[寸評]
前作「犯罪」で強烈な印象を残した作者の第2作。
前作同様、人間の”罪”に関わる短編が15編収められている。
長いものでも30ページ、短いものは正味3ページしかないが、いずれも淡々とした簡潔な描写で迫ってくる。
最後のおまけ?の一編はともかくとして、今回は比較的救いのない暗い話が多かった。
刑罰に処せられる、処せられないとは別の次元での人間の罪悪について、次々とその例題が並べられていく。
[寸評]
昔パリに住んでいたこともあるからか、作者のミステリーはフレンチノワールの雰囲気が仄かに漂う佳作が多いが、久し振りに探偵・竹花を主人公とした本作も、人生の悲哀を感じさせながら十分楽しめる。
前半は関係者がどんどん広がっていって、このまま読み進めるのは苦しいかと危惧したが、後半は物語がストレートに展開して引き込まれる。
大金目当てに儲け話を持ちかける騙しの手口も臨場感がありなかなか面白い。
[寸評]
男の子育て物語。
それも子供は生後まもなくだし、そもそも父親でもないのだから凄い。
赤ん坊がいなければ話をすることも、繋がりもなかったであろう人の輪の物語は、少し長いが幸せな気分にさせてくれる。
苦しい、大変、はもちろんだけど、日々成長していく赤子を見る喜びに全編が満ちている。
主人公はちょっと冷静で観察力旺盛だが、本当の子育てはそんなことを思う間もないドタバタだと、ウン十年前を思い出しました。
[寸評]
「蜩ノ記」で直木賞を受賞した作者の新作。
勇猛な武士でありながら人には優しく気遣い、領民を大切にし、絶対に裏切らないという”立花の義”を貫いた男の物語は、あまりに格好良すぎるし、また彼を取り巻く正室、側室、家臣たちも誰もがかっこいい者ばかり。
センチメンタル度も高いが、それでも素直に感動させる力がある。
浮き沈みの激しい物語は、1.5倍ほどの長さが欲しかった思わせる一気読みの気持ちの良い好編。
[寸評]
人生に疲れ果てた男女3人が、ともかく死ぬ前に東京から離れた南の半島の湾に迷い込んだクジラを見に行くという物語。
4章立てで、前3章は由人と、由人の会社の女社長の野乃花、そして母親の過度の干渉から家出した16歳の正子の、それぞれの追い詰められていく様子がリアルに描かれる。
最終章はクジラを3人が見に行くロードノベルっぽい話で、まとめ方も自然で、現実そして自らを受け入れた先に微かな光も見える感動作。
[あらすじ]
ヨーロッパのその小さな町は、暑い8月1日に六百年祭を祝っていた。
お馴染みの屋台が並び、大人たちはみな、白いズボンをはき開襟シャツを着ていた。
ブラスバンドを結成していた男たちは、かつらをかぶり、つけ髭を付け、顔に白粉と口紅を塗っていた。
彼らは酒を飲みすぎていた。
演奏が終わり、幕の裏でまたビールを飲んでいた。
そこでは17歳の娘が給仕をしていた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
私立探偵の竹花は、元総会屋で今は隠居の身の中里睦夫の依頼で奥宮綾子を探していた。
綾子は30年近く前に中里の愛人だったが、中里が恐喝事件で逮捕されたとき縁を切り、出所後には行方不明となっていた。
辿りついたマンションの部屋から若い女と男の子が出てきた。
表札には奥宮の文字。
そのとき、外で悲鳴が。
子供が通りで拉致されるところだった。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
菱山は伊都川市にある地域密着型の伊都川日報の記者。
40代独身だが、今は生後2か月足らずのなずなという名の赤ん坊と暮している。
なずなは弟夫婦の子供だが、旅行会社勤務の弟はドイツで交通事故に遭って大怪我を負い現地で入院中。
なずなの母親である義妹はウィルス性感染症のためやはり入院中。
社主の梅さんが在宅での勤務を許してくれた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
慶長五年(1600年)10月、筑後柳川十三万石の領主立花宗茂が率いる軍勢が柳川城へ向かっていた。
秀吉に大名に取り立てられ西国無双と賞賛された宗茂だったが、関ヶ原の戦いで敗戦、西軍側の他陣営の戦いぶりに落胆し、九州に戻るところだ。
城まで一里ほど手前で宗茂は隊列を離れ、妻が住む宮永村へ向かう。
妻とは4年前から別居していた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
24歳の田宮由人は北関東の農家の次男で、東京に出て専門学校から社長含めて8人の小さなデザイン会社に就職。
仕事の単価が下がって、いくら仕事をこなしても会社はかなり危ないようだ。
由人は専門学校時代に知り合ったミカとつきあっていたが、仕事に追われミカともろくに会えない。
日曜深夜、ようやくミカのアパートに向かうと見知らぬ男とミカが。
[採点] ☆☆☆☆
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