◎06年11月


狐狸の恋の表紙画像

[あらすじ]

 矢島家は代々幕府の御鳥見役を務めている。 長男の久太郎は見習い役として父の御鷹場廻りを引き継いでいた。 その久太郎は同役の石川と内密の役目を申し付けられ、武蔵国の片柳村へ向かっていた。 鷹が獲物を獲る御捉飼場では、鷹庄らが将軍家の威光を笠に着て農民に横暴な振る舞いに及ぶ者が少なくないとか。 実情を調べるよう命じられたのだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 「お鳥見女房」シリーズの4冊目。 例によって30ページほど、全8編の短編集。 すでに30話くらいは続いているわけだが、各回のパターンは見事なまでに似通っている。 季節描写を交えた静かな導入部、あわただしい展開の本編が続き、最後はしみじみとした幕切れ。 それでも飽きることなく毎回、時代人情話を堪能した感じにさせられる。 今回は久太郎と鷹姫の運命やいかにで目一杯盛り上がり、次作が待ち遠しい展開で、見事。


真夏の島に咲く花はの表紙画像

[あらすじ]

 織田良昭はフィジーのビチレヴ島にある日本食レストランのフロアマネージャー。 両親の移住に伴い8年前16才の時フィジーに来て、3年前に帰化したれっきとしたフィジー人だ。 フィジーは観光業第一だが、都市にある店のほとんどはインド系フィジー人の経営だ。 そんな折、武装集団が国会議事堂を占拠し、フィジー系住民による暫定政権樹立を宣言する。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 今までに読んだこの作者の本はすべて4つ星、痛快な娯楽作ばかりだった。 ちょっと毛色が違うかなと感じながら手を出した本作、ちょっとどころか全く作風の異なる物語でした。 実際に起きた2000年5月のフィジー系とインド系の対立に根を持つクーデターに材をとり、流れに翻弄される若者たちの姿を描く、群像ドラマである。 世知辛い日本人、日本での暮らしに対し、フィジー人の生き様は物思わせるが、物語はさして面白くない。


ドラマ・シティの表紙画像

[あらすじ]

 8年間の刑務所暮らしを経て仮釈放中のロレンゾは、ワシントンDCで動物虐待監視官の職に就いていた。 昔の友人ナイジェルは麻薬の売買を取り仕切るギャングで、ディーコン率いるギャングと対立している。 ロレンゾの仮釈放監察官レイチェルは職務熱心な女性だが、一方では酒場で男を漁り中毒自主治療会の集会に救いを求める別の顔を持っていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 アメリカンハードボイルドとしては見せ場も少ないしテンポも緩やか。 しかし良質のドラマを堪能させてくれる。 とりわけ終盤はある種裏切られる展開だが、これが定石どおりだったらこの物語も結局平凡なものと思えただろう。 ペレケーノスの他の作品でも車や犬がよく出てくるが、この物語では主人公の役柄どおり(表紙のように)犬が多く登場する。 動物に対する作者の優しいまなざし、交流の中で癒されていく人々の姿が心にしみる。


図書館戦争の表紙画像

[あらすじ]

 昭和の最終年度、検閲を合法化する「メディア良化法」が成立。 世論に強烈な拒否感が拡がり、既存の図書館法に図書館の自由を法制化する第四章が加えられた。 良化委員会の実行機関である特務機関は武装化してその検閲行動はエスカレートし、図書館側も警備を組織化した。 そんな折、笠原郁は女子では珍しく危険度の高い防衛員を志望していた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 この物語の発想・設定だけなら五つ星でもいいくらい。 日本図書館協会の決議した「図書館の自由に関する宣言」をもとにした設定と構成は、少々図書館の仕組みなりを知っている人なら思わず手を出してしまうだろう。 そもそもSFだし、その突飛さを面白く読み進めていったが、徐々に単なる"戦争ごっこ"にしか見えなくなり、物語世界そのものが小さく感じられてしまう。 自分で書いて自分で乗り突っ込むような文章も目に付いた。


出生地の表紙画像

[あらすじ]

 1980年の東京。 カリフォルニア大学の大学院生リサ・カントリーマンは博士論文のリサーチのため母国の日本に来ていたが失踪。 相続問題も絡み、リサの姉から大使館に頻繁に捜索依頼の電話が入る。 対応するのは米国市民サービス担当のトム。 トムが警視庁に出した行方の照会から、担当することになったのは麻布警察署の窓際警部補の太田だった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 とても長編第1作とは思えない密度の濃い人間ドラマで、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作。 作者は在米韓国人三世。 子供の頃、東京に暮らしていたそうで、日本を舞台とした翻訳ものにありがちな、いったいどこの、いつの時代のと呆れ返るような描写はほとんどない。 生みの親を知らない混血女性の自分探しの旅と、彼女の失踪後に関わることになった2人の男の彷徨いがじっくりと描かれ、味わいのあるサスペンス。


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