◎03年9月



[あらすじ]

 青山は八王子化学工業陸上部所属のランナー。 いつの間にか30才、部の最年長になってしまった。 15回マラソンに出て、全て完走、上位に顔を出しているが優勝経験はない。 次回オリンピックの最終枠を決めるレース前にアメリカの高地ボールダーの合宿に参加する。 そこでは大学の同級生の天才ランナー須田が自前で1年も前から練習を続けていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 久しぶりにスポーツものに戻った作者。 ドーピング関連のサスペンスタッチがやや中途半端で、肝心のレースまでが長く、逆にレース場面が短いのは不満。 もっとランナー同士の駆け引きや仕掛けがあれば、緊迫感も一層増したと思う。 また主人公のキャラクターが弱いので、もう1人くらいメインに据えて、交互に描くとより面白かったのでは。 以上、不満はあるが、それでもレース場面はハラハラさせらるし、全体を通して楽しめる作品。



[あらすじ]

 昭和60年、40才の悠木は群馬県の北関東新聞社の記者だった。 明日は同僚の安西と谷川岳に登るという夜。 編集局のスピーカーから日航ジャンボ機が長野・群馬県境に墜落した模様との速報が流れる。 悠木は局長からこの事故の全権デスクを命じられ、大きな渦の中心に。 一方、山へ向かったはずの安西は、深夜前橋市内で倒れているのを発見される。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 犯罪事件もの中心だった作者が、自らの経歴そのまま新聞記者を主人公に、人間たちのせめぎ合いを描く。 毎日完成品を求められる記者たちの、プライドを賭けた熱い戦いが全編にわたって展開する。 随所にクライマックスが用意されているような贅沢な物語だが、仕事に生きるかっこいい姿だけでなく、主人公が息子との交流に悩む内面描写も上手い。 終盤の甘さも、これだけ熱すぎる闘いが続いた後では、許せます。



[あらすじ]

 四方を険しい山脈に囲まれた王国。 6階級の貴族がおり、上位貴族の評議員が実質的に国を支配していた。 国内には6つの野賊グループが存在し、内戦に近い状態が続いている。 その6頭領のひとり、オーマは特に国民から怖れと共に憧れにも似た感情を持たれていた。 そんな中、軍学校を出たばかりのアマヨク・テミズ少尉率いる小隊がオーマと遭遇する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 愚直なまでに自分の道を貫いた軍人の入隊からその最後までを壮大なスケールで描く。 架空の国を舞台に繰り広げられる物語は、まさに波瀾万丈で面白い。 400ページの長編だが、ボリュームのある筋立てにはせめて上下巻は欲しかったくらいだ。 終盤、主人公が貴族たちの政争に巻き込まれ葬られんとするあたりは書き込み方が足りない。 また、最後まで引きずられる父親との関係も私にはいまいち納得できなかった。



[あらすじ]

 17世紀末。 イギリスの植民地だった頃のアメリカ南部。 開かれて間もない人口100人ほどの町ファウントロイヤルにウッドワード判事と書記のマシューが向かっていた。 2人は、魔女を裁くことを求められていた。 その魔女は、司祭と夫を殺し、サタンと交わっているところを目撃されているという。 ひどい雨の中、町の手前の宿屋で2人は宿屋の主人に襲われる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 10年ぶりという作者久々の作品。 前作はこのHPの初期に掲載した
「遙か南へ」。 深い原生林に囲まれた入植地で次々に起こる事件が、幻想的とも言える雰囲気で描かれる。 魔女の存在が疑いもなかった時代の、正義感に燃える青年の奮闘ぶり、徐々に暴かれる町民の秘密、奇怪な出来事や裁判劇等々、大長編だが読む者を十分に楽しませるのはさすが巨匠です。 ただ、版権が高いのだろうが、この価格はなんとかならんか。


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