[寸評]
昨年「ポップ1280」で衝撃的な復権を飾った作者の最高作と言われる作品。 「ポップ1280」を読んだ後では衝撃度が減じるのは致し方ないが、この作品の不条理度も伊達じゃない。 殺人の理由はあったのか、もともと無かったのか、主人公自身には確固たる目的意識があったと思われるが、主人公(と作者)以外にその行動を誰が理解できようか。 それでもその世界を垣間見る価値はある。 私は図書館で借りたが最近単行本化されている。
[寸評]
シリーズ8作目だが、事件発生の順番から「Ⅶ」のタイトルが付いている。 前作「風化水脈」は心に沁みる人情ドラマだったが、本作も序盤古山と徐々に打ち解けていくあたり非常にいい雰囲気。 並行して拉致された状況が描写され緊迫感も高まる。 しかしその後、北朝鮮工作員の出現や複数の暴力団の介在などで込み入ってくると、鮫島が久しぶりに精力的に動き回るのになにか物語は停滞した印象。 決着の付け方も私には不満。
[寸評]
実に鮮やかなラストは見事というほかはない。 そこに至るまでは、行きつ戻りつなかなか真相へは近づけないが、まるで飽きさせられることはない。 関係者一人一人に対する追求と徐々に暴かれていく当時の彼らの真の姿、このあたりの流れもうまいが、それでも埋まらない真相がついに明らかになるラストはまさに驚き。 ただ一点、服役してきた殺人犯に対するジャンの献身的な助力は少々違和感を感じましたが。
[寸評]
「極大射程」などのボブ・リー・スワガーものよりさらに時代を遡りボブ・リーの父アールを主人公とした物語。 射撃と戦闘のプロであるアールの超人的な活躍だけでなく人間的な弱さも描き、厳格な警官だった父との痛ましい思い出など、中身がぎっしり詰まっている。 序盤アールが犯罪結社の男を殴り倒す場面で読者も完全にこの物語の魅力にノックアウトされるだろう。 後半は若干長さを感じるが、いついかなる時も自分を貫き通す"男"の物語は読み応えがある。
[寸評]
第124回芥川賞受賞作。 信仰とは何かというやや重い問いかけに会社の経営権争いや語り手の恋愛などの俗な話をうまく織り込んだ表題作のほか、全4編。 一族の中の異端児ジェロニモ叔父の奇矯な行動を描く「ジェロニモの十字架」。 転校した中学で仲良しになったやくざの息子との交流を描く「泥海の兄弟」。 時代劇映画ロケに参加した青年の体験を描く「信長の守護神」。 いずれも人間がしっかり描かれている印象で、かつ一風変わった物語が楽しめる。