◎17年10月


フロスト始末の表紙画像

[導入部]

 デントン・ウッドの森で飼い犬が人間の片足を見つけたとの通報がデントン署に舞い込む。 その頃、署ではジャック・フロスト警部が自分のオフィスで車輌維持経費の申請書のちょろまかしをしていた。 フロストが土砂降りの中で片足を回収して戻るともはや帰宅するには遅すぎる時刻。 疲労の色濃いフロストは署でひと眠りし、翌朝は、暴行被害に遭った15歳の女の子から状況を聴取するため病院へ向かった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 “フロスト警部”シリーズ6作目で、作者が亡くなり最終作となるが、本国イギリスでは遺族の許諾を得た他の作家がシリーズを受け継いでいるそうだ。 本作も今までの諸作と同様、デントン署管内に次々に事件が起こり、フロスト警部は夜昼かまわず奮闘するが、どの捜査も中途半端で右往左往するばかり。 思わず吹き出すような下品なジョークを連発しながらの悪戦苦闘ぶりも同様だが、かなりの長尺でもよく整理されていて読みやすく、相変わらずの面白さ。


東の果て、夜への表紙画像

[導入部]

 15歳の黒人少年イーストは、麻薬斡旋所の見張りを受け持つ少年たちを束ねていた。 彼にはそこの世界−箱庭(ザ・ボクシズ)がすべてだった。 家を出て誰も知らないところでひとりで寝泊まりしている。 その日、イーストの携帯電話が鳴った。 北の見張り位置のニードルからだが、聞こえてくるのは荒い息遣いだけ。 イーストは何かが来ると感じ、斡旋所の仕切り役のシドニーにすぐに逃げるよう連絡する。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 LAの犯罪社会に身を置く黒人少年が、ボスに命じられ三人の仲間と共にある人物を殺しに旅立つ。 車で東へ2000マイルに及ぶ長い旅。 物語は大きく分けて、その遙かな旅と、仕事の顛末、その後のイーストの変転に三分される。 日本では想像もつかないほど広大で、荒んだ銃社会のアメリカで、ひとりの黒人少年の我が身の置き所を探すような旅路と彼の成長が綴られる。 動きのある冷たく厳しい物語だが、全体の印象は静かで淡々とした秀作。


息子と狩猟にの表紙画像

[導入部]

 倉内がベランダに装備を広げていると小学六年の長男が話しかけてきた。 次の猟がいつか知りたいようだ。 ときどき一緒に山歩きする息子が猟に興味を持ち始め、冬になったらと誘っていた。 狩猟シーズンが始まって半月、本格的に雪が降る前がいい。 12月の金曜の朝、天気予報を確認し、会社へ行く直前に、息子に今日の午後の出発を告げる。 11時からの会議を終え、半休を取って会社を出た。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 表題作と世界第二位の高峰K2への登山話の2作。 表題作は、小学生の息子と山へ狩猟に出かける話と、オレオレ詐欺のまとめ役をしているヤクザ者が追いつめられる話が並行して描かれる。 週末狩猟者として山へ入り、動物を撃ち殺して食べるという行為は、農耕民族の私には理解不能。 自らの喜びのため、帰途の駄賃のように子鹿を撃つ行為はどうだろうか。 K2の話は緊迫感があったが、凄惨で、読んで気持ちの良い話ではない。


樹脂の表紙画像

[導入部]

 私たちは本島の北にある“頭”という名のちっぽけな島に住んでいた。 そこに暮らしていたのは私たち一家だけ。 自給自足の生活を送っていた。 お父さんがおばあちゃんを殺したのはクリスマスイブの日。 リビングの天井からクリスマスツリーがぶら下げられていた。 お父さんはリビングを広く使おうと、大量の物を天井に届くほど高々と積み上げていた。 お父さんとお母さんはプレゼントを手作りしてツリーの下に置く。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 デンマークの僻地に住む奇妙な一家の物語で、ほとんどはリウという名の一家の娘の語りで綴られる。 北欧で多くのミステリ関係の賞を受けた作品。 動きは少なく比較的静かに進んでいく物語だが、世間から隔絶された地で少々風変わりな家族が徐々に狂気の域に進んでいく様子は、終始ぞわぞわするような緊張感と不安感を読み手に感じさせる。 母親のリウあての手紙が時折挿入される構成も良く、終盤の嵐のような展開はなかなか見事だ。


13・67の表紙画像

[導入部]

 香港の名門一族で豊海グループの総帥が自宅で殺された。 当日自宅にいた息子の兪永義と永廉ら5人が香港警察のロー警部に呼び出された。 場所は大きな病院の病室。 そこにはひとりの老人が両目を閉じ、腕には医療機器と繋がった何本もの細い管という状態で横たわっていた。 老人は本庁付けの特別捜査顧問・クワン警視。 ロー警部はクワン警視の助けを求め関係者をこの病室に集めたのだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 香港警察で“天眼”と呼ばれたクワン刑事を主人公にした推理中編6編。 全体としては社会派の衣をまとった本格ミステリーで、6編それぞれの時代は2013年から1967年へと遡っていく。 私にはちょっと苦手な本格ものだが、ていねいに詰めていく語り口で進行は分かりやすく、物語の仕掛けも多彩でたいへん面白い。 時代ごとの香港の社会環境・情勢、警察の状況なども興味深く描かれている。 推理ものとしても警察小説としても見事な作品。


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