[寸評]
老いと死を扱った重い話なのだがとても軽やかに描かれており、150ページという短さもあって、あっという間に爽やかに通り過ぎて行ったという印象。
1時間半ほどの面白い人間ドラマを観た感じだが、短い中に人間同士の感情の掴み合いがガンガン描かれていて、さすが脚本家ですね。
逆に、どんどん話が進み過ぎて、少しは横道にそれる部分があってもいいのではと、やや物足りなくも感じました。
[寸評]
島田荘司の、世界を舞台にしたミステリかと思ったら、思わず引き込まれる人間ドラマが中編2作と短編2作。
とりわけ表題作のウイグルの老人の若い頃の話も面白いが、中編のもう1作、太平洋戦争中に日本に渡り強制労働に従事することとなる姉弟の物語は凄い。
苦難に次ぐ苦難の物語は、大長編になっても十分成り立つ中身の濃い話を凝縮しているので、読み手はそのうねりに翻弄されるばかり。
[寸評]
沖縄の石垣島や西表島など8つの離島を舞台にした短編集。
ひとつの島にひとつの物語で、現代の話だが、いずれも琉球の地域に信仰が深く根付いているのが伺える。
神話的な話やエリート教師と自然の中で伸び伸びと生きる子供たちの話、果ての島で一日中イライラして過ごす若者など、どれも面白い話ばかり。
文化と経済の中心、石垣島を最後に据え、他のエピソードを収斂していく構成もいい。
[寸評]
会社勤めで、内外の軋轢に揉まれながら生きる30代前半の男女を描く表題作と、新採の頃世話になった先輩の心配をする男女3人を描く短編の二編。
この表題作がいい。
ドラマチックだとかメッセージ性とかは無縁。
仕事をして生きていく男女の日常、彼らの思いを、まったく自然に、でもほんの少しの温かさと応援を感じさせる描き方。
主人公らの感じ方、考え方、それを綴る文章、いずれも感覚的に頷ける。
[寸評]
貧乏からようやく這い上がったが、今の環境に馴染めない男が、若い崩れた女に魅かれて結局・・・。
どこでひねるかと思っていたが、転落から結末まで何かひどく平凡でありきたりな話みたいで、出てくる設定も、美容整形、ヤミ金など、珍しくもないものばかり。
一番のインパクトは、”白井砂漠”という主人公の女の名前か。
名前に合った、もっと退廃的な寂寞とした人物造形が欲しかったところですね。
[あらすじ]
27歳の中津草介は、ヘルパー2級の資格を取って特別養護老人ホームで2年余り働いていたが、認知症の老女を車椅子に乗せていてつまづき、老女は転げ出てしまった。
怪我はなかったが、老女は6日後に亡くなり、誰も責めなかったものの、草介は拘って辞めた。
ワンルームの自宅にこもっていると、ケア・マネージャーの重光さんが個人で介護を頼みたいという人を紹介してくれた。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
予備校生のサトルは、世界一周放浪の旅から帰ってきた京大生の御手洗と親しくなった。
ある春の日、二人は嵐山に向かう市電に乗っていた。
電車の窓からは満開の桜が見える。
そこから御手洗は中国の西の果て、シルクロード沿いのウイグル族の街カシュガルに旅した時の話を始める。
そこで彼は、道路の壁ぎわに置かれた箱の中で寝起きする老人と言葉を交わすようになる。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
旧暦八月下旬の竹富島は華やかな舞台へと変化する。
男は狂言を舞い、女は踊る、種子取祭が開かれるのだ。
祭の初日はツカサと呼ばれる神女たちの会合で始まる。
島人総出の奉納舞踊の演し物や役者を決めるのだ。
演目が次々決まっていく中、今年から牛の御嶽を任されている小底晴美が、30年は演じられていない演目を神が見たいと仰せられていると言いだす。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
佐藤奈加子は32歳、大阪のデザイン事務所社員で、ちょっとしたライティングの副業を持っている。
ときどき店に行って取材したり、本や映画のあらすじを要約して見所をフリーペーパーに書いたり。
2か月前、大学時代から10年近く付き合った恋人と別れた。
社内の女子は4人。
昼食はいつも社内で集まって食べるが、最近奈加子より12歳年上の富田さんの態度がとげとげしい。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
2009年8月、神保町の古びた二階家。
一階は古本屋、古書・汨亭。
二階には下宿人が暮らしている。
若いきれいな女だ。
大学で文学を教えるかたわら、翻訳業をしている吉野も昔、苦学生のころ下宿していた。
大手ゼネコンの娘と結婚し、白金のいわゆる高級住宅街に建てられた要塞のような家に住んでいる。
夜、吉野は下宿に侵入し、白井砂漠という女を無理やり抱く。
[採点] ☆☆☆
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