江戸の中でも五本の指に入る名の知れた大店の天満屋の娘のお春は、芝居小屋・森田座の気鋭の役者・今村扇五郎に入れあげている。
お春は、誰にも告げたことはないけれど、今村扇五郎の女房になると心に決めていた。
しかし、その枠にはすでにひとりの女が居座っていた。
名前はお栄。
『役者女房評判記』によれば、顔は残念、身形は貧相、性格は分からずの加点はなし。
お春は憤慨した。
扇様の女房なら極上上吉でなければいけないのに。
[寸評]
江戸の芝居小屋を舞台とした六編の連作集。
それぞれ、大店のお嬢、小屋で饅頭を売る饅頭屋、衣装の仕立屋、小屋前で客を呼び込む木戸芸者、鬘師、そして扇五郎の女房を語り手として、常軌を逸したような芝居者の世界が描かれる。
ミステリー仕立てで最後まで引っ張るが、なんと言っても、“江戸っ子でぃ”といった感じの文章・台詞回しが最初はちと読みにくいが、実に小気味よく、良いテンポで読ませる。
看板役者・今村扇五郎の生き様に凄みがある。
山田風太郎賞を受賞。
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
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