[寸評]
10数ページから20ページ程度の雑誌掲載ホラー短編11編。
幅広いジャンルを書き分ける作者だけにこの短編集も面白くないわけがない。
じわじわ怖くなるもの、瞬間ギャと声を上げそうになるものなど、バラエティに富んでいるが、いかんせん短い。
紙数の制約からひねり一発で決めなければならないので作者も大変だが、外した場合はそのまま終わってしまうわけで、そういう話もいくつか。
おなか一杯にはなりませんね。
[寸評]
ベテラン作家の熟練の騙しのテクニックが存分に発揮された誘拐劇。
二転、三転する展開に、読み手は翻弄される。
中盤、子供がおずおずと身代金を差し出す場面は思わずのけぞるような衝撃。
後半は、一転して事件関係者の独白が続くが、幻の女に絡めとられた男の描き方も見事。
余韻のある終わり方もいい。
ただし、その後の最終章はまったく余計で、第1の事件をただなぞるような短い章をなぜ加えたのかが謎です。
[寸評]
「オール讀物」誌に連載されている”あくじゃれ瓢六”シリーズの3冊目の単行本化。
連作短編7編からなるが、今回は馴染みの飯屋「きねへい」の主人・杵蔵に絡んだ事件の決着までが7編通して主に描かれる。
時代小説としてのしっとりとした人物・情景描写、謎はほどほどだがミステリとしての展開の妙、瓢六とやきもち焼きのお袖の関係や弥左衛門の結婚話など人間関係も面白く、実に安心して読めるシリーズ。
[寸評]
第一章でメインキャラの”るり姉”がいきなり重そうな病気で入院しており、この先どう話を進めていくのか心配したが、いやいや面白い。
というか、非常に気持ちの良い物語に感心した。
会うと三姉妹がわれ先にと話しかける”るり姉”の自然で魅力的な造形が素晴らしいし、登場人物が皆、笑って怒って泣いて歌って、実に生き生きとしているのもいい。
みながそれぞれ”自分”を生きている感じが素直に伝わってきます。
[寸評]
40ページ程度の短編5編で、小学生の女の子が語る最初の物語以外は医師がメインやサブのキャラとなっている。
日常の中のちょっとした転機となるような場面が描かれるが、さほどドラマチックでもないそれを鮮やかに切り取って見せるあたりは、さすが映画監督だと思わせる。
面白さという点では最初の物語が群を抜き、へき地での駐在医の交代の話などは、なぜか2話あるが、いずれもややありきたりな印象。
[あらすじ]
読み切り短編の締め切りは明朝7時がデッドラインで残りは22枚。
どうやら腎臓業で長く入院している母の病院に行っていた妻が戻ったらしい。
1階の台所から水音や歩き回る音が聞こえる。
そこに電話が。出てみるとなんと妻だった。
だったら下にいるのは誰だ。背中がうすら寒くなった。
もしや母では。今夜あたりがヤマなのかもしれない。
母の思いが飛んできたか。
ふいに背後に人の気配を感じた。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
木曜の昼下がり。
香奈子は、5歳になったばかりの圭太とスーパーマーケットに立ち寄った。
駐車場の隅に停まる白い車が気になる。
スーパーに入ると離婚前まで住んでいた世田谷の家の隣家の主婦と出会ってしまう。
お喋り好きの彼女に話を合わせているうちに啓太の姿が見えなくなった。
圭太を捜していると白い車がひどく慌てた様子で走り出すのを見る。
まさか啓太はあの車の中に。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
瓢六は、とびきりの色男で、知恵もあれば愛嬌もある。
実家は長崎の古物商「綺羅屋」、瓢六は唐絵の目利きをしていた。
今は江戸は北町奉行所の同心・篠崎弥左衛門の捕り物の手伝いをしている。
その弥左衛門は、上司の与力・菅野一之助から旗本家の家宝の屏風の探索を命じられていた。
白昼、町の真ん中で持ち去られ、行方知れず。
菅野は人脈豊富な瓢六を使うよう指示を出す。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
高校1年のさつきは、中3のみやこ、小6のみのりと三姉妹。
3人の母は精神科病院の看護師で、父とは10年近く前に離婚した。
夜勤もある母を3人で手伝う。
るり姉は母の妹なので叔母さんになるが、小さい頃から3姉妹の記憶のどこかに登場する、大人と子供の中間のひと。
そのるり姉が入院したという。
検査入院らしいが、母がわざわざ仕事を休んで、るり姉のところに行ったことを知る。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
小学6年の私は、自宅のある神和田村から浜岡市へ、週2回往復3時間バスに乗り、塾に通っている。
最終バスで、終点の私の村に着くのは10時過ぎだ。
塾のトイレの順番待ちで私の前に立ったのは匂坂さんだった。
彼女は、さらさらと音を立てるような長い髪、成績はいつも上位で、中でも「匂坂月夜」という名前の輝き方は特別だ。
彼女が前髪を切ったのに気付き、その夜私も前髪を切った。
[採点] ☆☆☆★
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