十日前、都内地下鉄で壮絶なテロ事件が起きた。
神経ガスのサリンが地下鉄車内で散布され、十名以上の死者、千人を超える負傷者が出た。
警視庁は宗教団体「光宗会」が事件に関与しているとして一斉捜査を始めた。
そんな朝、警察庁長官官房総務課の木佐貫課長補佐は日々の業務として専用車で長官の自宅マンションへと向かった。
定時に長官が自宅から現れ、通用口から外に出たところで、ドーンと大砲のような音が耳をつんざいた。
[寸評]
28年前に地下鉄サリン事件に続いて起きた警察庁長官銃撃事件に材をとったサスペンスミステリー。
東京で楽器店を営む主人公が、失踪した雑誌記者の妻の足跡を辿って、自らの家族も絡んだ過去の事件の真相に迫っていくというもの。
よく練られたストーリーで、人間関係や関連場所も大きく広げ、なかなかスリリングに読ませるが、どうしても話を作った感が拭えない。
もっとドラマチックな話になってもよかったと思うが、その点終盤はかなりトーンダウンした感じ。
アメリカ・ニュージャージー州のガソリンスタンドで従業員のサトクナナンタン・サスマルは撃ち殺された。
早朝、現場に駆けつけた二人の警官が規制線を張ろうとしているところに車が突っ込んできてスタンドの中で急停止した。
乗っているのは妊婦と四人の子供たち。
一番下の小さな女の子にスタンドのトイレでおしっこをさせるためにやって来たのだ。
母親は実は元FBIのプロファイラー。
彼女は瞬時に犯行現場の状況を観察する。
[寸評]
四人の子持ちで現在妊娠八ヶ月の元FBIのプロファイラーと、若い頃ピュリッツァー賞を受賞しながら今は地方の小さな新聞社の記者に墜ちた男の二人が、町で起きた現在と過去の事件の真相と関連を調べていく。
物語は軽妙な語り口、オフビートな雰囲気で快調に進む。
テンポよく進んでいくが、語られるテーマはアメリカという多民族国家が抱える諸問題に、LGBT、子育ての大変さや夫婦のすれ違い等々、多くそして重い。
後半テンポが落ち長くなったのは惜しい。
チャイムが鳴ったのは深夜だった。
隣で寝ていた女は、飲み屋でお互い消去法の果てに見つけた相手。
部屋から追い出し玄関ドアを開けると、そこには予想どおりナミちゃんが立っていた。
腕にはミイナを抱いて。
智己となんかあったか尋ねるとナミちゃんは泣き出した。
俺のスマホが震え出す。
智己からだ。
苛々してミイナの布団を蹴って家を出て帰ってみたらナミがいなくなっていたと言う。
(「なにも傷つけないように、おやすみ」)
[寸評]
ままならない大人の男と女の恋愛模様を描いた独立した短編5編。
文章は夜の雰囲気、都会的でドライで落ち着いたものだが、語られる話はいずれもけっこうドラマチックでなかなか読ませる。
だらしない姉の交際相手探しを任される二卵性双生児の弟の話(「家庭の事情」)、五万円で処女を捨てるために知らない男を買う三十五歳の女の話(「砂が落ちきる」)など、ちょっぴり奇妙な人間関係の話が興味をそそる。
ずるずると、でも懸命に生きている大人たちの物語でした。
平成三年十二月十一日、学習塾帰りの小学六年の立花敦之は、男に声をかけられたそのとき背後から顔に布のようなものを被せられ車の後部座席に放り込まれた。
目撃者からの通報により警察は緊急配備をかけた。
それから間もなく立花家に二千万円を要求する電話が入る。
翌日犯人の指示に従い身代金を運ぶため父親が車で出発する。
午後二時過ぎ、孫が誘拐され身代金を要求されたとの通報が警察に入る。
前代未聞の二児同時誘拐。
[寸評]
冒頭からの二児同時誘拐事案の発生、犯人側とのやりとり、身代金の受け渡しと緊迫感に満ちた場面が続き、思わぬ展開となる序章は見事。
だがその後、三十年後の新聞記者による再調査が綴られるのだが、これがとても長い。
場面もあちこち変わり、登場人物もかなり増えていき、読んでいて緊張感が保たない感じだ。
それでも後半の、誘拐された子どもの空白の三年間を描くパートは素晴らしかった。
血縁を超えた愛情の物語で、一筋の光の射すラストまで心を揺さぶられた。
新聞記者のマーティンは猛暑の中、レンタカーでリバーセンドという小さな町にやってきた。
ここでは一年前に衝撃的な事件が起きていた。
町の教会のバイロン・スウィフトという若い牧師が教会の外で住民と談笑していて、一旦教会の中に入ってまた戻ってきたとき、手にライフルを携えていた。
そして五人の住民を撃ち殺した。
牧師は警官に射殺された。
マーティンは、一年後の町は事件とどう向き合っているかを取材しに来たのだ。
[寸評]
英国推理作家協会賞最優秀新人賞を受けたオーストラリアのミステリー。
新聞記者が、なぜ牧師が突然殺人者に変貌したのかという動機の謎を追究していく。
町のさまざまな人たちへのインタビューが興味深く、新たな事件や過去の事件も浮上し、自然災害も起きるなど、その展開は読み手を飽きさせない。
ただいかんせん長いという印象で、後半は登場人物もどんどん増えて、本名と偽名がごちゃごちゃとし、内容は複雑化して混乱するところも。
じっくり描かれた力作ではある。
[導入部]
[採点] ☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆★
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