◎01年12月



[あらすじ]

 1930年代テキサス東部の田舎町。 町の治安官兼理髪師を父に持つ11才のハリーと妹のトムは事故で傷ついた愛犬を始末するため森に入り、女の死体を発見する。 似たような状態の死体は3人目だが、被害者が黒人だったことから父の調査も進まない。 黒人たちは事件を大事にしたくなく、白人は無関心。 やがて竜巻が去った後、4人目の死体が木の上で見つかる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 11才の少年が語るノスタルジー色溢れるミステリー。 残虐な連続異常殺人がメインの事件だが、根深い人種差別、父権・家族の再生、少年の成長、子供ならではの超自然なものへの怖れ等々にこそこの本の読み応えがある。 ミステリー部分の決着の付け方は可もなし不可もなしという程度だが、生き生きした兄妹の姿と共に、他のドラマ部分は素晴らしい。 余分な甘さも加えることなく、この土地の風土・人間、時代の厳しさがしっかりと描かれている。



[あらすじ]

 勤めていた製菓会社のリストラにより代々薬売りをしている実家のある富山に戻ってきた麻史と静佳の夫婦。 住み始めた実家の隠居家の物置で、薬売りの財産とも言える顧客の詳細を綴った懸場帳を見つける。 亡き祖父が使っていたらしいそれには昭和22年の日付と曼荼羅道という聞き慣れない道が記されていた。 麻史は人伝てにその地へ向かう。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 変幻自在に時空を超えて綴られる人間たちの愛憎劇。 戦後まもなく曼荼羅道に向かった祖父と、亡き祖父の懸場帳を持って曼荼羅道へ入った麻史が時間を超えて未来(?)で巡り会う中盤以降は作者に幻惑されっぱなし。 社会、モラルの荒廃した世界の姿、曼荼羅道をひたすら歩き続ける奇妙な薬師参りの一行の造形は圧巻だ。 目を背けることを許さない人間同士の闘い、愛と憎しみの狭間で揺れ動く男と女の心に圧倒される。



[あらすじ]

 主人公の山崎は文人出版という小さなエロ本出版社の編集長。 午前2時。 部屋の電話が鳴る。 19年ぶりに聞く由希子の声。 プリクラを一緒に撮ってくれと突然言う。 彼女との出会いは22年前。 札幌から東京の大学に来た山崎はバイト先を探して道に迷い、入った喫茶店で泣いている由希子と知り合った。 3年間の彼女との日々が鮮明によみがえる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 将棋棋士の生涯を描いたノンフィクション「聖の青春」で知られる作者の切ない青春小説。 題名のパイロットフィッシュは、水槽に本来飼う魚の前に、住みやすい生態系を作る役割で入れられる魚のこと。 役目が終われば捨てられてしまう。 物語はけっこうドラマチックで変化もあるが、淡々とした語り口のためか、全編この水槽のように、静かで透明な印象の作品。 微かな音量の音楽が耳に残るような、はかないが確かに記憶に残る本。



[あらすじ]

 カリフォルニア州の刑事ボブの別れた妻と現在の夫が残虐な方法で殺され、14才の娘ギャビが拉致される。 犯人はサイラスという男が率いる"左手の小径"という名の極悪非道なカルト教団。 娘を奪い返すため、かつて教団に属していて麻薬中毒からリハビリセンターにいたケイスに協力を求め、ボブはサイラスを追う。 狂気と苦難に満ちた追跡劇が始まる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 全編激しい怒りに満ちた狂気のノワール。 物語は単純で、強引なまでに一直線に突き進んでいく。 登場人物の会話にはちょっとハードボイルドを意識しすぎたような新人らしい生硬さが感じられ、特にボブとケイスが追跡行を始めたあたりはお互いを攻撃し合う2人のやり取りに少々辟易とさせられる。 また敵の教団のその"教"の部分が見えず、単なるヤク中の集まりのようだったのも残念。 それでも行間から溢れ出す憎悪のパワーは凄い。



[あらすじ]

 翻訳家で詩人でもあった四条直美という女性が脳腫瘍のため45才で亡くなった。 物語は彼女の娘の夫であり、近所だった直美の家に子供の頃から出入りしていた私が、死ぬ前に直美が娘に残した録音テープを書き起こす形で綴られる。 祖父がA級戦犯という家に生まれた直美は、親の決めた許嫁との結婚を先延ばしするため70年の大阪万博のコンパニオンに応募する。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 洒落た書名と装丁に惹かれて、都会的な恋愛小説と思い手を出しましたが、やっぱりこの手の本は合わないな。 と言うか、病気の女性が過去の悲恋を娘に告白している形式なのだが、淡々とした語り口もあって、胸に響いてこない。 やはり小説なのだからもう少しドラマチックな展開が欲しかった。 舞台となっている万博には私も行きましたが、懐かしく思い出すようなイベントでもなかったし。 悲恋の原因もなぜ今この問題?と首を傾げました。


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