、物語を読む楽しさを教えてくれる。人間的魅力に溢れる登場人物たちが実に生き生きと描かれています。
もっと、わたしを まるでテレビの恋愛ドラマのようだが、中身はけっこう濃い。辛らつな台詞の応酬、男と女の感情のぶつけ合いが、時に静かに、時に激しく、テレビよりずっと面白いね。
幻夜 作者お得意の娯楽性たっぷりの犯罪ミステリ。人物描写や背景など深みはないが、とにかく楽しませてくれるという点では一級品。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
ブレイン・ドラッグ 一か月以上かかる仕事も1、2日で、外国語もちょっと聞けばペラペラに、驚異的に脳を活性化する薬の効き目とその恐ろしい代償という悪魔的な物語。作者も薬を飲んだのか、想像を超える面白さ。
夜更けのエントロピー 河出書房新社の奇想コレクションシリーズには今年、大いに楽しませてもらいました。中でもダン・シモンズの傑作短編を集めた本作品集はまさに"奇想"の連続に驚かされました。
シャッター・アイランド 翻訳ものでは珍しい結末が袋とじされた本格ミステリ。もちろんルヘインの作品らしく、悲痛な人間の姿が鋭くえぐられています。
ミッドナイト・ボイス ホラーの大家がその本領を発揮した恐怖小説。題材は平凡だが、雰囲気の盛り上げ方がすばらしく、読者を楽しませる術に長けています。
弁護士は奇策で勝負する 良質の娯楽作。軽いタッチの作品だが、物語の設定から展開、登場人物まで手を抜いたところはなく最期まで十分楽しませてくれます。



□2004年を振り返って

・国内作品
 今年は8本。なんとか8本で、それもここはミステリ中心のページながら、ミステリ系は1位、5位、8位の3本のみでした。
 1位は個人的にも待ち望んでいたというか、もう次は出ないのではと思っていたので、その嬉しさも加わりダントツの1位です。
 2位はジャンル不明のコメディードラマですが、ぜひ多くの人に読んでほしい、心が静かにゆり動かされるような本です。
 以下、時代小説やコメディー、エンタテインメントなど様々なジャンルが並びましたが、やはりミステリ本が少ないのが寂しい。
 面白本を感知する私のアンテナもまだまだ未熟です。ミステリ系のベスト10選びに出てくる本もあまり読んでないしね。
 他に「追憶のかけら」、「太陽と毒ぐも」などが印象に残りました。

・海外作品
 1位は奇想の長編、2位は奇想の短編集。想像もできないような世界を見せてくれた本でした。河出の奇想シリーズにはまだまだ期待しています。
 4位、今年読んだジョン・ソールの3冊はいずれも素晴らしかったですが、代表でこれを。まるで話題にならなかったのがまったく残念です。
 他に「シービスケット」、「サンセット・ヒート」などが印象に残りました。

