[寸評]
写真を題材としたホラー短編9編。
幽霊、心霊写真ものが多いが、ホラー色はそれほど強くない。
心臓を掴まれるような恐怖ではなく、じわじわ怖いというくらいです。
私は存じ上げなかったが、作者は相当なカメラマニアらしく、カメラ本体やレンズ、”写真”というものについての言及、蘊蓄が各編の随所にあり、かつ長い。
中では、魚眼レンズに材を取った「ゆがみ」が気に入ったが、なんと5年前の短編集『たまゆらり』に所収されていたそうです。
[あらすじ]
私が撮った写真に東北沿岸部を襲った津波で亡くなった霊魂が写っていた。
私自身は沿岸部から遠く離れた盛岡に30年も前に移り住んでいる。
職を転々とし、1年前に大型家電店のカメラ売り場に回されてから本気で写真を撮るようになった。
被災地を撮った写真の中に、死者が写っていたものがあった。
今夜の青年部の集まりで撮った集合写真にも犠牲になったメンバーがはっきり写っていた。
[採点] ☆☆☆
[寸評]
「破門」で直木賞を受賞した作者の受賞後第一作。
作者の好調を証明する面白本になっている。
相変わらず関西弁の会話を中心としてストーリーを進めていく強引・安易な描き方ではあるが、これだけ面白ければ文句を言う筋合いもない。
全編400ページにわたり、魑魅魍魎が跋扈し、騙し騙され、脅し脅されの連続だ。
ちょっと逃げた感じの結末、老人を蜘蛛の巣にかけていく小夜子の手練手管が描かれていないのは不満だが、それでも四つ星。
[あらすじ]
耕造が倒れた、と小夜子から電話が柏木にあった。
妻に先立たれた中瀬耕造は91歳で、結婚相談所を通じて知り合った69歳の小夜子と内縁関係にあった。
耕造は羽曳野の農林センターで小夜子と散歩中に倒れ、小夜子はその後の対応指示を結婚相談所経営者の柏木に相談してきたのだ。
実は二人は結託して老人の財産を目当てとする後妻業と呼ばれる手管を繰り返していたのだ。
[採点] ☆☆☆☆
[寸評]
「ねじれた文字、ねじれた道」の作者による妻との共作。
ミシシッピ川の洪水という実際に怒った大災害をバックに、赤ん坊を亡くしたばかりの密造酒造りの女と、捜査に来た取締官の愛の物語でもある。
堤防が決壊して以降の、洪水の猛威からのサバイバル劇も相当な迫力だし、奪われた赤ん坊を取り戻そうとする女の執念も凄い。
密造酒の捜査、堤防決壊の危機、赤子の運命、そして主人公二人の愛は成就するか、いろいろ詰め込まれた快作。
[あらすじ]
1927年の禁酒法時代のアメリカ。
密造酒取締官のテッド・インガソルは、第一次大戦時代の上官だったハムと共に、ミシシッピ川沿いの人口3千人ほどの町ホブノブに向かっていた。
二週間前、捜査官がそこで行方不明になっている。
殺されたか、買収されたか。
一方、ミシシッピ川は記録的な水嵩で、決壊が懸念されていた。
途中、盗賊に襲われたよろず屋で死んだ盗賊夫婦の赤ん坊を見つける。
[採点] ☆☆☆☆