◎11年11月


ローラ・フェイとの最後の会話の表紙画像

[あらすじ]

 歴史学者で三流大学の講師のルーク・ペイジは自著の宣伝をするため、自費でセントルイスへ飛び、博物館で講演を行った。 熱のない聴衆の中にローラ・フェイ・ギルロイを見つけ、驚く。 20年前、アラバマの田舎町でルークの家族に起きた悲劇のきっかけとなった女。 ローラ・フェイは父の経営していた小売店に勤めていたが、父は彼女の夫に撃ち殺され、母も失意のうちに亡くなった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 講演会後にホテルのラウンジで交わされる主人公とローラ・フェイの会話が全体の9割を占める、ある種、実験的な作品。 二人の会話と時折挟まれるルークの回想だけが延々と続き、じりじりと、しかし着実に終幕に近づいていく展開に、なんら退屈さも感じさせないのは、さすがクック。 淡々として派手な見せ場もないので娯楽性は薄い。 暗く重苦しさの残る結末の多い作者だが、本作は晴れ晴れとした幕切れ。


ブラッド・ブラザーの表紙画像

[あらすじ]

 アラバマ州モビール市警のカーソン・ライダー刑事は、ニューヨーク市警から緊急の呼び出しを受ける。 空港から直行した先で、ウォルツ刑事に導かれたところには女性の死体が。 首は切り取られ、切り開かれた下腹部に突っ込まれている。 その女性は、アラバマにある異常殺人者矯正施設の所長だった。 ライダーに連絡するように、と彼女が話すビデオが発見されていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者の本を読むのは4年半振り3冊目、どれもサイコ・スリラーだが今作が最も面白い。 冒頭の凄惨な衝撃からラストまで、サスペンスたっぷりの一気読みの快作。 派手な描写だけでなく、物語の展開にも驚きが用意され、何本もの糸を見事に繋げていく。 名作
「羊たちの沈黙」や作者のデビュー作「百番目の男」との類似も、その面白さを減じることはない。 これで登場人物たちの情感が滲み出てくれば最高です。


舟を編むの表紙画像

[あらすじ]

 大手総合出版社の玄武書房で辞書づくりひとすじの荒木は、定年間近に新しい辞書の企画立ち上げを目指していた。 その名も「大渡海」。 そして後継となる社員探しに奔走。 訪れた第一営業部で、言語学専攻、院卒3年目の馬締光也を発見。 見事な手際で備品棚を整理する姿を見て異動を交渉したところあっさり認められた。 馬締は営業部ではかなり浮いていたらしい。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 辞書づくりにのめりこむ人たちを描く小説で、登場人物がいかにもステレオタイプというか、らしい人物ばかりだが、逆にそれでないとこういう話は面白くない。 お約束のような予想通りの展開も納得。 もう50ページ程度、もう少し紆余曲折、舟が大波にもまれる様子が読みたかったですね。 こういう人たちもいて世の中は回っていくわけで、作者にはこの路線も忘れず続けてほしいところ。 やっぱり本は紙でないとな。


夜明けのパトロールの表紙画像

[あらすじ]

 サンディエゴ市警の刑事だったブーン・ダニエルズは、ある事件をきっかけに警察を辞め、サーフィンを中心に、私立探偵もしているという生活。 仲間たちと毎朝、朝焼けサーフィン(ドーン・パトロール)の日々。 2日後には、遥かアリューシャン列島から史上空前の大波が到達する見込みなのだ。 そんな時、よく依頼をくれる法律事務所から急ぎの仕事が舞い込んでしまう。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 娯楽小説の達人、ウィンズロウの新シリーズ第1作。 探偵が趣味でサーフィンが生活という主人公に、キャラが立った仲間たちを配して、作者が思う存分楽しみながら書いているという印象。 物語もまるで読み手までサーフィンをしているがごとく、ワクワクしながら波に乗り、いよいよボードに立ち上がって歓声を上げながらラストへ。 とにかく面白いですわ。 シリーズものらしく、すべてに決着はつけず次へ持ち越しも上手い。


心に雹の降りしきるの表紙画像

[あらすじ]

 都筑寅太郎は県警一課の刑事。 井狩治夫から娘の有力な手がかりが得られたとの連絡を受け、彼の自宅に向かった。 井狩は7年前、5歳のひとり娘を何者かに連れ去られたのだ。 そこには興信所の梅崎という男が。 一目見て小悪党のペテン師と分かった。 娘がいなくなったときの服をフリーマーケットで見つけたという。 どうせ井狩が出している報奨金目当てと踏んだ。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 娯楽性に富んだハードボイルド・サスペンスでは定評のある作者ゆえ、本作も水準以上。 連れ去られた少女が生きているのか、これだけで十分に引っ張れるが、DVから逃れた母娘など他の要素も詰め込んで適度に物語を複雑にし、しっかり結末へ導く。 人物関係や話のまとめ方も好印象。 冒頭、主人公の刑事が悪徳警官めいて描かれているのに、憑かれたように事件解決に向け突っ走る様子は少し違和感があった。


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