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◆ 2003年

◇国内作品BEST9
順位書  名寸      評      等
第三の時効 人物造形、ストーリーとも強烈な切れ味と迫力、緊張感に満ちた密度の極めて濃い短編集。背筋が寒くなるような捜査のプロたちのせめぎ合いに圧倒されました。
クライマーズ・ハイ 新聞記者のプライドを賭けた闘いがぎりぎりの緊張感を保って描かれる。航空機事故という大事件の衝撃と紙面作りという内部的争いの対比も面白い。
ZOO 10短編それぞれが異なるジャンルの物語で、かつ、その物語の性格ごとにしっかり驚かせ、怖がらせ、面白がらせるのが凄い。天才的な描き分けという感じです。
博士の愛した数式 殺伐とした物語が多い中、こういう心温まる作品は貴重です。皆が敬遠しそうな"数式"を上手く取り入れ、素直さが好ましい良品。
葉桜の季節に君を想うということ 仕掛けの多いミステリ小説の中でもこんな大仕掛けには滅多に出会えないでしょう。見事にはまりました。もちろん仕掛けだけの作品ではなく、軽快なタッチの面白本です。
流れ星と遊んだころ この物語も5位と同様、途中に大仕掛けがあるが、浮き沈みの激しい芸能界を舞台にした全編に漂う気怠い雨模様の雰囲気が素敵な作品。
千年の黙 異本源氏物語 源氏物語の謎という特殊な題材ながら、分かりやすい展開、魅力的な人物描写で読みやすく、かつ惹き込まれる 娯楽作となっている。
真夜中のマーチ 面白さにおいて外れなしの作者の、期待に違わぬ青春犯罪コメディー。軽快な笑いで楽しめます。「マドンナ」との合わせ技でランクインです。
石の中の蜘蛛 聴覚が異常に亢進した男を主人公に据え、非現実の世界ながら異様な迫力と緊張感で読むものを離さない背徳的魅力の作品。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
サイレント・ゲーム 読み終わった時に、本当に面白く、かつ深みのある物語だったなぁと感じさせる本。作り物なのに上辺だけでない人間たちのドラマに圧倒されます。
シティ・オブ・ボーンズ 魅力的な登場人物に、二転三転して読者を終始惹き付けて離さない展開。実に面白い。これがシリーズ8作目?と驚かされました。
半身 全編暗いトーンで、物語の設定も序盤の展開もさして目を引くものではないのに、妖しく不思議な魅力を感じる作品。アクションに頼らない迫力がじわじわと来ます。
魔女は夜ささやく 巨匠の10年ぶりの作品だが、いささかの衰えも感じさせない。これだけの"物語"を創り出してしまう熟練の技に圧倒されました。
ダークライン 一昨年の「ボトムズ」には及ばないもののミステリー仕立ての人間ドラマとして十分面白い。もう1本「モンスター・ドライヴイン」の突き抜けた恐怖も凄かった。



□2003年を振り返って

・国内作品
 前年に続き9本を選びました。 あと1本ランクインさせるのは納得できなくて"ベスト9"です。
 1位は、謎解きやトリックなどは添え物にした、人を追いつめるプロたちの冷血さにしびれました。
 2位も横山秀夫。人間同士のぶつかり合いが凄い迫力で、文句なしにトップ独占です。
 以下、本格からコメディー、猟奇ものから心温まる作品まで様々なジャンルが並び、ヴァラエティ豊かなラインナップになりました。中でもそれら様々なジャンルが1冊の中にちりばめられた3位にはびっくり。
 他に「安政五年の大脱走」が印象に残りました。

・海外作品
 1位、2位ともにあくまで娯楽作であり、その面白さも半端ではないが、人間をしっかり描いたミステリーとして印象深いものでした。魅力的な人物造形という点では、国内ものはまだまだという感じです。
 3位は全編を覆うミステリアスな雰囲気に魅せられ選んでしまった感じ。4位、5位のベテラン健在は嬉しかったですね。
 他に「石に刻まれた時間」、「コールド・ロード」などが印象に残りました。

