◎01年3月



[作品紹介]

 ルー・フォードはテキサスの田舎町の保安官補。 町の者にも好かれ、上司の信頼もある男。 しかし彼は兄と父の仇として、町を牛耳っている建設業者のコンウェイへの復讐の機会をねらっていた。 そして売春婦を利用してコンウェイの息子を売春婦もろとも殺す。 しかしそれを契機に彼は不条理な殺人に次々と手を染めていくことになる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 昨年
「ポップ1280」で衝撃的な復権を飾った作者の最高作と言われる作品。 「ポップ1280」を読んだ後では衝撃度が減じるのは致し方ないが、この作品の不条理度も伊達じゃない。 殺人の理由はあったのか、もともと無かったのか、主人公自身には確固たる目的意識があったと思われるが、主人公(と作者)以外にその行動を誰が理解できようか。 それでもその世界を垣間見る価値はある。 私は図書館で借りたが最近単行本化されている。



[作品紹介]

 かつて鮫島に因縁の手紙を託して自殺した宮本警視の故郷での7回忌に、初めて案内を受け鮫島は出席する。 法要の場にも公安の姿が。 そこで鮫島は、地元で水商売を手広く経営している宮本の旧友の古山と出会い、酒を酌み交わすことに。 途中、麻薬取締官が鮫島に接触してくる。 そして深夜、宿泊先のホテルから何者かに拉致されてしまう。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 シリーズ8作目だが、事件発生の順番から「Z」のタイトルが付いている。 前作
「風化水脈」は心に沁みる人情ドラマだったが、本作も序盤古山と徐々に打ち解けていくあたり非常にいい雰囲気。 並行して拉致された状況が描写され緊迫感も高まる。 しかしその後、北朝鮮工作員の出現や複数の暴力団の介在などで込み入ってくると、鮫島が久しぶりに精力的に動き回るのになにか物語は停滞した印象。 決着の付け方も私には不満。



[作品紹介]

 無実の罪で殺人罪を言い渡され、16年間服役し仮釈放となったジム・ホルトは、真犯人を捜し出し復讐するため故郷の町へ帰ってくる。 殺されたのはホルトの幼なじみだったアリソンと彼女が浮気をしていると疑った夫のボブに雇われた私立探偵の二人。 自分を陥れたのは誰か。 新聞記者のジャンの助けを借りて、関係者であるかつての仕事仲間を回る。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 実に鮮やかなラストは見事というほかはない。 そこに至るまでは、行きつ戻りつなかなか真相へは近づけないが、まるで飽きさせられることはない。 関係者一人一人に対する追求と徐々に暴かれていく当時の彼らの真の姿、このあたりの流れもうまいが、それでも埋まらない真相がついに明らかになるラストはまさに驚き。 ただ一点、服役してきた殺人犯に対するジャンの献身的な助力は少々違和感を感じましたが。



[作品紹介]

 元海兵隊先任曹長アール・スワガーは第2次大戦における戦功により大統領から直々に勲章を受けたが、戦後は酒浸りの無為な日々を送っていた。 そんな彼のもとに仕事の依頼が。 故郷にほど近い温泉と違法賭博と歓楽の都ホット・スプリングスの腐敗を一掃する警察特別部隊の訓練者の仕事。 若い精鋭たちを鍛え上げ、オウニーという男が支配する町へ乗り込む。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「極大射程」などのボブ・リー・スワガーものよりさらに時代を遡りボブ・リーの父アールを主人公とした物語。 射撃と戦闘のプロであるアールの超人的な活躍だけでなく人間的な弱さも描き、厳格な警官だった父との痛ましい思い出など、中身がぎっしり詰まっている。 序盤アールが犯罪結社の男を殴り倒す場面で読者も完全にこの物語の魅力にノックアウトされるだろう。 後半は若干長さを感じるが、いついかなる時も自分を貫き通す"男"の物語は読み応えがある。



[作品紹介]

 父は中堅スーパーの社長だが、ガンの手術後は会社に出ることもできず家で死を待つ身だ。 父の遠い先祖は隠れキリシタンだと聞いている。 父はリサイクル工房を経営している従兄弟の佐我里さんを役員に迎えていたが、佐我里さんは昔からちょっと神がかり的なところがある。 夢に出てきた土地の水を聖水として売っていたが、病に効くとかでたいそう売れ行きがいい。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 第124回芥川賞受賞作。 信仰とは何かというやや重い問いかけに会社の経営権争いや語り手の恋愛などの俗な話をうまく織り込んだ表題作のほか、全4編。 一族の中の異端児ジェロニモ叔父の奇矯な行動を描く「ジェロニモの十字架」。 転校した中学で仲良しになったやくざの息子との交流を描く「泥海の兄弟」。 時代劇映画ロケに参加した青年の体験を描く「信長の守護神」。 いずれも人間がしっかり描かれている印象で、かつ一風変わった物語が楽しめる。


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