◎08年3月


道化の死の表紙画像

[あらすじ]

 イングランドは南マーディアンの村。 ビクトリア朝風の大邸宅、マーディアン・キャッスルでは毎年、冬至の次の水曜日に"五人息子衆のモリスダンス"が行われる。 ドイツ人の民族学研究者ビュンツ夫人がダンスのことを村人にいろいろ聞きまわるが、皆は迷惑顔だ。 その日、剣を使ったダンスと劇は滞りなく行われたが、終盤、道化役の男が首を切り落とされて見つかる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 片田舎の村のひと癖もふた癖もある住人たちによる中世以来の民間伝承舞踊を軸に、衆人環視の中で起きた殺人事件とその真相が描かれる。 歓迎されない訪問者、凶事を予感させる序盤から、風変りな民族舞踊、衝撃的な事件と謎解きまで、全編にわたり計算し尽された見事な構成だ。 さすがに50年以上前の作品であるし、題材もあってか若干の古さを感じさせるが、推理小説としての完成度の高さが十分伝わる作品。


消えたカラヴァッジョの表紙画像

[あらすじ]

 1989年2月のローマ。 大学院生のフランチェスカ・カッペレッティは、絵画調査のアルバイトに加わっていた。 フランチェスカは同期のラウラと共に、2点の真贋争いが続いているカラヴァッジョの「洗礼者ヨハネ」の来歴調査のため、1点の最初の所有者であるマッテイ家の古文書庫を訪れる。 そこで行方知れずのカラヴァッジョの代表作「キリストの捕縛」の手がかりを見つける。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 西洋美術史上最高の画家の一人とも言われるカラヴァッジョの幻の絵画を追うノンフィクション。 これが下手なミステリー小説よりはるかに面白い。 イタリアとアイルランドでの偶然にも時を同じくして真作に近づいていく動き、そして第2の「キリストの捕縛」(?)までがサスペンスフルに描かれる。 絵画の真贋を巡る科学的調査、修復、真贋の認定や美術学界の内幕、名誉と金と権力に群がる人々など、やはり事実は小説より奇なり。


裏切り涼山の表紙画像

[あらすじ]

 涼山は、かつて忍壁彦七郎と称する浅井家の臣であり、戦場では敵の屍を山と築いた猛者だったが、信長との戦いで領民を守るため主君を裏切った。 結果として信長は約束を反故にし、所領が取り上げられた彦七郎は出家した。 それから6年後、秀吉は信長の命を受け、東播磨にある別所家の三木城を攻めていた。 一方、涼山は別所領内に一人娘の紫野がいることを知る。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 作者はこれがまだ2作目だそうだが、大変見事な痛快娯楽時代小説で、まさに感服つかまつったという感じ。 すんなりと物語世界に入れ、その流れが実に巧みで、次はどう展開するのか、全編ページをめくる手が止まらない。 また、登場人物のキャラクターが明確で、敵役はあくまで敵役らしく残忍に、その他は情愛深い主人公はもちろん、気持ちの良い者ばかり。 娯楽小説のあらゆる要素が詰め込まれた胸躍る、かつ胸に迫る快作。


アメリカン・スキンの表紙画像

[あらすじ]

 アイルランド人のスティーヴは自由の国アメリカに憧れ、アメリカ人になりたかった。 彼は友人のトミーに懇願されてステイプルトンという男と3人で銀行を襲うことに。 ステイプルトンはIRAの殺し屋、トミーは彼に脅されていた。 結局金は奪ったが、トミーは警備の兵士に撃たれ負傷。 逃げる途中、ステイプルトンに射殺される。 怒ったスティーヴはステイプルトンを崖から突き落とす。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 全編死と暴力に満ちた犯罪小説。 アイルランド人なのにイングランドの軍隊に入り、さんざん痛めつけられて除隊、米語を話しアメリカ人になりきることを望むスティーヴだが、その理由は一切語られない。 このスティーヴ、ステイプルトンのほか、異常者のデイドとシェリー。 4人が激しい暴力沙汰を展開しながら交差していく。 いたるところに洒脱なセリフや音楽からの引用をはさんだ退屈知らずの物語だが、暴力嗜好が過ぎる。


犬身の表紙画像

[あらすじ]

 八束房恵は、故郷の狗児市で県西部のタウン情報誌「犬の眼」を編集長の久喜と共に出版していた。 房恵は昔から犬が大好きで、自分は本当は犬なのにたまたま人間に生まれてきてしまったと思っている。 ある日、以前取材した女性陶芸家の玉石梓と出会い、彼女の犬に対する愛情に接し、強い好意を感じる。 そんな房恵に、バー「天狼」のマスターから信じられない提案が。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 人間にとって最も身近な存在である”犬”に変身することを題材に選ぶことは、思いついても実際に描く者は少ないだろう。 その変身の過程はあっさりしているが、違和感はなく自然な感じ。 我が家にも犬がいるので、梓とフサの交流はほほえましく、一方、玉石家の内幕は悲惨で陰湿な話で、軽快さと重苦しさを併せ持つ濃密なドラマだが、目をそむけさせない巧みさがある。 衝撃的な悲劇に驚き、感動的なラストには感謝したい気持ち。


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