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◆ 2002年

◇国内作品BEST9
順位書  名寸      評      等
あかんべえ 娯楽作としてほぼ満点といえる作品でしょう。怖がらせ、驚かせ、微笑ませ、はらはらさせ、泣かせる。ミステリーの女王がそのテクニックを駆使して、とにかく1冊で全部やってくれます。
本棚探偵の冒険 小説ではなく怪しいエッセイ集ですが、他人から見れば全く理解不能の"古本道"を突き進む作者らの滑稽かつ異様なまでの姿に、思わず引き込まれてしまいました。
半落ち この物語には参りました。全く掛け値なしに素晴らしいラスト。私もホロリでした。そこに至るまでの語りが良いのも勿論です。
イン・ザ・プール 伊良部医師、凄すぎます。医者なのにまるで子供。でも読み進むうちに自分もこの医者になら何でもうち明けられそうな気がしてしまいます。
ハルビン・カフェ 評価できない本が続き以後敬遠していた作者ですが、この本には衝撃を受けました。物語としては楽しめないかもしれないけれど、全編から放射される激しさはぜひ味わってほしい。
あくじゃれ瓢六 デビュー当初から巧さを感じさせる作者でしたが、この短編集もキャラクタ設定から、話の進め方、まとめ方が絶妙。市井の人々の人情の機微に触れる話ばかり。
ダーク 探偵ものからクライムへ転じた"村野ミロ"ですが、相変わらず激しい流転の人生です。ちょっと展開が激しすぎると思うほどですが、十分面白い。
母恋旅烏 大衆演劇の世界そのままの人情喜劇。細かいことは抜きで、くさい芝居を見る気持ちで気軽に読めば確実にはまります。
マンゴー・レイン 裏切りと迎合の世界は相変わらずの作風だが、今回は冒険小説的な彩りも加え、直線的な一気読みの面白本でした。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
最も危険な場所 まさに"スワガー"シリーズに外れなし。上下巻で明確に形勢を逆転させ、たまりにたまったものを一気に吐き出させるような痛快娯楽巨編です。
雨に祈りを シリーズものの第5作だが単発で読んでも娯楽作として十分に面白く、さらに人物がその感情までしっかりと描かれており感心させらます。
死ぬほどいい女 泥沼にはまりこんでいく男を小気味いいテンポとブラックなユーモアで描いていくが、狂気もここに極まれりという感のラストが凄い。
わが名はレッド 憎むべき乳児誘拐に端を発し、猟奇連続殺人まで出てくるが、それを面白く読ませてしまう手腕、精巧に組み立てられたプロットと意外な社会性に驚きました。
アイスマン フリークたちの群など小説でしか覗くことのできない世界で、内容もどぎつく、読み手を選ぶ物語かもしれないが、不思議な魅力に満ちた作品。短いのが惜しい。



□2002年を振り返って

・国内作品
 今年の代表として選べたのは9本。 あと1本はランクインさせるまでには至らなかったという感じです。
 1位には存分に楽しませてもらい、2位は本好きの人には是非読んで欲しいもの。底の見えない"古本道"に落ちるかもしれませんが。
 以下、泣かせる本、笑わせる本、圧倒させられる本、巧さにじっくり浸れる本などなど、バラエティに富んだ面白本を選ぶことができたと思います。
 他に「晴子情歌」、「国境」などが印象に残りました。
 あと年末にきてまたまたガックリきたのは、週刊文春ミステリーベスト10。毎度乱歩賞のランクインですが、今年もあの本がなんと3位。2位の本も不満ですが、選者たちは本当に読んでるのか。読書力を鍛えなさい!

・海外作品
 1位はまさに痛快の一言。定石通りとか細かいことは抜きで、絶対に楽しめる面白本。
 2位は娯楽作でありながら人物描写をおろそかにしないところに惹かれ、3位にはラストで頭を思いっきり叩かれた気分にさせられました。これが50年前の作品とは驚異。
 4,5位も不思議な毒に満ちた作品でした。3位ほどではないですが。
 他に「サイレント・ジョー」、「鋼」などが印象に残りました。

