◎05年6月



[あらすじ]

 タケオと私は、骨董でなく古道具屋の中野さんの店で働いている。 ちゃぶ台から扇風機、エアコン、皿小鉢まで、当主が亡くなったり引越しの際に始末される家財道具を引き取って、商売している。 タケオは私よりほんの少し前に雇われた。 一人で店番をしていると、田所という年配の男が買ってほしいと言って持ってきたのは裸で絡み合う男女の写真だった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 このラスト、いいです。 ジーンときました。 生きることにも恋愛にも不器用な30近い男女が、値付けも商売全部いいかげんな古道具屋で、ぶつかったり、すれ違ったり。 これに妻子持ちで愛人もいる店主の中野さんと、その姉のマサヨさんの4人が物語の中心。 日常のささいな出来事やちょっとした事件がまったりとした感じで綴られていく。 いつの間にかくっつき、いつの間にか離れた2人が最後には・・・。 幸福感を感じる本でした。



[あらすじ]

 水島は美術ガイド誌の編集長。 ある日、道を尋ねるつもりで入った場末の古物商のような店で、石田黙という画家の、たった3万円だが不思議な絵「夜光時計」に魅入られてしまう。 業界に入って長い水島も聞いたことのない画家。 翌日、美術関係資料を調べても名前は見つからない。 しかし、その夜チェックしたネット・オークションに彼の絵が出品されていた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 実在の画家、石田黙の不思議な魅力を放つ作品が物語の随所を飾る中、とりわけ前半の出来はさすが折原一と思わせる。 狂言回しの水島と同様、石田黙をめぐる謎の世界にのめりこんでいくような感覚をおぼえさせる。 また時折挿入される囚われた画家の様子も、さらに謎を孕んで快調。 しかし事件の真相はやけに平凡だし、どう説明されるか楽しみだったミステリー部分はそりゃないでしょ、という終わり方で残念でした。



[あらすじ]

 柏原野々は男と同棲し職業はフリーター。 交通事故死した父親の一周忌も近い。 父は非常に厳格で、あまりの厳しさゆえ兄も野々も二十歳になると家を出た。 兄も腰の据わらない生活をしているが、末の妹だけは公務員で家にいる。 父の死の3週間ほど後、父の会社の女性社員から呼び出され、男女の関係を迫られたと告げられてから母の調子がおかしくなった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 突然の夫の死と女の出現という先月の「魂萌え」の設定そのままと驚いたが、こちらのメインは妻ではなく子供たち。 その3人が、一周忌を前に父親のルーツを探しに佐渡へ向かうエピソードが物語の半分を占める。 前半は語り部の娘がふわふわ生きている様子が描かれるのだが、今の世代を捉えた確かな人物描写。 佐渡でも予想通り、さして劇的なこともないのだが、人とのつながり、家族を見つめる作者の筆致に温もりを感じた。



[あらすじ]

 高校教師の辻恭一が夜9時過ぎに自宅に戻ると妻の姿がなかった。 とうとう家を出たか。 3年前、彼は女生徒と深い仲になったあげく妊娠させてしまい、以後妻とは針のむしろのような冷戦状態が続いていた。 しかし1週間後、不在を怪しんだ近所の者の通報で警察が訪ねてくる。 妻殺しを疑われた彼は、彼女がある新興宗教の集まりに出かけていたことをつかむ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 「本格ミステリーマスターズ」シリーズの一冊ながら、非常に読みやすく話は進む。 失踪した妻を捜す教師と妻殺しの犯人を探す汚職刑事に怪しげな宗教団体が絡んで、テンポ良く軽快な物語。 しかし、そこは"本格"、終盤大きな仕掛けがある。 本格ものにはとかく反則!と憤ったり、脱力したりのものが目に付く中、そう来たかと思わずにやりとしてしまうひねり方で嬉しくなった。 残念なのは、あまりに短くてあっさり終わってしまったこと。



[あらすじ]

 村上真介は「日本ヒューマンリアクト梶v社員。 リストラを進める会社から委託を受け、リストラ候補者と面談し自己都合退職を促す仕事。 今回は建材メーカーで、今も管理職に退職を承諾させたところだ。 次は営業企画推進部課長代理の芹沢陽子、41才、社内離婚歴あり。 彼女は現在リーダーとして関わっているプロジェクトが成功するまで絶対に辞める気はない。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 社員に早期退職を迫るリストラ請負人という、リアルで興味ある世界を娯楽性十分に描いたもので、先ごろ山本周五郎賞を受賞した作品。 犯罪ものばかりという印象だったが、10年余りのサラリーマン歴を持つ作者だけあって、組織の中での悲哀などもしっかり描き込まれている。 途中、バイクの話から濡れ場まで上手く織り交ぜ、相変わらず読者を楽しませる術を心得た流れ。 人物描写、クサクなる一歩手前の台詞回しも印象に残る。


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