◎14年9月


ラバーネッカーの表紙画像

[あらすじ]

 パトリックは、他人とのコミュニケーションが苦手なアスペルガー症候群で、父は彼が8歳の時、車にはねられて死に、母は息子の子育てに悩み、それ以来アルコールに依存していた。 パトリックは、生物学と動物学の上級学力試験で史上最高点を取りながら、障害者受け入れ枠のおかげでカーディフ大学に入学。 彼は解剖実習のため、他の4人と班を組み、”19番”の白人男性の遺体を提供される。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 自閉症、時に特定のジャンルで天才的能力を持つこともあるというアスペルガー症候群の若者を主人公に据えながら、その特異性を前面に押し出さず、しっかりしたミステリになっていることがまず良い。 また、彼をある種のスーパーマンのような描き方ではなく、素直な心情の吐露、彼を取り巻く人々の苦悩も描かれ好感が持てる。 後半、警察の捜査・真相への転換が少々強引なところもあるが、関連劇の衝撃も用意され、また幕切れも微笑ましい良作。


非写真の表紙画像

[あらすじ]

 私が撮った写真に東北沿岸部を襲った津波で亡くなった霊魂が写っていた。 私自身は沿岸部から遠く離れた盛岡に30年も前に移り住んでいる。 職を転々とし、1年前に大型家電店のカメラ売り場に回されてから本気で写真を撮るようになった。 被災地を撮った写真の中に、死者が写っていたものがあった。 今夜の青年部の集まりで撮った集合写真にも犠牲になったメンバーがはっきり写っていた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 写真を題材としたホラー短編9編。 幽霊、心霊写真ものが多いが、ホラー色はそれほど強くない。 心臓を掴まれるような恐怖ではなく、じわじわ怖いというくらいです。 私は存じ上げなかったが、作者は相当なカメラマニアらしく、カメラ本体やレンズ、”写真”というものについての言及、蘊蓄が各編の随所にあり、かつ長い。 中では、魚眼レンズに材を取った「ゆがみ」が気に入ったが、なんと5年前の短編集
『たまゆらり』に所収されていたそうです。


後妻業の表紙画像

[あらすじ]

 耕造が倒れた、と小夜子から電話が柏木にあった。 妻に先立たれた中瀬耕造は91歳で、結婚相談所を通じて知り合った69歳の小夜子と内縁関係にあった。 耕造は羽曳野の農林センターで小夜子と散歩中に倒れ、小夜子はその後の対応指示を結婚相談所経営者の柏木に相談してきたのだ。 実は二人は結託して老人の財産を目当てとする後妻業と呼ばれる手管を繰り返していたのだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「破門」で直木賞を受賞した作者の受賞後第一作。 作者の好調を証明する面白本になっている。 相変わらず関西弁の会話を中心としてストーリーを進めていく強引・安易な描き方ではあるが、これだけ面白ければ文句を言う筋合いもない。 全編400ページにわたり、魑魅魍魎が跋扈し、騙し騙され、脅し脅されの連続だ。 ちょっと逃げた感じの結末、老人を蜘蛛の巣にかけていく小夜子の手練手管が描かれていないのは不満だが、それでも四つ星。


たとえ傾いた世界でもの表紙画像

[あらすじ]

 1927年の禁酒法時代のアメリカ。 密造酒取締官のテッド・インガソルは、第一次大戦時代の上官だったハムと共に、ミシシッピ川沿いの人口3千人ほどの町ホブノブに向かっていた。 二週間前、捜査官がそこで行方不明になっている。 殺されたか、買収されたか。 一方、ミシシッピ川は記録的な水嵩で、決壊が懸念されていた。 途中、盗賊に襲われたよろず屋で死んだ盗賊夫婦の赤ん坊を見つける。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「ねじれた文字、ねじれた道」の作者による妻との共作。 ミシシッピ川の洪水という実際に怒った大災害をバックに、赤ん坊を亡くしたばかりの密造酒造りの女と、捜査に来た取締官の愛の物語でもある。 堤防が決壊して以降の、洪水の猛威からのサバイバル劇も相当な迫力だし、奪われた赤ん坊を取り戻そうとする女の執念も凄い。 密造酒の捜査、堤防決壊の危機、赤子の運命、そして主人公二人の愛は成就するか、いろいろ詰め込まれた快作。


スタープレイヤーの表紙画像

[あらすじ]

 買い物袋を下げて帰宅途中の斉藤夕月の前に白装束の男が。 男は穴の開いた箱を差し出し、籤を引くよう促す。 夕月の引いた籤は一等、スタープレイヤー。 気づいたときには住宅街は消え失せ、緑の野原に立っていた。 道の先の東屋に置いてある黒い板状の機器には、この世界で十の願いを叶える力を持つスタープレイヤーの説明が記されていた。 そして石松という案内人の青年が現れる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 ずいぶん陳腐な設定のゲーム小説のように始まるが、まず家を造り、容姿を変え、という具合に物語が進んでいくと、どんどんこの世界に引き込まれていく。 地球ではないというこの土地の様子が徐々に明らかにされていき、この土地に住む人々、他のスタープレイヤーも現れ、面白さが無限に膨らんでいくようだ。 スター(願い)の範囲が大雑把なこと、後半、国同士の戦争にまでスケールアップしすぎて、スターの使い方も乱暴になったのは残念。


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