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◆ 2001年

◇国内作品BEST10
順位書  名寸      評      等
玉蘭 登場人物の感情のぶつかり合いが生々しい、桐野夏生らしい作品。恋愛ドラマだが、全編に張りつめた緊張感があり、過去と現代の自由な物語展開もいい。
なぎら☆ツイスター もはや笑うしかないほどの暴走した狂気の世界を気軽に楽しめてしまう小品。キャラクターの性格付けも娯楽作としてツボを心得ており感心。
翼はいつまでも 実に爽やかな青春成長小説。この時代、これほど素直な作品は貴重ですね。読む者の心に確かに響く物語。
曼荼羅道 過去から未来、夢か現実か、時空を超えて自在に語られる人間の愛憎のドラマ。特に未来(?)の場面の造形が素晴らしい。
湾岸リベンジャー まさに湾岸道路を突っ走っているようなノンストップの面白暴走本。随所の凝った造りも嫌みはなく、徹頭徹尾楽しませてくれます。
ダーク・ムーン 一貫して暗黒ノワールを書き続ける作者の集大成的な作品。狂気に取り憑かれた者たちがさらなる地獄へ堕ちていく様は身震いするような怖ろしさ。
邪魔 派手な作品ではないが、変化に富んだ物語が存分に楽しめる。3人の登場人物が徐々に坂を転がり落ちていくあたり、語り口が巧い。
お鳥見女房 主人公であるお鳥見役の女房の暖かさがじんわりと伝わってくる気持ちの良い話ばかりの短編集。いずれも手堅くまとめられているが、本自体は中途半端に終わってしまった。
オルファクトグラム 匂いを視覚で捉えるという荒唐無稽な設定だが、それも気にならない素直な展開が好ましい。青春ミステリーとしても上質な作品。
10 三人目の幽霊 落語界のミステリーは北村薫が有名だが、この作品は通ぶったところもなく、比較的派手目な事件と速い展開でどの短編も十分楽しめる。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
ミスティック・リバー 昏い河を行くがごとき主要人物3人の人生がドラマティックに描かれる。こういう物語が読めるので読書はやめられないという典型のような作品。
ボトムズ 1位と2位に全く差はない。このドラマも見事。ミステリー+家族の物語は1930年代のアメリカ田舎町の風土と共にしっかりと描かれていて、かつ面白い。
騙し絵の檻 これだけの見事なラストは滅多に読めないというくらい鮮やかな幕切れでした。長さも適度でミステリーの醍醐味を気軽に味わえる作品。
カリフォルニアの炎 スリル、アクションからお色気まで100%エンタテインメントで存分に楽しませてくれる。作品の舞台そのままカリフォルニアの陽光を感じさせながら読ませる。
夜のフロスト ますます厚くなってきたシリーズだが、面白さは相変わらず。たくさんの事件がまるで整理されていないようで最後まで混乱することなく読者を引っ張るのはさすが。



□2001年を振り返って

・国内作品
 上位にこれぞという大作はありませんでしたが、1位と4位の2人の女性作家が本来の切れ味を見せてくれたのは嬉しかった。人間のぶつかり合いを自由な小説作法で描いた2作、さほどの話題にもなっていないのが不思議です。
 今年の収穫は2位、5位の戸梶圭太。出す本すべて暴走狂気の怪作揃い。本づくりにも作者のこだわりが感じられて嬉しいですね。
 3位はミステリーではないけれど、今年最も心に残った作品かもしれません。心が洗われる素直な物語ですが、決してきれい事だけではないところもいい。
 他に「ボルトブルース」、「ヒートアイランド」などが印象に残りました。
 読み逃した中ではやはり宮部みゆきの「模倣犯」が傑作との評判でしたが、あの厚さに尻込みしてしまったのは残念。 

・海外作品
 こういうミステリードラマを国内作品で読んでみたいのに、と悔しくなるほど巧い1,2位でした。いつまでも物語の一場面が心から離れない、そんな2冊です。
 3位は思わぬ拾いもの、4,5位は定評ある作家のさすが実力通りの面白本でした。
 他に「斧」、「神は銃弾」などが印象に残りました。

