[寸評]
芥川賞候補となるなど評価される一方、本好き芸人の話題作りのみと酷評する声も多い作品だが、私はそれなりの作品として評価したい。
とりわけ前半の言葉の使い方、表現やリズムがいい。
これに対し、後半はストーリーも表現もちょっと停滞し、最後はずいぶん乱暴になって終わってしまったように感じた。
今回は漫才という作者の自分のテリトリーでの作品だったが、次回は河岸を変えて新しい題材に挑戦してみてほしいところだ。
[寸評]
物語の前半は、過去の犯罪の証拠を39年ぶりに突きつけられて窮地にはまる男の話と、ごく普通の青年の恋愛劇のようなものが交互に語られていき、戸惑い気味に読み進めると、中盤で両者がドッキング。
この構成はなかなか見事で思わず身を乗り出す。
この後は青年の苦闘と、長いエピローグとなるのだが、個人的には青年の陥る状況には納得できないところがあり、まさに書名どおりで予想のついたエピローグも興趣がわかなかった。
[寸評]
朝は三女の喫茶店、昼は次女のうどん屋、夜は長女のスナックと、三姉妹が営む「三人屋」を舞台に、姉妹やそこに通う客らを主人公とした短編5編。
作者は今までライトコメディータッチのちょっと奇妙な味のドラマを描いてきたが、今回もなかなか好調だ。
夫婦、家族、職場等での、けっこうドタバタした波乱のある状況がちょくちょく出てくるのだが、からっとした描き方でさして深刻な雰囲気にならずに読ませてしまうところがこの作者の味だ。
[寸評]
読んでいる途中で直木賞受賞を知った作品だが、賞に値する出来だと思った。
台湾生まれの作者らしく、彼の地の猥雑な空気感や中国人の生活感、気質などが自然に描写されている。
主人公の17歳からの約10年間を描いた青春ものの体裁で、切ない恋も盛り込んだ波乱に富んだ物語で、大河小説の趣もあるし、祖父の死の真相を探っていくミステリーでもある。
全体に粗い印象もあるが、それゆえ青春の躍動感が感じられる作品だ。
[寸評]
旅行者が異国の観光地で事件に巻き込まれ・・と、いかにもの設定で始まり、自ら謎を追う中、誰が敵で誰が味方か、二転三転する物語はなかなかに楽しませる。
1948年作品の本邦初訳ということで全体的に古さを感じるのは致し方なく、殺人場面や銃撃戦など派手な場面がいくつも用意されているのに、なんとなくのんびりした雰囲気が漂い、往事のヒッチコックサスペンスを見る思い。
シリーズの一編らしいが単独で読んで全く問題なし。
[あらすじ]
熱海湾に面した簡易な舞台で漫才コンビ”スパークス”の徳永と相方は、花火大会の会場目指して歩く人たちに向けて漫才を披露していた。
祭りのお囃子が激しく、彼らの声はほとんど客には届かず、立ち止まる者はいない。
そのうち花火の爆音が響き始め、何の充実感もなく持ち時間が終了した。
最後のコンビは徳永とすれ違う時”仇とったるわ”と呟いた。
これが神谷さんとの出会いだった。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
1971年、ジャックら5人の男は富豪で暗黒街のボスでもあるコスターノのアメリカ東海岸の屋敷から一枚の絵画を盗み出す。
4日後、絵の在処と引き換えに百万ドルをコスターノから回収し、5人は各自飛行機や船で大西洋を横断、フランスのある場所で金を山分けした。
それからは年に一度仲間と会うだけ。
そして40年近くたったある日、郵便で俺たち5人が写った写真が届けられる。
[採点] ☆☆☆
[あらすじ]
新宿から西に15分の私鉄の駅。
26歳の森野俊生はここから会社に通っている。
駅前から1キロほど続く商店街の真ん中あたりの、ずっと閉店していると思っていた喫茶店のような建物に、新しい「ル・ジュール」という看板が。
入る気はなかったが、ある朝、店から出てきたエプロン姿の若い女性を見てつい店に入ってしまう。
カウンター席にはずらりと男たちが座っていて、少しひるんだ。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
1975年、葉秋生は台北市の高等中学校の二年生。
蒋介石総統が亡くなり、蒋経国が後継者となった頃。
祖父は中国は山東省の生まれで、第二次大戦終結後は国民党に加担して共産党と戦い、敗走して台湾に逃れ落ち、今は布屋を営んでいる。
今年に入り二度泥棒に入られた祖父は店に寝ずの番に出向いたが、翌日店と電話が繋がらず、秋生が見に行くと祖父が殺されていた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
アメリカ人の演劇プロデューサー、ピーター・ダルースは車でメキシコの遺跡を見て回っていた。
今日はチチェン・イッツァの遺跡へ行くためホテルを出るところで若い娘に、観光ツアーの車に乗り遅れたので乗せてくれと声をかけられる。
車に乗った彼女・デボラは何かに怯えていた。
誰かを、あとを追いかけてくる何者かを恐れているようだ。
やがて観光タクシーに乗り遅れたことは嘘と分かる。
[採点] ☆☆☆★
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