◎09年12月


銀座ブルースの表紙画像

[あらすじ]

 昭和21年1月、警視庁築地署の刑事、武田幸史郎は露店が軒を並べる銀座を歩いていた。 戦時中に特高警察員だった武田は、共産党員を殴り殺してしまい、記録を抹消され築地署に左遷された。 敗戦となり特高警察員は公職追放され、結果として武田は警察に残っている。 仕事の傍ら、闇屋のあがりをくすねたりしている。 そんな中、諸物価上昇の折に、洋酒の闇値が下がっているという話を聞く。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 7月に出版され、さしたる話題にもならなかった本だが、ミステリファンなら読んで損はありません。 帝銀事件や下山国鉄総裁変死事件など、戦後まもなくに起きた不可解な事件を取りこんで、混乱の東京を泳ぎ喘ぐ刑事を描く短編6編。 事件の複雑怪奇さに比べページ数が少ないが、主眼は武田刑事の生き様で、ダークな描写で当時の世相を巧みに感じさせる。 最終話はもっとドラマチックな盛り上げが欲しかったところ。


夕暮れをすぎての表紙画像

[あらすじ]

 デイヴィッドは婚約者のウィラとアムトラックでサンフランシスコに向かっていたが、列車故障でワイオミング州の荒野の駅舎に足止めを食らっていた。 明日にならなければ迎えの列車も来ない。 駅舎では多くの人が不平不満を言い合っている。 そのうちウィラの姿が見えなくなる。 彼女は夜のネオンを恋しがっていた。 町までは5キロある。 日も落ちて暗くなり、狼の出る道をデイヴィッドは歩き出す。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者の第五短編集の前半部分がこの本で、10〜100ページの中短編7編から成る。 いずれも恐怖と幻想の見事な世界が構築されている。 中でも、自らが受けた9.11の影響を作品に残したかったという「彼らが残したもの」は50ページ足らずだが素直に強い印象を与える。 「ジンジャーブレッド・ガール」の前後半の緩急のつけ方、後半のスリラーの徹底した盛り上げ方も凄い。 大長編でも短編でもキングの作品は面白い。


犬なら普通のことの表紙画像

[あらすじ]

 48歳のヨシミは、沖縄の暴力団運天会真栄城一家の盃を受けている。 父親はアメリカ兵でベトナムで戦死。 母子は米軍ハウスを追い出され、東京へ。 その母も死に、ヨシミは新宿の暴力団で下働きばかり。 40を過ぎて沖縄に戻ったが、その日にこの島を出ようと思って8年たった。 日曜の未明、ヨシミは銃を持って、自分の組の企業舎弟の会社倉庫に侵入する。 今夜は大金が金庫に保管される日だ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 滴る汗、沖縄の暑さがじりじりと伝わってくる、ノンストップ・クライム・ノヴェル。 血飛沫の霧が舞うほどの銃撃戦が展開される、国内物には珍しいド派手なアクションも見ものだが、当初から設定されたタイムリミットに向けて、裏切りの連続で中だるみなく物語は進む。 登場人物は多いが、上手に描き分けられており、読むのに混乱はない。 中でも、首にエリマキのような傷を持つ不気味な殺し屋?の存在感が抜群だ。


心から愛するただひとりの人の表紙画像

[あらすじ]

 わたしはブランドンと、モリーはキースと別れたばかりだから、あいつらが来る今度のパーティーに行くため二人とも体重を落とす必要があった。 いい女だということを連中はじめ皆に見せつけなくては。 それでコカインでダイエットをすることに決定。 ほんの少しの量で何時間も走りまわれるし、お腹も空かない。 買える場所もモリーの友人の友人の友人に教えてもらった。 (「クラック・コカイン・ダイエット」)

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 「現代短編の名手たち」の一冊で17編が収められている。 私はローラ・リップマンの良い読者とは言えないが、今回はなかなか感心させられた。 冒頭の「クラック・コカイン・ダイエット」で頭をガツンとやられ、ブラックなもの、ひねりを効かせたものなど、切れ味のいいものが揃っている。 作者には冗長な印象を持っていたので、「テス・モナハン」シリーズよりいいんじゃないですか。 ペレケーノスによる前書きが、また見事。


秋から、はじまるの表紙画像

[あらすじ]

 私は大卒ながら、家業の歯科医院の夜間受付を週三度手伝うだけの現代版素浪人。 リッちゃんは私の伯母。 ストッキングをメインにした札幌にある輸入卸販売会社の社長。 47歳、独身で、年齢が上がるにつれますますきれいになっていくようだ。 恋愛ごときに時間を使いたくないと言っていたリッちゃんが、好きな人ができたと私に告白した。 洋食のケータリング業をしている40前の男に初恋だ。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 仕事一筋だった叔母の恋と、25歳の語り手の恋を絡ませて描く家族系小説。 少々、言い回しや単語が古臭いというか、死語の世界というか、固いところがあって前半はいまひとつ物語になじめず、後半は主人公が20代半ばにもなって、中学生並みに自分勝手に周りに当たり散らす様子にげんなり。 退屈させられることはなくサクサク読めるが、まとめも少々安直な感じで、今年の最後を飾るところまではいきませんでした。


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