◎04年8月



[あらすじ]

 僕は菅野智己、小学6年生。 いつの間にか、眠っている時に近所の猫の身体に乗り移るようになった。 犬のピーターとも仲良くなった。 僕の学校では、この3月に6年生の女の子が誘拐未遂にあった。 そして先日、下校中の女子児童の列にいきなり乗用車が突っ込むという事件が起きた。 1人が意識不明の重体。 逃げた運転手の特徴が誘拐犯に似ている。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 
「虹果て村の秘密」と同様、少年少女+その頃の精神を忘れない大人のためのミステリーランドシリーズの1冊。 まぁ子供向けと考えれば、猫になって探偵するという設定も面白く、また後半は意外な展開も用意されていてそれなりに楽しめる。 最後にはちょっとした驚きもあり、少年ドラマとしての幕切れも良い。 相変わらず登場人物の名前などが凝っているのか、一般的でない読みのものが多く、これはさすがに鼻に付くが。



[あらすじ]

 フリーライターのエディはニューヨークの安アパートに住み、三流誌の雑文を書いている。 ある日、別れた妻の兄ヴァーノンに偶然街で再会し、ひとつの薬を試しに飲むように渡される。 それを飲んだエディの頭はフル回転。 あっという間にたまっていた仕事も片づいた。 急ぎヴァーノンのもとへ向かい薬の追加を頼むが、彼は何者かに殺害されてしまう。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 驚異的に頭脳に効く薬を服用した男が、今までの執筆の世界から金儲けのための株のオンライン・トレード、 証券会社での巨額取引、企業買収の立役者、そしてついには政界に打って出ることまでも考えていく過程がテンポよく描かれる。 一方、それら"成功"に対し、副作用に怯え、秘密を知った男に怯え、記憶が飛んだときに起こしたと思われる事件の影に怯える"破滅"の姿が対比して描かれ、最後まで面白さの持続する快作。



[あらすじ]

 俺が付き合っているスマコは週に2度くらいしか風呂に入らない。 もう夏なんだし、汗もかくだろう。 スマコは自宅で雑貨輸入の手伝いをしている。 同じ職場の健吾には"野猿"などと呼ばれる。 今夜もデートでスマコに会うと、彼女の体からは3日前に行った焼鳥屋の香りが漂ってくる。 2人どちらかのアパートの更新時期が来たら一緒に住もうと話してはいたのだが・・・。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 結婚はしていないが、腐れ縁のようにだらだらと付き合い、同棲している30代の男女のくっついたり離れたりの11話。 どの話も、相手に不満を抱えているのだが、それが風呂に入らないとか、迷信深いとか、浪費癖、万引癖等よくあるような設定。 どれもたった20ページ程度の短編だが、実に現実的で生き生きとした男女の活写ぶりには感心させられた。 ハッピーエンドとは言えないようなものもあるが、それぞれエンディングは爽やかだ。



[あらすじ]

 アール・スワガーは太平洋戦争の英雄で、1953年の今は州警察官として活躍していた。 そんな彼にCIAが白羽の矢を立てる。 表向きはキューバに視察に向かう下院議員のボディーガードだが、実はキューバ国内で徐々に民衆の支持を得始めているカストロという若者を抹殺するのが目的。 一方ソ連はカストロ支援のため秘密工作員をキューバに送り込む。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 
「最も危険な場所」以来2年ぶりのアール主演劇画的痛快アクション。 だが、今回は活躍場面もやや少なく、少々物足りない。 前半は色好みの議員が猥雑で危険な場所に赴くたびに体を張って守るアールの奮闘ぶりが痛快だが、やはりカストロは今なお健在であるという事実から、物語の幅は狭くならざるを得なかったということか。 後半は一転してアールは追われる身となるが、予想したように話は流れ、ラストの爆発も小さめでした。



[あらすじ]

 20世紀も間近のアメリカ。 ワイオミングの刑務所からリーダーという名の凶悪犯が2人の囚人を引き連れ脱獄した。 当時ワイオミングは銀鉱ブーム。 おどろき銀山とデスティニーという町を結ぶ鉄道の中間地点に"二十マイル"という小さな町があった。 週末の土曜日に鉱夫たちがどんちゃん騒ぎをするだけの町。 そこに調子のいい若者マシューが住み着く。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 
覆面作家トレヴェニアン15年ぶり、邦訳は18年ぶりの作品で、以前のミステリーの類でない西部小説。 500ページを超える長編だが、派手な事件はクライマックスに向けた一つだけ。 それでも過剰な演出を抑えた筆致ながら、じっくりと描き込まれたドラマは適度に変化のある展開で、飽きさせられることはない。 後日談がそれだけで十分1冊になるくらい中身が濃く、さらに訳者による謎の作家の実像に踏み込んだ解説も興味深い。


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▲トレヴェニアン

 アメリカの小説家で、元テキサス大学教授。 長らく正体不明の作家とされ、本名もいくつか取り沙汰されてきた。 本書の解説で訳者が、実像に迫っている。 1972年に、クリント・イーストウッド主演の映画でも知られる冒険小説「アイガー・サンクション」でデビュー。 続いてこのシリーズをもう1作出し、警察小説「夢果つる街」、続いて日本を舞台としたスリラー「シブミ」(渋みのこと)。 5作目のサスペンス「バスク、真夏の死」を出した83年以降、今回は本当に久々の新作。