[寸評]
シンガポールの裏総督とまで呼ばれた日系人の波瀾万丈の人生を描いた冒険小説。
600ページ以上の長編だが、話に深みがなく、本編ではなくてとても長いあらすじを読んだ気分。
佐々木譲の作品は高いエンタテインメント性と魅力ある登場人物が特徴だが、この本では主人公の描き方が物足りず最後まで木戸辰也に感情移入できなかった。
快男児として描かれているはずが単なる犯罪者としか思えなかったのは残念。
[寸評]
昨年の「パラサイト・イヴ」に続く日本ホラー小説大賞受賞作。
生命保険の支払い査定という仕事が興味深く、保険を騙し取ろうという悪意に満ちた人々の描写が面白い。
中盤ややだれるものの、後半はサイコサスペンスとして盛り上がり確かに恐い。
しかし意外性に乏しく、恐怖描写も状況説明のみが多い。
もっと若槻が精神的に追いつめられていく様を徹底的に執拗に描けばさらに怖くなったのでは。
[寸評]
この作者の本は「姑獲鳥の夏」を読んでからずっと敬遠していました。あの電話帳のような厚みを見ただけで読む気が失せてしまって。
しかしやや趣の変わったこの作品はかなり面白い。
なにより美人から醜女となってしまいながら誇り高く気位を失わないお岩さんのキャラクタが秀逸。
一風変わった語り口も読みづらさは感じられずこの本の雰囲気にぴったり。
終盤の惨劇描写は作者の趣味でしょうが、相当気色悪いものの、幕切れもなかなか良かったです。
[寸評]
相変わらずの奇想天外SFミステリーだが、前作のしっかり本格推理までしていた「瞬間移動死体」に比べると落ちますね。
特に後半めったやたらに連続する殺人のどれをとっても殺害に至る動機が軽薄で実にあっけないものばかり。
いっそのことクローン人間が巻き起こす大混乱を徹底的にコメディとして最後まで描ききったらどうだったろうか。
それでもあの大惨劇の混乱を最後にはきっちりまとめ上げてしまう力技はさすがです。
[寸評]
さすが12年も香港に住んでいた作者だけあって香港の猥雑な雰囲気が面白く、西洋人の見る香港像が興味深い。
これといって特徴のない作品だが、スケールが大きく、様々な国、組織、人物が錯綜する話がよく整理されており最後まで読ませる。
ただ決着の付け方は返還という歴史的事実から致し方ないところだろうが、終盤の盛り上がりはいまいち。
またこの書名はいけません。
たとえ「秒」でも600万もあると緊迫感がまるで感じられないよ。
[あらすじ]
1923年シンガポールの日本人街の孤児木戸辰也は8歳で伯父の孝作に引き取られマレー半島各地を働いて歩いた。
10代半ばで日本人経営の鉱山に落ち着いたものの、満州日中軍事衝突に影響された中国人労働者との衝突で伯父を殺された辰也は犯人を射殺し矯正院に送られる。
出所後持ち前の行動力でシンガポールの裏表の社会で徐々にのし上がっていく。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
若槻は京都の生命保険会社で支払い査定を担当している。
毎日死亡保険金の査定に辟易としていたある日、面識のない保険者から名指しで訪問依頼がくる。
そこは半ば朽ちかけた真っ黒な家で異様な臭いを放っており、不気味な主人と思いがけない惨劇が彼を待ちうけていた。
主人に導かれて襖を開けた彼はそこに怖ろしいものを見る。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
伊右衛門は藩が取り潰しになり5年あまり江戸で浪人生活をしていた。
一方、代々御先手組同心の民谷家はまじめなだけが取り柄の又左衛門に武家の娘として気位の高い岩の二人暮らし。
その岩が疱瘡を患い顔が醜く崩れてしまった。
伊右衛門は知り合いの小悪党又市の仲介で行き遅れた岩と結婚し民谷家に婿入りすることになる。
当時の同心をまとめる与力は稀代の悪人伊東喜兵衛であった。
[採点] ☆☆☆☆★
[あらすじ]
高校1年の下石貴樹は友人たちと病欠の担任の家に向かう途中、激しい衝撃を受ける。
気づくと直径500mはあろうかという巨大なストローのような天空からの煙上の虹色の壁に囲まれていた。
その壁に触れると自分と全く同じコピー人間が壁から生まれてしまうのだ。
世界中に何万本というストローが現れた。
担任の家に避難した一同に連続殺人事件がふりかかる。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
返還を約70日後に控えた香港の中国領海上で3つの人間の首が入ったビニールバッグが発見される。
これらは数日前に街中の倉庫で業務用肉挽き機にかけられミンチとなって見つかった人体の首だった。
返還を控えた微妙な時期で英本国や人民解放軍から圧力を受けながら香港警察殺人課チャン警部は真相に近づいていく。
[採点] ☆☆☆★
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