金井希望が高一の六月、衝撃のニュースが世界に激震をもたらした。
三限の授業中、クラスのお調子者の男子がスマホを見て突然大声を張り上げたのだ。
それは人類滅亡の危機を告げる速報だった。
直径二十二キロの小惑星が百年後にアメリカ大陸西海岸付近に落下するのだという。
こんなものが直撃したら人類はおろか、大多数の生物が絶滅を余儀なくされるのは論を俟たない。
希望は高卒後に地元で就職したが、そんな折、友人の吉岡日向が自殺する。
[寸評]
百年後に小惑星が地球に衝突して人類の滅亡が見込まれる世界を背景とした六話の連作短編集。
一話ずつ終末に近づいていくのだが、危機を回避しようとする人類の試みも少し描かれるもののSFではなく、物語の主眼はその世界軸で生きる人々だ。
五話は設定も登場人物も変え、それぞれ趣向を凝らした作りだが、もうひとつ惹かれるものがなかった感じ。
最終話のみ前の話の登場人物が成長して出てきたりで何か得した気分になった。
“どうせ”だが“それでも”と思わせる話ではあった。
六月二十九日午前六時過ぎ、ケトルで湯を沸かしはじめたところにスマホが鳴った。
J県警媛上警察署捜査係長・日野雪彦は朝のコーヒーをあきらめた。
変死体が見つかったとの連絡。
彼はカフェインも妻の機嫌もとることなく、マンションを出て職場へ向かった。
市北西部の峠の旧道沿い、斜面がなだらかになった先に死体はあった。
俯せの遺体は顔が叩きつぶされ、人相の判別ができない状態で、加えて両腕とも手首から先が切断されて欠損していた。
[寸評]
犯罪捜査ミステリー。
捜査係長と部下の女巡査部長が実に丹念な捜査で、迷いながら本当に少しずつ真相に迫っていく。
無関係に思える伏線が幾重にも張られ、存分に練られた組み立てで、真相はかなり複雑で奥の奥にあるが、読みやすい文章でなんとか話についていけた。
日野とバーテンダーのやりとりはハードボイルドを気取った感じだが、日野もそれほどタフガイではないし、少しずれたか。
作中「あっ!」という場面は確かにあるが、帯の文言は少し過剰に煽りすぎかな。
ミリーは家事代行の求人広告に応募し、ニーナ・ウィンチェスターの面接を受けている。
ニーナはミリーより十歳以上年上の三十代後半か。
うっとりするような家だ。
四百万ドルか五百万ドル。
家具は超モダン。
部屋の一角には暖炉。
炉棚には一家で世界各地を旅したときの写真が置かれている。
一方、メイドの部屋は屋根裏にあり、とても狭い質素な部屋だった。
この部屋にはみぞおちあたりに恐怖の小さな塊を感じさせる何かがあるとミリーは感じた。
[寸評]
三部構成のサイコミステリー。
第一部はハウスメイドのミリーがウィンチェスター家で受ける不可解な出来事が綴られる。
第二部は雇い主のニーナが語るもので、第一部からすべてが大きく反転する。
大きな驚きというほどではないが、なかなかの衝撃だ。
そして第三部はミリーとニーナの語りでとてもサスペンスフルな物語。
登場人物は限られており、読みやすくスムーズな展開で、話にのめり込むように読める。
幕切れは続編を匂わせているが、本当に今年の年末に出るらしい。
昭和41年7月2日、ビートルズが来日していたとき、若い男が都内の喫茶店に店の主人と娘を人質に立てこもって、「ビートルズをここへ連れてこい」と警察に要求した。
犯人との交渉役の警視庁捜査一課係長の助言者として広報部にいた国生良夫警部補が派遣され、彼の従妹の泉沢香子巡査が同行した。
夜になっても膠着状態は続き、二人は食事休憩のため近くの飲み屋に入る。
その店で、ギターを抱えて流しをやっているという若者・鯨庭行也と出会う。
[寸評]
まずは天童荒太が探偵小説を書いたことに驚いた。
その経緯は巻末の作者の謝辞に書かれている。
中身は横溝正史の金田一耕助ものよろしく、名探偵が推理する少しだけおどろおどろしい正統派ミステリーだ。
終盤が窮屈になったものの、比較的平易な文章となめらかな展開でそこそこ楽しめたが、それ以上のものではなかったな。
なお、作中しばしば昭和中期の時代背景などが注記されているが、若い読者には理解しづらい点が考慮されたそうだが、私には少々煩わしかった。
株式会社C・F・C。
納棺師、生花装飾技能士、遺品整理士が集う小さな会社。
都心から車でおよそ一時間半、田園風景に囲まれた場所で、葬祭業の中でも特殊な部類の業務に携わっている。
世間では新年度を迎える今日、ここにも新卒採用二名と中途採用二名の計四名が入社した。
四名は特に人手が足りない納棺部で採用された。
納棺部二課課長の有明が採用面接と座学研修を担っている。
真面目の文字が似合う新卒の男の子、東雲が二課に欲しい子だ。
[寸評]
納棺業務の中で、主に状態が悪い遺体の顔の復元や特殊メイクをする特殊復元処置衛生課を舞台とした連作五編。
納棺師の仕事自体知識はほとんどないが、実に凄絶な仕事でたいへん興味を持って読んだ。
遺体の描写が生々しく、その傷んだ身体を修復していく技がとにかく凄い。
世間的には忌避される仕事に、いろいろと心に傷を抱えながらも仕事をこなしていく者たちのドラマは読み応えあり。
終盤の盛り上げは今ひとつという印象だが、面白かった。
小説現代長編新人賞受賞。
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
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