[寸評]
ヒギンズの戦争冒険小説を本当に久しぶりに読みました。
最後まで興味をそらさずに読ませるのはさすがだが、不満点も多い。
生まれながらの飛行士である2人の活躍は面白く読ませるものの、淡々と物語が進んでいくだけでもう一つ胸躍らせるものがない。
終盤の戦争秘話的な奇想天外な展開も盛り上がりに欠けハラハラドキドキとはいかない。
ナチの描き方はともかく、イギリス側が紳士ばかりなのもちょっと。
[寸評]
作者久々の新作。
エキセントリックな導入部からサイコスリラーを連想させたが、以後はいたってオーソドックスな推理小説として進んでいく。
推理の展開も非常にきまじめで、全体に古典的な印象。
複雑な謎解きは破綻もないが意外性に乏しく、またせっかくのミレイのキャラが後半はまったく生かされていないのも残念。
終盤は推理小説の範疇を超え、作者のあるメッセージが激しく綴られている。
[寸評]
前半の出来が悪いのがたいへん惜しい作品。
亮司と雪穂に関わる人々に降りかかる事件を続けて描いていく前半は、単調でそれぞれ途中で結末が見えてしまい、2人の底知れぬ悪意が非常に不快。
話が現在に近づき、私立探偵とさらに19年前の事件にも関わった老刑事が出てきて、この2人の視点で物語が語られ出すと途端に張りつめた空気に満ちる。
終盤ついに悪意の源が判明するが、その精緻な構成力に脱帽。
[寸評]
さすが美大で彫刻を専攻し10年間の高校美術教師の経歴を持つという作者だけあって美術骨董類の描き方も不自然さは感じない。
また、騙し騙されものの得意な作者ゆえ、美術品を巡る金の亡者どものドロドロした世界もたいへん興味深く面白い。
50ページ程度の短編5編からなるが、ダレることなくちょうど良い長さ。
素人があくどく騙されるのではなく、業者が業者を騙す話で気楽に楽しめます。
[寸評]
作者が探偵ニールものを卒業して書いた作品。
比較的短めの話だが、軽快なテンポであっという間にラストまで、という感じ。
邦訳がまた絶品で、相変わらずの洒落た台詞から、いかれた詩人の奏でる詩まで、文章を読むのも楽しめる本だ。
ノー天気なアメリカものらしくあまりにうまく事が運びすぎだが、濃厚なシーンから父子の愛情までサービス精神旺盛な痛快娯楽作としては十分成功している。
[あらすじ]
イギリス本島にセスナ機で向かっていた作家とその妻は、悪天候により不時着水し救助艇に助けられる。
妻の持っていた飛行服姿のクマのぬいぐるみを見た救助隊長の老父は驚くべき話を始める。
12才の時にドイツとアメリカに別れ別れとなった双子の兄弟が、父親譲りの卓越した飛行技術を駆使して第2次大戦の欧州に参戦。
輝かしい戦果を挙げるが、やがて戦場で相まみえることに。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
流行作家の江葉章二はダンスホールでの気晴らしの後建物を出たところで一人の女に呼び止められる。
女は10年ほど前の大学時代に家庭教師をしていたミレイだった。
当時高2のミレイは精神的に問題があり、結局江葉は半年でやめた。
話があるという彼女に江葉はついていくが、家には誰もおらず、密閉された部屋に足首を鎖でつながれ監禁されてしまう。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
19年前の大阪。
建設途中で工事が頓挫していたビル内で、桐原という質屋の主人が殺されていた。
被害者には小学生の息子亮司がいた。
一方被害者が通い詰めていた西本という未亡人のアパートには雪穂という小学生がいた。
事件は未亡人の知り合いの男が被疑者とされるが、交通事故死し迷宮入りに。
その後未亡人は自宅で過失事故死。
物語は亮司と雪穂のその後の人生を辿っていく。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
敦賀市南の谷間にある庄屋屋敷に民具研究会を名乗る2人の男が訪れる。
2人は骨董品の掘り出し物を求めて田舎の蔵を回り、上物を安く買い叩く"初出し屋"だった。
多くの2級品の中に1点、500万円は堅い芦屋釜を見つける。
留守番の老婆をだまし、まんまと格安値で芦屋釜を手に入れる。
美術雑誌編集者の佐保はその家の主人から釜の買い戻しを依頼される。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
さえない泥棒ティム・カーニーは刑務所内で身を守るため人を殺し、27才で終身刑確実の状況。
そこに現れたのが麻薬取締局のグルーザ。
伝説の麻薬王ボビーZの替え玉になれと言う。
麻薬取締局はメキシコの麻薬王に拘束された捜査官とボビーZを交換する予定だったが、その矢先ボビーZはあっけなく心臓発作で死亡してしまった。
進退窮まったティムは腹をくくる。
[採点] ☆☆☆☆
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▲ ジャック・ヒギンズ
以前、ヒギンズにはまって連続して読んだ時期がありました。
世界的ベストセラーの「鷲は舞い降りた」は当然、「サンタマリア特命隊」「狐たちの夜」も面白かった。
戦争ものではない「死にゆく者への祈り」の全編を覆う暗いムードにもしびれました。
ただ戦争秘話ものが多いのですが、「秘話」そのものによりかかったような、どちらかというと平凡な作品も多いので要注意。
また別名義(ハリー・パタースン、ヒュー・マーロウ、ジェイムズ・グレアム等)が多いのも特徴です。
▲ 土屋 隆夫
キャリアの長い作家で前作は3年前の「華やかな喪服」。
昭和38年に日本探偵作家クラブが日本推理作家協会となった年の協会賞を「影の告発」で受賞している。
他の主な作品としては、「危険な童話」「盲目の鴉」「不安な産声」などがある。