死後結婚。
未婚のまま死んだ人の来世での幸せを願う儀式。
もともと形式的な儀式でしかなく、魂婚、冥婚、ムカサリ絵馬など、地方によって異なる名称で呼ばれ、儀式の内容にもばらつきがあったが、KonKonがメジャーなアプリとして広がったことで、死後結婚の意味合い自体が変化した。
KonKonは葬儀屋に情報・仲介料を払って死後結婚相手を探さねばならなかった遺族の負担を減らすため開発されたマッチングアプリだった。
(「魂婚心中」)
[寸評]
特につながりはない5編の短篇集で、内容としてはそれぞれSFというかファンタジーというか、それ風味の物語だ。
死後結婚アプリ、リアルタイムゲーム実況、死後に行き着く地獄を階級別にコントロールする業者、手を使わず相手を殺す能力を持つ少女など、趣向は異なり、話のアイデア自体はユニークで面白いとは思う。
しかしアイデアだけで短編でも一作通して面白く読ませるのは難しい。
途中までは面白く読めた短編もあるが、どれも最後・結末が決まらなかった印象だ。
尾藤宏香は警察庁の附属機関である科学警察研究所−通称科警研の入庁三年目の職員。
今は千葉県警から依頼された鑑定業務にあたっていた。
事の発端は二週間前。
千葉県南部の山道からやや離れた位置で男性の白骨遺体が発見された。
遺体は数か所に分けて埋められていただけでなく、後頭部が陥没していた。
身元に関してこれと言った情報は得られず、歯科記録も該当人物は見つかっていない。
手詰まりの県警は科警研に鑑定依頼を出した。
[寸評]
一昨年に読んだ「最後の鑑定人」の前日譚にあたる設定の作品集。
主人公は千葉県警科学捜査研究所の鑑識のエキスパートで“科捜研の砦”と呼ばれる土門誠技官。
本書は四話の連作短篇集で、いずれも地味な印象ながら、事件の特異性や鑑定手法だけでなく人間関係にも筆が入れられ、面白い物語ばかり。
有能だが無愛想な土門の鑑識事案への鋭い観察眼が読みどころだが、ことの真相に迫っていく過程はなかなか緊張感もあるし、興味深い話になっている。
読後感も悪くない。
「風の家」と仲介してくれた不動産屋はそこを呼んだ。
低い位置に開けられた小さな窓から中二階の高窓へと風が吹き抜け、夏の湿った暖気が逃れていく。
家賃は信じがたいほど安かった。
聞けば四十年近く前に東京から引っ越してきた夫婦が知り合いの著名な建築家に依頼し、自然通風の家という以外、デザインは建築家の好きなようにという条件で建てさせたらしい。
隣家の高齢の女性によれば弟一家の持ち物だという。(「屋根裏の散歩者」)
[寸評]
30数ページから70ページほどの短編4編。
いずれも小品ながら、巧みな構成と思いがけない展開で、まさに書名のとおり白昼夢を見ているかのように幻惑させられ、たいへん面白く読める。
一話目のちょっとコミカルな味もいいし、二話目ではコロナ禍の緊迫した状況がよみがえり、三話目の多肉植物「アガベ」に魅せられた男がどんどん正気を失っていく様は別格の恐ろしさ。
四話目の非現実な話も、もしかしたらあるかもと思わせる。
甲乙つけがたい面白さの4編だ。
江戸幕府八代将軍吉宗の嫡男・長福丸は、明年には元服するといわれており、その後は次の将軍として江戸城西之丸の主となる身だ。
だが長福丸はそれに相応しい扱いを全く受けていなかった。
つまり、誰も長福丸が将軍継嗣になるとは信じていない。
なぜなら長福丸の身体には重い病があり、顔は麻痺で引き攣れ、片手片足はほとんど動かすことができず、満足に口をきくこともできなかったからだ。
しかし長福丸の言葉を聞き取る少年が現れた。
[寸評]
一昨年の刊行だが前から読みたいと思っていた。
障害があり歩いた後には尿を引き摺った跡が残るためカタツムリ=まいまいつぶろと陰口を言われた九代将軍家重と、彼のまさに“口”となって将軍の言葉を伝えることに徹した大岡兵庫の物語。
主従を超えた二人の絆の深さは感動的だ。
家重に嫁いだが若くして亡くなる比宮や家重の男児を産むお幸の方など女性の描き方も巧いし、将軍継嗣を悩む吉宗や幕閣の動きなど読みどころも多い。
直木賞候補に挙げられたが受賞はならず。
[導入部]
[採点] ☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
[採点] ☆☆☆☆
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