◎14年4月


誰よりも狙われた男の表紙画像

[あらすじ]

 ドイツのハンブルクに母親と住むトルコ人のメリクは、街中で痩せこけた若者に三日三晩尾けられていた。 とうとう家まで尾いてきた若者を母親は家に入れる。 イッサと名乗るイスラム教徒は、チェチェン出身の不法入国者で医者になることが目標だと言う。 熱を出して苦しむ彼の首に掛かった袋には、ロシア赤軍将校の写真、アメリカの新札500ドル、キリル文字でタイプされた6桁の数字と小さな鍵が。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 スパイ小説の巨匠による新作。 冷戦はとうの昔に終わったが、テロとの戦いがスパイ、諜報戦を継続せしめている。 チェチェン出身の過激派とみなされた若者を巡り、ドイツ諜報部に英米の情報部も参入し、これにドイツの銀行の巨額の秘密口座や慈善団体の弁護士が絡む。 さほど長い物語ではないが、登場人物が多く、読み手としては混乱気味で、カレらしいエスプリの利いた文章も楽しめない。 設定自体に興趣が湧かないのが個人的な敗因。


コンプリケーションの表紙画像

[あらすじ]

 土曜の朝、リー・ホロウェイは父親の突然の死の知らせを受けた。 遺品の整理をしているときに父あての手紙を見つける。 プラハに住むヴェラという女性から、5年前に洪水で死んだと伝えられている弟のポールの死の真相について話したいとの内容。 リーはさっそく飛行機でプラハへ向かう。 カフェでヴェラと会うと、弟はルドルフ・コンプリケーションという歴史的に貴重な時計を盗んで殺されたと言う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ミステリアスな時計に加えて、迷宮のような古都プラハが実に魅力的。 時計の製作時代から現在までの間、いろいろな時代や場所に物語は自在に展開し、凄惨な連続殺人を背景に話は進む。 物語世界は時空を超えて広いが、登場人物は比較的少ないので、主人公と同様、不思議なプラハのガイドブックを持って街を彷徨っているような夢幻の感覚が味わえる。 手紙や録音採録など表現も多彩で、意表を突いたラストの衝撃も見事でした。


破門の表紙画像

[あらすじ]

 建設コンサルタントの二宮は二蝶会島田組の桑原から、小清水という映画プロデューサーに会うのに同行するよう強要される。 桑原はまさに二宮の疫病神だ。 二人は小清水に続きシナリオライターにも会い、若頭は3千万、桑原は3百万出資することにして、半金を映画の制作委員会に出資する。 ところが小清水はやがて失踪、携帯も事務所の電話も不通。 二人は急ぎ小清水の行方を追う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者の
「疫病神」シリーズの5作目。 今回はさらに好調という感じで、桑原と二宮の掛け合いは下手な漫才よりよほど面白い。 映画プロデューサーに騙される発端から、損失を取り戻すだけでは許さんと突っ走る桑原と彼に無理矢理引きずられる二宮の起こす大騒動は、ほぼ一直線に話が進む。 比較的厚みのある本だが、二転三転、行きつ戻りつ、ダレるところはない。 結末は上手くまとめながら、しっかり次へ続くものとしているのはさすが。


よるのふくらみの表紙画像

[あらすじ]

 保育園で働くみひろは同僚の滝川先生から、子供が欲しいならまず基礎体温を測るべきと言われ、3か月前から記録している。 隣の布団では残業で帰りの遅かった圭ちゃんが私に背を向けて寝ている。 今、圭ちゃんを襲えば確実に妊娠すると思うのだが。 同居して3年あまりたつが、最近は夫婦の交渉も途絶えている。 人数合わせに無理矢理誘われた合コンの席で圭ちゃんの弟の裕太に会う。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 幼なじみの兄弟のうち兄と結婚した女性、3人それぞれの心模様とそのまた両方の親夫婦のごたごたが描かれる。 精神的にも肉体的にも赤裸々な描写はいかにも作者らしいが、結局描かれているのは男女間の葛藤だけであり、収まるべきところに収まりました、という話だったのは少々物足りない。 それでも、前途は非常に多難だが、縋ることのできる微かな光が差すラストは、この物語の幕切れに相応しいし、なにかホッとしました。


ジェームズ・ボンドは来ないの表紙画像

[あらすじ]

 平成十三年の春。 瀬戸内海の島、直島。 中学二年、13才の峰岸遙香は何もない島にため息をついていた。 学校で進路指導も始まるが、遙香はこの島をもっと都会にしたいと思っていた。 島には岡山の進研ゼミの会社・ベネッセが建てた美術館とホテルがあるが、観光目的の来島者は少ない。 そのホテルに007シリーズの新作を書くというベンソンと言う名の小説家が取材のために宿泊した。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 実話に基づいた物語だそうだが、私はこの四国の島の話をまったく知りませんでした。 若さのエネルギーを”007映画”誘致にぶつける若い女性を主人公に据えて、実際の直島町や香川県庁等の活動をなぞっていく形式で話は進む。 書名からも結末は判明してしまっているが、諸団体の思惑の違いや責任のなすりつけ合いといった例によっての泥仕合めいたものはあるものの、主人公の性格そのまま、全体として爽やかな物語になっている。


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