[寸評]
日本ミステリーでは珍しい国際謀略もので、国境の島、対馬と東京を舞台に話は進む。
とりわけ公安警察が自らの情報収集のため、協力者を選択し、接近、取り込み、手先として利用していく手順が事細かに描かれ、緊張感に満ちた場面が続く。
公安と刑事警察の確執も緊張を高めてくれるが、ラストのいざ"事変"となったあたりのアクション場面はもう少し派手さがあってもいいと思った。
面白さ、盛り上がりは全体に今一つ。
[寸評]
実に爽やかな、嫌みのない、素直な青春小説。
決して真面目ないい子ばかりが出てくるような話ではないし、主人公自身もラブホテルを住処にしているような青年だが、周りの奇人・変人たちも楽しく魅力的なキャラばかり。
そもそも文楽という世界に身を置くところからして特殊だが、芸を追求しつつ恋に身を焼く健の奮闘ぶりが実にいい。
相手の未亡人の潔さにも感心。
まるで興味がなかった文楽も一度は見てみたくなった。
[寸評]
分類でいえば歴史ロマンファンタジーということになるそうだが、その面白さは滅多に読めないもの。
2人の男の、国を治め、民を守る立場の者としての壮大な試み、とりわけ白銀の王"薫衣"の、国中の者に誤解されながら信念を貫き通す潔さは、まさに男として、人間としての理想を思わせる。
登場人物の名前が読みにくいのには閉口したが、この圧倒的な物語の中では瑣末なこと。
静謐で深い余韻を持つエピローグも感動的。
[寸評]
10〜30ページ程度の13編の短編集。
原書の副題は"刑務所と犯罪と男たちの物語"。
といっても、派手なアクションが飛び交うような犯罪小説ではない。
アメリカの片田舎、片隅に生きる少々ヤバい男たちの人生の一部分が比較的淡々と描かれる。
そこには、何が善で何が悪か、どう生きるべきかなどという説教めいた上から見る世界はなく、ただ男がいる、逃れ者の人生がある、それがリアルに描かれ、実に余韻が深い。
傑作だと思う。
[寸評]
一筋縄ではいかない悪党たちが主役の犯罪小説で名高い作者には珍しい歴史冒険小説。
キューバというとカストロによる革命が思い浮かぶが、この作品の舞台はそれを遡ること60年。
スペイン統治のキューバの様子がとても興味深い。
カウボーイを主人公に、舞台を次々に転換し、アクションもたっぷりの冒険譚は、娯楽性十分で面白い。
ただちょっと長い。
もう100ページほど絞れば全編快調なテンポを保てたと思いますが。
[あらすじ]
日本本土より韓国のほうが近い国境の島、対馬の警察署の桑島巡査部長は暇な毎日を送っていた。
ある夜、海上保安庁の巡視船が不審船をキャッチしたが逃げられ、その2日後に海岸でゴムボートの残骸と思われる物が発見される。
桑島は久しぶりに濃密な事件の臭いを嗅いだ。
一方東京では、公安警察がマークしていた在日朝鮮人の会社社長が何者かに殺害される。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
健(たける)は、文楽の若手太夫(物語を語る役割。他に三味線と人形遣いがいる)。
高校卒業後、文楽の研修所に入り、その後人間国宝でもある笹本銀太夫を師匠として約10年になる。
ある日銀太夫から、三味線の兎一郎と組むように言われ、気が重くなる。
技芸員の中での兎一郎の評判は「実力はあるが変人」。
あまり楽屋におらず、稽古中は滅多に口をきかないという。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
翠の国は、ここ百数十年、鳳穐(ほうしゅう)と旺廈(おうか)という二つの部族が覇権を争い、現在は鳳穐の頭領、ひずちが王として治めていた。
ひずちは旺廈の頭領となるべき薫衣(くのえ)を森の中に幽閉してきた。
薫衣が15歳になった時、ひずちは薫衣を王の城、四隣蓋城に連行させる。
城の地下、歴代の王の墓所で薫衣と2人きりになったひずちは思わぬ提案を投げかける。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
ロバートと息子のボビーは、老婦人アイダに、隣家との境界線に並び立つ3本のオークの巨木を切り倒す仕事を頼まれた。
その時、隣家の主人が木を切り倒すことを抗議に現れる。
彼は州の特別捜査官をしており、アイダの孫のレイモンドは彼に逮捕されて服役中だった。
自分が生きている間にはもう孫は帰ってこないかもしれない。
アイダは抗議を退け、ロバートたちは作業を始める。
[採点] ☆☆☆☆★
[あらすじ]
1898年、スペインの統治するキューバに、アメリカ人カウボーイのタイラーは馬を売りに船出した。
牧童頭のバークに誘われ、アメリカ人農園主ブドローの注文によるものだった。
その船には密かに大量の武器も積まれていた。
折しも、ハバナ港ではアメリカの戦艦が爆沈し、両国は一瞬即発の状態だった。
タイラーはホテルのバーでからんできたスペイン軍人を撃ち殺し投獄されてしまう。
[採点] ☆☆☆★
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