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◆ 2000年

◇国内作品BEST9
順位書  名寸      評      等
新宿鮫 風化水脈 シリーズも第7作にしてなおこのような面白本が出てくるところは凄い。作者の"面白く読ませる"テクニックの集大成のような作品。きわめて日本的な娯楽作。
狼は瞑らない ハリウッド製冒険アクションも真っ青、というくらいの面白さ。極寒の臨場感とたたみかけるアクションの連続にただただ圧倒されました。
GO 在日韓国人差別という根深い問題を底に孕みながら、"今"を感じさせる気持ちの良い素直な青春小説として感心しました。
道祖士家の猿嫁 田舎の旧家を舞台に一人の女性の生涯を追いながら、明治時代中期からの日本が近代国家へと変貌していく様が見事に浮かびあがっていく大河ロマン。
倒錯の帰結 装丁からして前代未聞。どうやって収まりをつけるのか心配になるくらい謎また謎の連続にしびれます。少々マニア向けに偏ったところもあるが、推理小説ファンなら存分に楽しめます。
虹の谷の五月 冒険小説の巨匠の復活と再生を感じさせた作品。人間の欲望のぶつかり合いが実に生々しく、舞台となるフィリピンの熱い空気が伝わってきます。
夢顔さんによろしく 魅力あふれる人物の波乱万丈の生涯は、人間ドラマとしてはもちろん、ミステリーとしても実に面白かった。
始祖鳥記 空を飛ぶことに魅せられた主人公のドラマチックな人生にはページをめくるたびに驚かされました。
動機 どの短編もリアルな描写と絶妙のストーリーにより、徐々に追い詰められていく主人公に読み手も同化していきハラハラドキドキものです。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
ハンニバル すべてに強烈な作品。中身は十分すぎるほど濃い。サスペンスフルで、華麗で、妖しい、恐るべき物語。問題のラストは目をそむけるか、はたまた陶然となるか。
ポップ1280 体裁はあくまでも大衆向けの軽い犯罪小説だが、その枠をはるかに超えた強烈な暗黒小説となっている。ブラックな笑いの中に暴走する狂気の世界が見えてくる。
アマンダ 非現実的な設定も娯楽作としては成功しており、ジェットコースター的一気読み超面白本。ページをめくるのが本当にもどかしい。
死んだふり 派手さも大仕掛けもない全くの小品だが、登場人物たちの猥雑なユーモアたっぷりの虚々実々の駆け引きが存分に楽しめる。
コフィン・ダンサー ちょっとやりすぎでは、と思えるほど全編スリルとサスペンスの連続。ど迫力のアクションとあっと驚くどんでん返しに参りました。



□2000年を振り返って

・国内作品
 今回は9位まで選びました。今年はこれぞ絶対の超感動・超面白本というものがなく、順位付けも少々寂しい感じでした。
 中では、「新宿鮫」の読者を楽しませるつぼを心得た作者の技にまいりました。まだまだ今後も楽しみなシリーズです。
 また、4、7、8位のドラマチックな物語は特に印象に残りました。
 まいったのは、「週刊文春 傑作ミステリーベスト10」堂々第1位の「脳男」と「このミステリーがすごい!」第3位の「禿鷹の夜」。おいおい本当にBESTに挙げるほど面白かったのかよ、と思わず叫んでしまいました。いくら人それぞれ読み方・感じ方が異なるとはいえ、よほど私がひねくれているのか?
 他に「煙」、「炎の影」、「あやし〜怪〜」などが印象に残りました。

・海外作品
 1位と2位、まるで性格もボリュームも違う作品ですが、この2作が際立っていました。どちらが上位かはそのときの気分で変わるでしょう。
 3位と5位はハリウッド的娯楽大作。とにかく読者を楽しませるテクニックは際立っています。
 一方、4位の小品も面白さではそのようなど派手な大作となんら引けを取りません。
 他に「クリスマスに少女は還る」が印象に残りました。

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◆ 1999年

◇国内作品BEST8
順位書  名寸      評      等
永遠の仔 久しぶりに満点の採点を付けた本です。大長編ですが、長さなど全然気になりません。素直に感動させられる物語だし、ミステリーとしても全編緊迫感に満ちています。
柔らかな頬 ミステリーとしてラストに疑問を投げる書評も多いのですが、私はそんなものまるで気になりませんでした。息詰まるような人間ドラマ、登場人物の精神の彷徨に圧倒されました。
燃える地の果てに 作者お得意のスペインもので、エンターテイナーとしての作者の力量を実感させる娯楽作。ラストの衝撃が凄かった。
天使の囀り このホラーは恐い。読んでいると自分の頭の中にまで何かが蠢いているようで、むず痒くなるような恐怖を感じてしまいました。
最悪 物語自体に奇抜な仕掛けやさほど思いがけぬ展開があるわけではないが、最後まで気を抜かず楽しませてくれる作品。
ぼっけえ、きょうてえ 土俗ホラー短編集で、ホラー小説大賞を受賞した表題作以外の3作に感心しました。リアルに人間の恐ろしさを描ききった作品です。
双頭の鷲 主人公の戦争の天才ゲクランの魅力が圧倒的な物語。とにかく破天荒なゲクランの活躍が痛快で、後半彼の出番がやや少なくなったのが惜しい。
T.R.Y 騙しのゲームが実によく練られており、登場人物も皆魅力的で、娯楽作として文句のない出来(題名以外は)。新人の作品とは思えません。


