◎04年11月



[あらすじ]

 昭和初期のにおいを漂わせる煉瓦造りの3階建ての洋館。 文筆業の私は、「叔母殺人事件」の舞台となったこの家に住み、犯罪ノンフィクションを書くため、「清瀬」という表札のかかった扉を開けた。 叔母の清瀬富子と住んでいた甥の名倉智樹は殺人罪で逮捕された。 几帳面な性格だった彼の手記がこの家のどこかに隠されていると私は確信している。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 約2年ぶりに折原一のが作品を読んだが、十分に楽しませてくれた。 館に住み着いた男が徐々に真相に近づく過程と殺人者の手記が交互に綴られ、読者が混乱しない程度に、謎がちりばめられている。 勘のいい読者なら真相は途中で割れてしまうが、終盤の畳み掛けるような展開もあって、面白さはいささかも減じないところはさすが。 この男はなぜ執拗に事件を追うか、智樹、おば、そしてもうひとり、役者の配置も見事だ。



[あらすじ]

 4年前の29歳、銀座のデパート店員だった河野は3億円の宝くじが当たり、会社を辞めた。 田舎でひっそり暮らそうと、敦賀の古い家を買い取り一人暮らしを始めた。 春の終わり、ファンタジーがやって来た。 色の褪せた金髪、灰色の目、白いローブを着た四十がらみの男の姿で。 ファンタジーは神様の親戚みたいなもので、河野の家に居候に来たと言う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 たかだか150ページの小品中編だが、心地良い感動と余韻を与えてくれる。 ふわふわとした筆致が気持ちよく、といって上辺だけの軽い作品ではなく、適度な重みを感じさせる物語。 比較的低級(?)な神様らしいファンタジーなる存在も、登場人物らと同様、不思議なほどすんなりと受け容れられる。 中盤のロードノベル部分も面白く、会話に楽しみ、悲しい展開には自然に涙し、温かなラストの余韻に静かに浸れる秀作。 必読。



[あらすじ]

 1990年の夏、京都の大学生だった師井巌は父親の金銭トラブルに巻き込まれ、同じく19才だという袴田風太に連れられて新宿の古いホテルにやってきた。 そこでホテルを切り盛りしているハルさんという老婦人に、自分が幼い頃死んだと聞かされていた母親が、最近このホテルに来たと告げられる。 近所には、祖父の家があることも判り、早速そこへ向かうが。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ハードボイルド中心の作者の久しぶりの作品は青春サスペンスだった。 19歳のたったひと夏に起きた出来事としては非常に盛りだくさんで、あれこれ趣向を変え、最後までとにかく読ませる。 だが、なぜ今この物語か、天安門事件などまで出てくるが、ノスタルジー色の強い書き方でもなく、1990年に意味があったのか。 主人公の少年期から青年期への成長という点も、この物語には重要な要素のはずと思われるが、少々物足りない。



[あらすじ]

 28歳の瀬戸口は、地震学を学んだポストドクターで地震予知のコンピュータシュミレーションを研究している。 11年前、高校3年生のとき神戸で阪神淡路大震災に遭い家族を失った。 ここ数か月、伊豆周辺の地震の数は増加しており、あと6か月でマグニチュード8クラスの東京直下型地震が起きるという推論を持つに至った。 神戸出身の議員に訴え出るが。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 先頃の中越地震の直前に出た本作はまさにタイムリーな一冊で、レベルを超えた迫真性を持つことになった。 物語の流れから当然ながら地震は起こるのだが、そこまでの緊迫感は相当なもの。 しかし地震発生後の描写は、報道からにしろ強烈な現実を目の当たりにしてしまった現段階においては、文字だけの描写ではやはり迫力不足。 いずれにしろ東海地震警戒区域内に住む私にとっては単なる読み物ではありませんでした。



[あらすじ]

 前作
「本棚探偵の冒険」に続き、本業はマンガ家である作者が古本道にどっぷりと浸かっている様が描かれる。 神田神保町のすべての本屋で1冊ずつ必ず本を買うゲーム。 小説のアンソロジーを編むことへの挑戦。 出版不況を救うため、一駅ごとに電車を降りては駅前の本屋で1冊ずつ新刊本を、1日で合計5万円買うこととし、悪戦苦闘する様子など。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 本の蟻地獄に落ち(自分から飛び込んだか)、苦痛と歓喜の涙を流す作者の姿に、笑いながら思わず自分を振り返るような前作は本当に傑作だった。 本作はその続編で、「小説推理」や「ダ・ヴィンチ」連載のエッセイをまとめたもの。 前作の豆本から今度はミステリのトレーディングカード作りなどもあり、本好きなら十分楽しめる内容だが、いっぱしのコレクターとして名を成した余裕のようなものが感じられ、文に熱が無いのが残念。


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