◎22年7月


コンビニ兄弟2の表紙画像

[導入部]

 高校一年の永田詩乃は、夕飯の赤貝の刺身に中って二日寝み、その翌日ふらふらになりながら登校したら、彼氏の金沢大輔に「好きな子できたんだ」、とフラれた。 失恋して居心地の悪さに学校を早退してしまう。 門司港近辺を歩き回りコンビニのテンダネスの前に来て、祖母の満江に出くわす。 満江は二か月ほど前から同居しているがいつもしかめっ面をして気難しい人だ。 その祖母は先日髪をピンクに染めていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
前作「コンビニ兄弟」に続き3短編にプロローグとエピローグが付く。 相変わらずフェロモンダダ漏れの店長を中心とした人情話の一騒動が描かれるが、今回は店長はあまり活躍しない。 いずれも辛い人間模様が描かれるがちょっとコミカルな語り口に救われる。 中では高一女子が仲間たちにハブられる第三話が本当に辛く苦しい話で、まさに作者の真骨頂というところ。 エピローグはそのまま次作へのプロローグになっていて、このシリーズまだまだ続きそう。


ラブカは静かに弓を持つの表紙画像

[導入部]

 橘は全日本音楽著作権連盟、通称・全著連の資料部に所属している。 全著連は大手音楽教室からも著作権使用料の徴収を始めると発表したが、世間の風当たりは強い。 世界最大の楽器メーカーであり音楽教室を運営するミカサは、教室での演奏には著作権は及ばないとして全著連を提訴する構えだ。 橘は上司の塩坪に呼び出され、ミカサ音楽教室への潜入調査を命じられる。 橘は五歳から八年間、チェロを習っていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 著作権管理団体勤務者による音楽教室への潜入調査という現実の訴訟事例をもとにした小説で、あわせて主人公の教室の仲間たちとの交流が描かれる。 スパイ小説としてのサスペンス度は思いのほか低く、その点は残念だったし、終盤の講師や教室生たちとの関係性は甘いと感じた。 それでも少年時代のトラウマを抱えた主人公が音楽の力によって回復していくという、音楽小説として面白く読めた。 チェロの音が全編に鳴り響いている感じで気持ちが高まった。


あの図書館の彼女たちの表紙画像

[導入部]

 1939年2月のパリ。 オディールはアメリカ図書館の就職面接にやってきた。 この図書館は1920年に設立され、パリで初めて書架を公衆に解放した。 利用登録者の出身国は三十ヵ国にわたる。 面接相手は有名な図書館長のミス・リーダー。 面接は上手くいかなかったが、お礼の手紙に自分の主張を書いた。 採用されたオディールは熱心に仕事に取り組み、館長や同僚、図書館利用者たちとの絆を深めていく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 第二次大戦時のパリでの図書館員たちの友情と勇敢な行動を描くとともに、1980年代アメリカでのオディールのその後を描くパートが挟まれる。 ナチス占領下でも本の持つ力を信じて図書館サービスを提供し続けようと奮闘する司書たちの姿には感動する。 主人公の恋人や親友との物語もドラマチックで、密告、嫉妬等、戦時下でむき出しになった人の善悪の姿が明示される残酷な物語でもある。 隣家の娘を語り手に据えたアメリカパートも良いアクセントだった。


古本食堂の表紙画像

[導入部]

 鷹島美希喜は東京の女子大の国文科の院生。 本は好きだが進路に悩んでいる。 神保町で小さな古書店をやっていた大叔父の鷹島滋郎が独身のまま、昨年亡くなった。 古書店を開いていたビルは彼の持ち物で、三階建ての一階が「鷹島古書店」、二階三階は翻訳書を出版している「辻堂出版」に貸している。 そのビルを大叔父の妹の珊瑚さんが相続した。 珊瑚さんは古書店をどうするか決めるため帯広から東京に移った。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 タイトルに惹かれて購入。 古本も売っている食堂の話かと思ったが違っていた。 舞台は神保町の古書店で、いろいろな食堂・料理が物語の中に出てくる。 物語は六話連作だが、いずれも院生の鷹島美希喜と古書店を受け継いだ形の珊瑚さんの交互の語りで進められる。 ゆったりとした良いお話系だが、悪く言えばこれという展開もなく、落ち着くところに落ち着き、変化に乏しい印象。 前店主の性的嗜好を絡めた話もまたそれかという感じで、食傷気味だった。


八月の母の表紙画像

[導入部]

 越智美智子が生まれ育ったのは愛媛県宇和島市の中心地から北へ十キロほど行ったところにある吉田町。 海があって、山があって、遊び場所に困ったことはない。 小学校での美智子は外向的だった。 しかし美智子の家に家族のだんらんはなかった。 居間の上座に中学教師の父があぐらをかき、母と自分、同居する祖母が正座させられる時間が美智子には本当に苦痛だった。 食事時は基本的に父だけがしゃべっていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 8年前、愛媛県伊予市で起きた少女監禁暴行死事件に材をとった長編ドラマ。 生活にも男にもだらしない母親から娘への負の連鎖が何代にもわたって描かれ、ついにはひとりの少女の死へ帰結する。 二部構成のつらい物語だが、とりわけ学校をサボって団地の一室に入り浸ってしまう少女を主人公とした第二部が苦しみに満ちている。 互いの傷を舐め合い、つかの間の快楽を享受する蟻地獄のような環境を描ききった感じ。 光の見える終わり方に救われる思いだ。


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