◆海外作品BEST5
順位書  名寸      評      等
極大射程 アメリカ版のゴルゴ13+ランボーのような劇画的エンターテインメント。上下巻800ページの長編だがとにかく面白い。スリルとサスペンスに満ちた傑作。
狩りのとき 2位も1位と同じ"スワガー"シリーズの最終作。こちらも上下巻で、それぞれにこれでもかと言うほどの見せ場の連発。もう満腹です。
長い雨 思いがけない事故への贖罪、彷徨える精神を持つ主人公に自分を投影し、めいっぱいハラハラドキドキさせられました。
ボビーZの気怠く優雅な人生 スピーディなテンポで最後まで一気に読める徹底的な娯楽作。翻訳がまた絶品。同じ作者のおなじみ探偵ニールものの「高く孤独な道を行け」も面白い。
氷の帝国 最近では珍しい純粋正統派の冒険小説。ツボを押さえた演出で最後まで手に汗を握る展開が続きます。



□1999年を振り返って

・国内作品
 例年10作品を選んでいるのですが、今回は8位までしか選べませんでした。他にいい本もありましたがBESTに挙げるのは躊躇われるレベルでした。
 ただ、1位と2位は群を抜いています。ただただ感動というか、ひたすら圧倒され、ここまで描けるかという驚きでした。直木賞の選評でいろいろ言われた両作ですが、どちらも傑作だと思います。
 ミステリー関係のBEST10で上位に入っている「白夜行」、「ボーダーライン」、「盤上の敵」などはいずれも私にはさして楽しめませんでした(「白夜行」の後半は見事でしたが)。ホントにそんな凄い本たちなのかな。
 他に「闇の楽園」、「クリムゾンの迷宮」、「藩校早春賦」などが印象に残りました。

・海外作品
 国内作品とは異なり、読んだ本がいずれも面白いものばかりで、例年3位までのところBEST5まで選びました。
 1,2位が同じシリーズになってしまいました。2作挙げるのは少し躊躇いましたが、これだけ面白ければ載せざるをえませんね。
 一方、ミステリー関係のBEST10上位に選ばれているクックの"記憶シリーズ"の2作「死の記憶」と「夏草の記憶」は、昨年の「緋色の記憶」と共に薄皮を剥ぐようにじりじりと真相に迫っていく技が実に見事で奥の深い作品ですが、いずれも同様の手法で少々飽きてしまいました。
 他に「惜別の賦」、「魔術師の物語」などが印象に残りました。

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◆ 1998年

◇国内作品BEST10
順位書  名寸      評      等
OUT 凄い!凄い!まったく先の読めない展開。全編を貫く闇の世界。97年作品ですが、98年作品を蹴散らして文句無しの第1位です。
弥勒 篠田節子の作品にはドラマチックな展開も楽しみですが、とにかく人間を見つめる目の確かさと優しさに感心させられます。泣けます。
死の泉 この妖しい物語は欧米の作品とも十分に肩を並べられる出来だと思いました。翻訳ものと言われても信じますね。
秘密 これほど物語に入り込んでしまったのも久しぶり。身もだえするほどの切なさ。ただしラストは気にいらん。
冤罪者 今度こそ騙されないぞ、と思ってもやっぱり騙されてしまう。そしてそれがまた楽しみになるのです、折原一の本は。
奇跡の人 これまた切ない物語でした。主人公のひたむきさが胸を打ちます。ミステリーとしても十分面白い。
理由 今までの作者の本とはまるで違うドキュメンタリータッチの暗い作品。後半の盛り上がりはさすがだが、もう少し短くならなかったものか。
まやかし草紙 和歌をうまく使い、オカルトから色模様までサービス精神の実に旺盛な平安京ミステリー。
時計を忘れて森へいこう 謎解きとしては全然たいしたことのない作品だが、不思議なくらい気持ちの良い爽やかさが全編に感じられます。
10 夜光虫 恐ろしい狂気の世界。ここまで人間を憎んで描けるか、というくらいの暗黒パワー全開作。


