◎14年12月


カウントダウン・シティの表紙画像

[あらすじ]

 直径6.5キロメートルの小惑星が地球に衝突する人類滅亡の日まで3か月を切った7月18日。 ヘンリー・パレスは、知り合いのマーサから失踪した夫ブレットの行方を捜してほしいと依頼される。 パレスはニューハンプシャー州コンコード警察の刑事だったが、もはや警察に捜査部門は不要との連邦政府決定で退職させられていた。 まずパレスは、ブレットが働いていたマーサの父が経営するピザ屋へ向かう。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「地上最後の刑事」三部作の第二作。 前作から3か月ほどが経過し、社会の混乱はさらに広がっている。 そのあたりの描写はかなりリアルで、とりわけ物語の終盤にはいよいよ社会の崩壊が明確化し、緊張感が全体を覆っている様子が良く出ている。 失踪者の発生が常態化している状況の中で、人捜しの意味を自ら問いながらの主人公の捜査劇は前作に劣らず面白い。 パレスの妹の行動がサスペンス度を高めたままいよいよ最終作に突入という感じ。


阿蘭陀西鶴の表紙画像

[あらすじ]

 延宝八年(1680年)、おあいは食事の支度をしながら父の帰りを待っていた。 おあいは盲目だが、幼い頃から今は亡い母から台所仕事を仕込まれた。 手伝いのお玉もいるが、お玉は台所に手出しはしてこない。 おあいの父は井原西鶴なる号で世にはばかる俳諧師である。 幼い頃から読み書きと口が達者だった父は、放蕩者で家業の刀剣商いを放り出し、流行の俳諧とやらに身を入れている。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 俳諧から「好色一代男」などの浮世草子で知られる井原西鶴を、盲目の娘の視点から描いている。 物語のはじめの方ではおあいは父を、家庭を顧みずやりたい放題、人たらし、放蕩者のいやな奴と嫌っていたのが、徐々に父のまことの気持ちを知り、心がほぐれていく様子が暖かい。 負けず嫌いの西鶴が、一昼夜の間、句をつくり続ける矢数俳諧で、数を抜かれればまた抜き返したり、エネルギッシュに草子を書き続けるあたりも興味深く面白い。


ナオミとカナコの表紙画像

[あらすじ]

 小田直美は葵百貨店の外商部個人顧客担当。 顧客は湯水のようにお金を使う人たちで、外商部員は献身的に顧客に仕え、業務に関係ないことでも顧客の頼みを断ることは基本的にない。 直美は昔からの友人で専業主婦の服部加奈子と食事をする約束があったが、風邪をひいたので延期とのメールが入った。 心配した直美がマンションに赴くと加奈子は夫に暴力を振るわれ顔が腫れ上がっていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 親友二人がDV夫を排除する話で、排除するまではナオミの語りで、排除した後はカナコの語りの二章立ての構成。 完全犯罪を目論んだつもりが、穴が多く徐々に追い詰められていく後半のサスペンスの盛り上がりはなかなかのもの。 また外商部というものの業務と顧客、とりわけ中国人女社長との関わりは面白い。 ただ奥田英朗の作品としては、殺人を扱いながら通常想定される枠内で話が進み、意外性や”毒”が不足しているのは不満です。


その女アレックスの表紙画像

[あらすじ]

 30歳、非常勤看護師のアレックスはショッピング中にその男に気づいた。 見覚えのない50代の男を惹きつけてしまったらしい。 外食を終え自宅近くまで来たとき、その男が突然現れ、殴られて車に放り込まれる。 目撃者があり警察は誘拐の事実は掴んだが、被害者も加害者も不明のままだ。 アレックスは寒さで目が覚めた。 手足を縛られ、口には粘着テープが貼られ、どこかの床に転がされている。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 数多のミステリーベストテンの1位を総なめにした感のある作品だが、たしかによくできている。 衝撃的な場面をいくつも用意していながら、その派手さだけで読ませるものではなく、物語の様相を一挙に変えるほどの見事な転回には舌を巻く。 3部構成とし、それぞれが異なった趣向で組み立てられており読んでいて楽しい。 また、追う側のパリ警視庁の警部にもしっかりとしたドラマをつけられ、心を揺さぶる人間味のあるミステリーに仕上がっている。


トオリヌケキンシの表紙画像

[あらすじ]

 古いマンションの外壁とつぶれた銭湯の板塀との50センチくらいの隙間の道に「トオリヌケ キンシ」の札があった。 小三男子の田村陽は学校で少しだけ嫌なことがあって、今日はそこを通り抜けてやろうという気になった。 進むと結局、金属格子に突き当たり行き止まりだった。 右手には古ぼけた木造の家。 後ろから声がかかり振り向くと、今まで全然話したことのないクラスの女子が立っていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 軽いミステリー系短編6編の作品集。 作者自らが闘病していた経験を踏まえてか、脳腫瘍、相貌失認、脳梗塞、癌といった病気や精神的な悩み・障害を主人公が抱えた作品が揃っている。 しかし、深刻に落ち込んでしまうようなものではなく、それぞれに大なり小なりの希望を見いだせる終わり方になっており、気持ちよく読み終えられるものばかり。 いずれも40ページ程度、ミステリーとしての驚きは薄めの作品集だが、温かいのが心地良い。


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