◎14年1月


第三の銃弾の表紙画像

[あらすじ]

 銃撃戦の多いアクション小説作家のジェイムズ・アプタプトンは、ウォッカ・マティーニを三杯やってへべれけになって家に歩いて帰る途中、ロシア人の殺し屋の車に轢き殺される。 警察は交通事故として処理するが、被害者の妻はかつての名スナイパー、ボブ・リー・スワガーのもとに調査依頼に訪れる。 被害者は殺される少し前、1963年11月のジョン・F・ケネディ暗殺事件の謎を解明したと断言していた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 久しぶりスワガー主役作品だが、以前の諸作とは趣がだいぶ異なり、50年を迎えたJFK暗殺の謎を中心に据えた物語。 アクションもやや控えめで、痛快だが見せ場が少ない印象。 一方、JFK暗殺の謎は銃器に詳しい作者らしい説だが、その精度は素人の私にはまったく不明。 また、物語の組み立ても、早々に犯人を登場させ、犯人の独白で謎を語る形式は予想外だったが、犯行の動機は個人的には説得力が弱いように感じた。 全体に少々冗長な印象。


櫛挽道守の表紙画像

[あらすじ]

 中山道のほぼ真ん中の、とりわけ高地にある宿場町、藪原宿。 街道には「元祖お六櫛」の幟がはためく。 16歳になる登瀬の家も櫛挽で、父の吾助の挽く櫛は神業と称えられていた。 登瀬は父の技、櫛に魅入られ、作業場で父の仕事ぶりを間近に見続けてきた。 母からは妹の喜和のように勝手場を手伝うよう、いつも小言を言われているが、いつになってもそこの所帯じみた音や匂いに馴染めない。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 幕末期、信州の宿場町で、櫛職人の父の背中を追ってまっすぐに生きていく女性の苦難と喜びの物語。 山深い田舎町にも容赦なく押し寄せる幕末期の動乱、当時の社会・経済状況や女性の立場など、登瀬一家の変転を通し鮮やかに描き出されている。 その中でひたすら櫛を挽く登瀬のひたむきさに打たれる。 終盤、登瀬の気持ちの変化が描かれ、登瀬と家族の明日への光が感動を呼ぶことになるのだが、変化の過程は少し描き足りないと思った。


これからお祈りにいきますの表紙画像

[あらすじ]

 高校生のシゲルの地元では、サイガサマという神様に願掛けすると願いが叶うという言い伝えがある。 ただサイガサマは本気で何かをするときは人間の体の一部から力を得てその願いを叶えるので、体のどこを取られたくないかを予め申し出る。 それを細工物にして、冬至の祭の時人形に編んだ籠の中に入れ燃やすのだ。 公民館で掃除のバイトをしているシゲルは、祭の準備にもかり出される。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 奇妙な風習をバックに、高校生の主人公の回りの様々な人間関係が、作者相変わらずのだらだらとした流れの中に綴られていく中編。 いろいろなことに心配性過多の大学生がネットのコミュニティで知りあったアルゼンチンの女性の相談事や悩みにまたいろいろ心配してしまうという短編。 2作ともつかみ所の無い物語とも言えない話だが、投げやりなようで少しだけ一生懸命に物事に取り組み、少しだけ前向きな主人公が好ましく、心地良い本。


暗殺者の鎮魂の表紙画像

[あらすじ]

 元CIA工作員のコート・ジェントリーは、今やCIAやロシアマフィアから追われる身となって世界各地を渡り歩き、今はアマゾン川支流の村にいて沈没船の始末の職に就いていた。 ある日の作業中、顔見知りの少年が近くで白人を見たと教えに来た。 ジェントリーが素早く逃走を始めたところにハンターたちを乗せた2機のヘリコプターが現れる。 彼は入念に準備し予行演習を繰り返したルートを逃げていく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
暗殺者グレイマンシリーズ第3作。 前2作も一気読みの痛快アクションだったが、今作はさらにヒートアップ。 終盤100ページ余のグレイマンの徹底的な反撃場面は、まさに見せ場のみが凝縮されたもったいない構成だが、あまりの神出鬼没ぶりにはちょっと呆れます。 作中の敵の言葉に”ランボーみたいな奴かと思った”というのがあったが、本当にランボーになったようで、派手すぎてそもそも”暗殺者”じゃないなあ。 また敵が増え、第4作が楽しみ。


私のなかの彼女の表紙画像

[あらすじ]

 18歳の本田和歌は大学の語学クラスで知り合った一つ年上の内村仙太郎と交際している。 地元の宇都宮にいた頃は人よりいろんなことを知っているつもりだったが、いざ進学してみると、自分が知識が豊富なわけじゃないと思い知り、特に仙太郎に比べればはっきり無知だった。 仙太郎は一こま漫画のような絵に文章を添えたものが認められ、雑誌の連載をいくつか抱えどんどん多忙になっていった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者の本は本当に久しぶりに読んだが、これはかなり引き込まれる、確かな筆力を感じさせる作品でした。 作者自身もある程度は主人公に投影しているのであろう、作家として自分を表現すること、また女として生きていくことの不確実さ、不安定さが、リアルに綴られていく。 男と女、また家族という近しい関係だからこそのぶつかり合いも読ませます。 300ページ程度に和歌の約20年にわたる物語だが、しっかり書かれているという印象を持った。


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