◆海外作品BEST3
順位書  名寸      評      等
ミスター・マーダー 巻頭からラストまで一直線に突き進んでいく超面白本。おまけに人間ドラマも忘れていないところが立派です。
闇をつかむ男 「ミステリー」とはこういう物語のことを言うのだ、という教科書的な作品。同じ作者の「緋色の記憶」もいい。
ビッグ・ピクチャー 映画化の話が進んでいるそうですが、先の読めない展開は読んでいて快感です。読む者にもう一つの人生の夢も見させてくれます。



□1998年を振り返って

・国内作品
 今年は97年発行で読み逃していた「OUT」と「死の泉」が実に衝撃的で、98年の作品では「弥勒」だけがかろうじて対抗した感じでした。
 一番夢中になって読んだのは「秘密」でしょうか。ただ、好きな本かというと?、後半から終盤がもうひとつ。
 5位以下は面白さの点で若干小粒です。もう一度考えれば容易に順位は変わるでしょう。
 話題になった「理由」は重量感のある作品でしたが、本筋とはやや外れた余分な記述が気になりました。その点、昨年の「レディ・ジョーカー」にはかなわないと感じました。
 その他、「密告」、「六番目の小夜子」、「流沙の塔」などが印象に残りました。
 また逢坂剛の「燃える地の果てに」は読みたかった。でもあの厚みには二の足を踏まされました。通勤に持ち歩くのは厳しい。

・海外作品
 外国ものはたいして数を読んでいないので、3作だけ選びました。しかしこの3作はどれも本当に面白い。
 1位にした「ミスター・マーダー」はミステリー関係のベスト10からは無視されたのかさっぱり名前も出てきませんが、この面白さは否定できないでしょう。面白さ重視の私としては文句無しです。
 その他、「ジャクソヴィルの闇」、「黒い薔薇」が印象に残りました。

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◆ 1997年

◇国内作品BEST10
順位書  名寸      評      等
嗤う伊右衛門 京極夏彦は苦手でしたが、これは別。美女から醜女になってしまいながら誇り高く毅然としたお岩さんのキャラクタがとにかく最高でした。
頭弾 スリルに富んだ胸躍る大陸活劇ロマン。主人公はもちろん敵味方とも登場人物が魅力いっぱいでした。
逃亡 まじめな力作。戦争責任という重いテーマを持ちながら、サスペンスフルな展開にラストまで引っ張られました。
浪漫'S 見参!桜子姫 無類の美女で天真爛漫な剣の達人なんているわきゃないが、いいんです、面白ければ。思わずかけ声をかけたくなるようなかっこよさでした。
しゃべれども しゃべれども 純粋な人たちのほんわかとした気持ちのいいお話です。殺人の話ばかりでなくこういった本が増えるといいですね。
氷舞−新宿鮫Y 久しぶりに鮫島警部大活躍の新宿鮫らしい作品。不正に敢然と立ち向かう姿は久しぶりにかっこよく、しびれました。
レディ・ジョーカー すごい本でした。ものすごく深いです。日本語の文章の巧みさ、表現力の深さに圧倒されました。ここまでやるかという感じです。
神々の山嶺 作者夢枕獏の山への熱い熱い思いがもろストレートに伝わってきて、その迫力に圧倒されました。
鎮魂歌−不夜城U 話が複雑すぎて分かりにくかったですが、暗黒面のパワーがすごい。全編に悪の匂いが立ちこめるコワイ本でした。
10 瞬間移動死体 テレポート殺人などという相変わらずSFチックなトンデモない設定ですが、見事な謎解きを見せる楽しい本でした。


