[寸評]
ちょうど3年前の前作「しゃべれども しゃべれども」がたいへん気持ちの良い本だった作者が久しぶりに登場。
若いスリと占い師という特異なキャラを配して期待させるが、ミステリー色を強めた物語で後半には過激な暴力シーンもあり、あまり気持ちの良くない話になってしまった。
精神的に脆い痛々しい女の子も登場し、読んでいて気分は下降気味。
スリ一家に面白いキャラを配しているのだから、そこに占い師を絡めた人情喜劇でも読みたかったところ。
[寸評]
物語は3つのパートで構成され、中心は亨の時空を超えた冒険談。
これに亨の現在の姿で、明らかに作者を思わせる理科系ミステリー作家の物語の創造に苦悩するパート。
そして19世紀半ばエジプトで遺跡発掘に奔走する男のパートが加わっている。
SF的部分は「ドラえもん」と「ふりだしに戻る」が融合されたような感じ。
もっとファンタジーとして面白くなってもおかしくないような設定なのに、わくわく度も中途半端。
作者の自虐的な独白や物語を否定するような描写も気になった。
[寸評]
精神的に深く傷ついた人たちを描く4編。
いずれもさほどドラマチックでもなく、どちらかというと平板に話は進むが、静かな感情の昂ぶりを感じさせる。
特に、子供の頃から親・兄弟に気を使い、他人に気を使って生きてきた若い2人が懸命に寄り添おうとする「やすらぎの香り」。
フリーターの若者がバイトしているコンビニで客が突然死したことから、生きるということ、命の重さに目覚める「喪われゆく君に」が印象に残る。
狂気の物語の多い昨今、こういう物語、こういう本が書ける作家は貴重だ。
[寸評]
ひたすら叙述トリックを書きつづける作者の意欲作。
かつて「遭難者」で凝った構成を披露してくれたが、今回は前代未聞の装丁。
表から(裏から?)読むと「首吊り島」、裏から読むと「監禁者」。
そして二つの物語の真ん中に袋とじの「倒錯の帰結」。
読む前からわくわくしてきます。
内容も謎また謎の連続。
そしてどきどきしながら開けた「倒錯の帰結」も単純な謎解き編ではなかった。
まさに最後の1ページ、1行まで楽しめます。
[寸評]
流れ者(ローヴァー)という名ののら犬が語る38編のエピソード集。
1篇5〜12ページ程度の短さだが良くまとまっている。
犬好きの私としては"のら犬"と聞いただけでホロリとしてしまうが、可哀想な犬の物語では全くなかった。
人間に飼われるなんてとんでもない、というローヴァーの哲学集とでも言おうか。
犬の姿を借りた作者の人生訓、男の処世術集といった趣き。
我が家の愛犬ももしやこんなこと考えてるのかとちょっと複雑な気分。
[あらすじ]
スリで捕まり刑期を終えた辻牧夫を刑務所まで迎えに来たのは師匠の家の早田のお母ちゃんだった。
ところが帰りの電車内でお母ちゃんの財布を若いグループスリにすられる。
牧夫はグループの1人の少年を追うが、投げ飛ばされ肩を強打したところを昼間薫、別名マルチェラという占い師に助けられる。
昼間の借家に居候して牧夫はグループを追うことに。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
今から20ほど前。
小説を書くのが好きな小学校6年生の亨は、1学期の終業式の日に普段と違う道を行き、奇妙で古い洋館を見つける。
「ミュージアム」というプレートが掲げられた建物に入り、美宇という女の子と出会う。
館内の扉を開くと、遙か彼方まで続くような巨大な回廊に、化石や非常に精巧で生きているような動物標本が鯨や恐竜まで並べられていた。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
紙業会社の営業マンの磯崎武史は妻と赤ん坊のなつみの3人家族。
大きな仕事を取り達成感と共にマンションに帰ると、妻の莎織が呆然としており、風呂で娘を殺しそうになったとしゃがみ込む。
何が起きたのか、理由も分からず武史はただただ混乱する。
なつみの腕の痣を見て莎織を疑い、医者からは夫の対応に問題があるように言われ怒り、仕事にも身が入らない。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
中堅推理小説作家の山本安雄は、悪夢から目覚めると首吊り島という別名を持つ島へ向かう船に乗っていた。
彼はアパートの一室に閉じこめられひたすら小説を書かされていたはずだった。
山本は島の網元の新見家に起きた不可思議な事件の解決を依頼される。
その事件は屋敷から海に突き出して伸びる通廊の突き当たりにある浮身堂という祠で起きていた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
のら犬ローヴァーはどの犬とも群れず、ひとり気ままに毎日を送っていた。
食べ物にありつける場所にも困らず、時には困っている犬を助け、時には気のあった雌犬と愛を交わす自由な毎日。
ある日、路地で肉を見つけ不注意から制服姿の人間に捕まってしまい野犬収容所へ。
ここでの猶予は6日間。
父親に連れられた少年の心を掴もうとローヴァーは懸命になる。
[採点] ☆☆☆★
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