◎05年7月



[あらすじ]

 ノンフィクション作家のコーソは犯罪実録本の件で裁判所の出頭命令を受け、カメラマンのメグを同行させて逃げ回っている。 シカゴの空港で大吹雪に遭い足止めされた彼らはレンタカーで別の空港を目指すが、途中事故を起こし、ようやく辿り着いた廃屋で数体の白骨死体を発見する。 成り行きで地元の保安官と取引し、その家から消えた女を探すことに。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 この作品、コーソを主人公としたシリーズの3作目とは知らなかったが、先の読めないサスペンスに娯楽性たっぷりで面白かった。 コーソと身体中刺青のメグのコンビは、その辛らつなやり取りも楽しいが、コーソが追うことになる女連続殺人鬼、実際に姿を見せるのは物語の終盤だがこれがまた怖い。 追い詰める過程で、徐々に女の過去が暴かれていくあたりも上手く、追跡行とコーソの逃避行が絡み合い、全編面白さが持続する。



[あらすじ]

 友達もおらず顔も醜く、上手く話を組み立てられない孤独な53歳の男。 夜、仕事から帰ってくると、アパートの前の歩道に若い女が車から突き落とされた。 血まみれの女を部屋に運び、ブラインドを下ろし、カーテンを引く。 ベッドへ引きずり、着衣をとり血を拭き取る。 規則正しく鮮血を押し出す傷口を縫う。 俺が全部治してやる。 彼は丁寧に処置していった。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 
「不思議のひと触れ」に続くスタージョン奇想コレクションの第2巻全8短編。 中では、終始緊迫感が漂いラストも衝撃的な表題作が面白く、ジャズグループのリーダーを殺そうとするバンドの男が主人公の「マエストロを殺せ」もいい。 その他、平凡に生きてきた男が何とか罪を犯そうとする「ルウェリンの犯罪」も皮肉が利いたなかなかの衝撃作。 全体としては展開がややもたつくようなものもあり、是非!と薦めるところまではいかない。



[あらすじ]

 二郎は東京は中野の小学6年生。 就職している21歳の姉、小4の妹の桃子と喫茶店経営の母、そしてフリーライターと称し家でごろごろしてばかりの父。 父は元過激派だとかで、国家というものを毛嫌いしており、区役所の人や学校の先生にもけんかを売るような人で、とりわけ警官には敵意丸出しだ。 二郎は友達と共にカツと言う不良中学生にからまれる。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 犯罪ものからコメディーまでハズレのない作者が繰り出したのは少年を主人公にした家族小説。 二部構成で、雑誌連載を加筆修正した東京を舞台とした第一部。 第二部は一家で移り住んだ西表島を舞台とした書下ろしだ。 とりわけ第一部は、正義感が強く臆病で好奇心旺盛とうい自然な少年の日々が実に生き生きと描かれており、素晴らしい。 第二部も、ホテル建設反対という俗な話題とやや現実離れした展開ながら、十分楽しめる。



[あらすじ]

 サンフランシスコ市警の主任だったアイアンサイドは銃撃により車椅子生活となり、現在は署長の特別顧問をしている。 彼のお抱え運転手兼助手のマーク・サンガーは夜学へ通っていたが、高価な車に乗った若い男に”黒んぼ”と罵られ殴られる。 反撃し相手を倒したものの、何にやられたか分からぬまま気絶し、気付くと警官が立っていた。 そして相手の男は死んだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 名作映画を活字で楽しむ<ポケミス名画座>の1冊で、映画ではないが30年ほど前TVシリーズで有名だった作品。 トンプスンが原作者とは知らなかった。 ブラックユーモアと不条理な犯罪世界を描く彼の他の作品とは印象を異にするが、アイアンサイドの特異なキャラクタと淀みない展開で十分楽しめた。 短い物語の中に多くの特徴ある登場人物が手際よく配され、また車椅子ゆえの手に汗握るアクション(?)場面もあります。



[あらすじ]

 フミ子は私の3つ下の妹。 フミ子ががらりと変わったのは四歳のある晩。 怖い夢を見たといって突然起き出し、吐いて3日ほど入院した。 それからは万事マイペースでわがままが増えた。 小1のとき京都の駅で保護されたことがあった。 自宅が東大阪なので、かなりの遠方だ。 その際部屋を調べるとフミ子の自由帳に”繁田喜代美” と書かれてあるのを見た。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 図書館でリクエストを待っている間に直木賞を受賞した作品。 表題作のほか、ホラーというより摩訶不思議な”怪談噺”と呼んだほうが似つかわしいような短編6編。 いずれの趣向もどこかで読んだことがあるようなもので、とりわけ奇抜なものはないが、情味豊かに描かれている。 ちょうど私の世代とも重なるような時代背景となっているものが多く、ゆったりとした雰囲気で心地良く読める。 人の心が紡ぎ出す不思議に浸れる物語ばかり。


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