[寸評]
派遣切りにあい、漫画喫茶に寝泊まりしながら日雇い仕事に出る貧困女子の話は、新春1番の読書には少々辛いものがあったが、今の時代、かなりリアルな物語ではあった。 負の連鎖にはまって貧困から抜け出せず、結局女を売りにする仕事をしながらも、最後の一線をどうしても踏み越えられないあたりの彼女の気持ちも良く描けていると思った。 それでもこの主人公にはまだ頼れる者が複数いるわけで、終盤の展開も含めて、まだ若干の甘さも感じたが。
[寸評]
30ページ弱から40ページほどのミステリー短編6編。 短編の場合、終盤の切れ味の鋭さで作品の良し悪しはあらかた決まると思うのだが、この作品の諸作はどうもその点が弱い印象だ。 聞いたこともないような特異な病気を持ちだして着地させようという話などどうかと思うし、いずれも鋭さがなく、じんわり効いてくる感じ。 ただ、突出した作品はないが、どの作品も物語の設定は凝っているし、上手くまとめてあり、飽かせず一気に読ませる面白さはある。
[寸評]
黒人のテキサスレンジャーが、今なお人種差別意識の激しいアメリカ南部の田舎町で黒人と白人の殺人事件を捜査するミステリー。 主人公の私的・公的な現状や田舎町で起きた事件の概要をあらかた理解するまでには頁数を要するが、その後はスムーズに流れる。 根強い黒人蔑視の環境の中であくまで正義を貫こうとする主人公の姿勢は潔い。 過去からの長い積み重ねの人間ドラマとしても練られているし、最後には思わぬ驚きの結末が待っている。
[寸評]
人が死の間際に遺す赤い珠“ぎょらん”をめぐる連作短編集。 それを口にした者には、死者の最後の情念が見えるという。 怪しい話ではなく、葬儀社を主舞台に据えた人間ドラマだ。 人の死にまつわる話なので辛く苦しみは多いが、ずーんと沈み込むような語りでないのが良い。 登場人物それぞれの造形もしっかり書けていると思うし、新人葬儀屋の朱鷺の生真面目なキャラクタも好感が持てる。 採点は少し辛めだが、もう一段の深みがあればと感じた。
[寸評]
作者が得意とする歌舞伎ミステリーで、「壷中の回廊」に続く設定の作品だが、前作を読んでいなくてもまったく問題ない。 歌舞伎界の様子や、戦争に向かって進んでいく当時の世相がしっかり描き込まれて興味深く、物語が最初から最後まで丹念に練り上げられていると感じた。 娘の見合いの顛末もセンチメンタルな雰囲気が感じられて好ましい。 ただ、ミステリーとしてはたいへん真面目で丁寧、破綻無く作られてはいるが面白みにやや欠けたようだ。