◎20年9月


オルガの殺人の表紙画像

[導入部]

 オルガは19世紀末、ブレスラウ(現ポーランド南西部)の貧しい家に生まれた。 父親は港湾労働者、母親は洗濯女だったが発疹チフスで相次いで亡くなり、オルガはポンメルン地方(ドイツ北東部)に住む父方の祖母に引き取られた。 祖母とオルガの関係は当初からぎくしゃくしたものだった。 オルガは孤独だったが、近くに住むヘルベルトとヴィクトリアの兄妹と友だちになった。 ヘルベルトは祖国ドイツを誇りに思っていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 物語は三部構成。 オルガとヘルベルトは恋仲となるが彼は北極圏への冒険に出たまま消息を絶ってしまう。 一部では第二次大戦終結の頃までのオルガの人生を辿る。 二部ではフェルディナントという語り手がオルガのその後の人生を語り、三部は彼が入手したオルガがヘルベルトに宛てて郵便局留めで送った30通の手紙で構成される。 毅然と生きたひとりの女性の人生の物語であり、激しい熱情の手紙の束には圧倒される。 終盤には驚きも用意された感動作。


たかが殺人じゃないかの殺人の表紙画像

[導入部]

 戦後、進駐軍は学制改革に手をつけ、新制高校を誕生させた。 名古屋市の最東端の地に住む風早勝利は、新たに設立された東名学園という高校の三年生に編入された。 突然の男女共学で戸惑うばかりだったが、推理小説研究部の部長となった。 同じ部室には友人の大杉日出夫が部長の映画研究部もある。 ある日、両部の顧問の女性教師別宮操が、入部希望の咲原鏡子という愛らしい女生徒を連れてきた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 副題のとおり、今から71年も前の昭和24年の新制高校が舞台となっているが、高校生たちの青春群像にはまったく違和感なく入り込める、青春ミステリーとして楽しく読めた。 当時を経験した御年88歳の著者だからこそと思わせる、男女共学のドタバタも面白い、みずみずしい青春ものだ。 連続殺人で密室もありの犯人当て推理小説としては、トリックにもけっこう凝っているが、意外とあっさり気味に終わった感じだ。 それでも真相には胸を突かれる思い。


囚われの山の殺人の表紙画像

[導入部]

 菅原誠一は雑誌「歴史サーチ」の編集部員の一人。 深刻な出版不況の中、「歴史サーチ」も販売部数減に歯止めがかからない。 ファッション誌編集部にいた桐野弥生が抜擢されて編集長の座に就いたが、衰勢に傾く雑誌を建て直すのは容易でない。 新年号の企画会議も沈滞したムードに包まれる中、菅原は八甲田山遭難事件を提案する。 社長も乗り気になり、菅原は新たな謎を見つけるため青森へ出張する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 明治35年に起きた八甲田山雪中行軍遭難事件に材をとったミステリー。 遭難事件関連で残された三つの報告書で遭難死者数が合わないことに疑問を持った主人公が調査を進めていく。 合わせて当時の行軍の様子がドキュメンタリータッチで描かれる。 この冬山遭難の状況描写がとてもリアル。 昔観た高倉健主演の映画の記憶が甦った。 現代パートのミステリー部分は面白いが、編集部の実態などは月並みな描き方なのが残念。 またラストはいらないな。


その裁きは死の表紙画像

[導入部]

 「刑事フォイル」の撮影現場にいた作家ホロヴィッツを元刑事のホーソーンが訪ねてきた。 ホーソーンは解決困難な事件が起きたときロンドン警視庁から解決の協力要請を受ける。 彼は事件の顛末を小説にするようホロヴィッツに要請していた。 今回は、離婚専門弁護士の殺害事件。 弁護士はワインボトルで頭を殴打され、砕けたボトルを喉に突き立てられた。 現場の壁には“182”という数字が描かれていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 昨年の
「メインテーマは殺人」に続き、劇中の作家ホロヴィッツが元刑事と組んで難事件に挑む、犯人当て本格ミステリーの第二作。 殺人事件自体はシンプルなものだし、物語のほとんどが二人による事件関係者への聴取場面だが、合間に過去の洞窟遭難事件、電車の轢死事件を挟みテンポ良く進むので、退屈さはまったくない。 終盤のホーソーンの推理により、物語中のあちこちに事件の謎を解明するヒントがあったことを知る巧みな構成に感心させられた。


死亡通知書の表紙画像

[導入部]

 2002年10月19日、中国A市。 公安局のベテラン刑事ジョンハオミンはネットカフェに飛びこんだ。 ジョンは店主にIPアドレスを示しどのパソコンか尋ねる。 その場所には一人の若者が座っていた。 ジョンはカメラで何枚も写真を撮る。 若者はネットの世界にのめり込んでいてこの行動には気づかない。 そのまま店を出たジョンはその夜、うらぶれた地区のボロ家に恐ろしい容貌の男を訪ね、カメラに保存された写真を見せる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ドラマ化もされたという華文ミステリーの大ヒット作。 必殺仕事人のような恐ろしい連続殺人者に対抗する警察との攻防が非常にスピーディーに描かれ、シンプルな流れに二転三転する展開、大きな謎の存在と、最初から最後まで飽きさせない面白さ。 ちょっと穴もあるように思うが、強引に話を進めていく力強さがあるし、終盤に解かれる謎には驚かされた。 最後は、えっここで終わってしまうの、と思ってしまったが、本書は全三部作の第一部だそうです。


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