◆海外作品BEST3
順位書  名寸      評      等
グリーンマイル 実に見事なサスペンス、スリラーそしてファンタジー小説。はらはら、ドキドキ、そして感動。国内海外あわせてのBEST1です。
フロスト日和 シリーズ第2弾。相変わらず下品なジョークの連発。とても込み入った話だが構成はしっかりしており抜群に面白い。
死の蔵書 本好きにはたまらない作品です。話ももちろん面白いですが、随所で思わずニヤリとさせられました。



□1997年を振り返って

・国内作品
 97年の国内作品は、「蒼穹の昴」を筆頭に「蒲生邸事件」、「ゴサインタン」、「山妣」、「不夜城」、「奪取」などスゴイ作品が目白押し状態だった昨年に比べると駒不足の感は否めませんでした。
 中では、今まで電話帳のようなノベルズを1冊読んだだけで敬遠していた京極夏彦でしたが、「嗤う伊右衛門」は読んで良かった。本当に感心しました。
 また12月に読んだ「レディ・ジョーカー」の深い日本語の文体には凄みさえ感じるほどでしたが、面白さという点ではこのくらいの順位でしょうか。
 その他、「女たちのジハード」、「枯れ蔵」などが印象に残りました。
 順位は思いつきで、また考えればかなり入れ替わると思います。

・海外作品
 外国ものはたいして数を読んでいないので、3作だけ選びました。しかしこの3作はどれも本当に面白い。国内ものの1位もこの3作には負けてます。
 3作ともけっこうな長さで展開も複雑なのですが、構成がしっかりしているので最後まで引きつけられました。
 昔の翻訳ものにあったような日本語の文章になっていないような読みにくさは全くなく、良質のエンタテインメントでした。
 その他、「罪深き誘惑のマンボ」が印象に残りました。

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◆ 1996年

◇国内作品BEST10
順位書  名寸      評      等
蒼穹の昴 自信を持って「この本は面白い!」といえる作品。圧倒的な歴史描写、人物描写で、読み始めれば止まらない、読み終わってからももっと続いて欲しいと思う面白本です。
ゴサインタン−神の座− ホラー色の強い作品ですが、感動的な人間ドラマになっています。まるで先の読めない展開が快感です。
蒲生邸事件 職人宮部みゆきの力量を十分に示した作品。エンタテインメントのあらゆる要素を盛り込んだ超豪華娯楽作でした。
山妣 どんな怖い話かと思ったら、実にドラマチックでスリリングでかつ感動的な本でした。登場人物らのまがまがしい設定も面白く、わくわくさせられます。
奪取 真面目な作風だった作者がユーモアを交え新境地を感じさせる痛快娯楽作。500ページ以上の長さを感じさせない面白さです。
不夜城 背筋が寒くなるような裏切りと迎合の連続。特に終盤は読んでいてドキドキが収まらないほどの衝撃を受けました。
七回死んだ男 わたしはこの作品で西澤保彦を知りました。とんでもなくぶっ飛んだ設定ですが、しっかり謎を解く本格推理ものです。
垂里冴子のお見合いと推理 読んでいてとても気持ちの良くなるミステリー。殺伐とした話が多い中、この爽やかな雰囲気は貴重です。
誘拐者 作者はトリック頼みという以前の感じから物語性もかなり出てきました。素直な語り口で読みやすく面白い本です。
10 人格転移の殺人 書名のとおり登場人物の人格が次々に転移していくという無茶苦茶な状況の中での殺人事件。でも謎はしっかり解いてくれます。


◆海外作品BEST3
順位書  名寸      評      等
バースへの帰還 ミステリーのお手本になるような作品で、読者を笑わせ、はらはらドキドキさせ、謎解きで納得させる超面白本です。
ビッグ・タウン 1位とはだいぶ差がありますが、どんでん返しが続き意外な展開が拾いものの面白さでした。
死の裁き 小粒な物語だが、作者が事件記者時代に集めた面白いエピソードを随所にちりばめたサービス精神旺盛な作品。


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