◎96年7月



[あらすじ]

 北海道の森林組合の作業員尾高健夫は、別れ話をしたその夜に妻を交通事故で失った過去を引きずっている。 ある朝、森を散歩中、自衛隊の演習場付近から逃げてきた女を助け医者に運ぶが、彼女は何も告げず姿を消す。 尾高は最近起こった自衛隊員の爆死事件との関連を疑い調べ始める。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 年1冊ペースの作者にしては前作
「ホワイトアウト」から半年程度の発刊で似たようなダイハードものかと危惧したら、主人公はスーパーマンではなくてホッとしました。 ハラハラドキドキとはいかないが、後半はサスペンスも盛り上がりそれなりに面白いミステリーです。 ただ、死んだ恋人の過去を命の危険を冒してまで探ろうとする女性と、その女性にこだわり続ける主人公の執拗さがもう一つ理解できませんでした。



[あらすじ]

 妊婦向け育児雑誌「プレマム」編集部の布施乃理子は、推理作家を夫に持つ小学校教師沢口なつみの、自分の出産をビデオに撮り子供たちに見せるという企画を進めている。 ある日、編集部に夫は吸血鬼という投書が送られてくる。 乃理子の恋人後藤は吸血鬼に妙に詳しい。そのうち沢口の教え子の弟の誘拐事件が起きる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ラストまで飽きずに読めました。 吸血鬼の正体、誘拐事件の真相も全体的にすっきりして、作者の意図した合理的な推理小説という点では成功でしょう。 でも、コンパクトにまとまりすぎていて物足りない。 合理的でなくていいから、もっと吸血鬼の話は膨らませて派手にやって欲しかったなぁ。 題名からゾクゾクするような怪奇ロマンを期待していたんだけれど。



[あらすじ]

 清朝末期の中国、貧農の少年李春雲は占い師の言葉を信じて、宦官になろうと決意し都に上る。 また、春雲と同郷の郷紳の息子梁文秀は科挙の最高峰進士の試験に合格し、皇帝の側に仕えることとなる。 おりしも清朝は西太后が権勢をふるう一方で、日本や西欧列強の圧力を受け崩壊の危機を迎えていた。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 面白い本を紹介するホームページなのにどうも面白くない本が多くて恐縮していましたが、今回は自信を持って「この本は面白い!」と言いましょう。 特に前半、梁文秀が科挙に挑むところと若い頃の乾隆帝の描写が圧倒的。中盤ややもたつくも李鴻章将軍の魅力で盛り返し、あとはラストまでぐいぐい、という感じです。 面白く、かつ清国の歴史・風俗も自然に理解できて有り難い。 上下800頁近い長さでも、読み終わってからもっと続いてほしい、と思える本でした。



[あらすじ]

 13才で登校拒否中の姫子は、自殺しようと山に入ったが、山中で生活している男に会い、その家で死体を見て逃げ帰る。 その男、阪本は元探偵。死体の女は彼の元恋人。 探偵仲間の鈴木ウネ子と野崎は姿を消した阪本を姫子と共に捜すが、なぜか彼らに公安の圧力がかかる。 

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 この作者は前作
「時には懺悔を」以来久しぶり。 前作はかなり好評だったようだが、私は今回の方が面白かった。 前半の姫子の無理に背伸びした姿はいまいち。 いくら今どきの子供でも13才で他人の男にああずけずけとはしゃべれないよ。 しかし後半、阪本をめぐる愛憎の構図が明らかになってくると調子が出てくる。 男と女の残酷な愛のドラマとして迫力がありました。 


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▲「時には懺悔を」
 同業者を殺された私立探偵が見習い女調査員と調べていくうち、過去に起きた身体障害児の誘拐事件の真相に迫っていく。 見習い調査員の個性は面白いが、事件に個人的にのめり込みすぎな感じ。 物語はよく練られている。 ただ、探偵殺しの真相はあまりに唐突な感じ。