[寸評] 冒頭は地元警察の署長が、子供の失踪事件に関する母親の供述を確認する場面から始まる。 続いてそこから誰が子供を誘拐したのかという捜査の過程が語られていくのかと思ったら、その後のほとんどが町の人々の日常を描くのに費やされる。 とにかく登場人物が多い。 物語を読みながら、これは誰だったかと主な登場人物の表を行ったり来たりという感じ。 人間模様は多彩で面白く、むしろ群像劇として読み応えあり、肝心のミステリー部分は少々呆気ない。
[寸評] フリーの女性雑誌記者が、売春していた女性二人の連続殺害事件を追う犯罪小説。 貧困、虐待といった劣悪な環境でのやるせない負の連鎖の中で起きる犯罪を、取材記者の視点、犯人視点で描き出していく。 社会の底辺にいるような人たちの、まさに蟻地獄のような人生が読んでいてとても辛い。 真犯人、場当たり的な犯行の中の真実が終盤に語られ、その構成はいいのだが、それまで寡黙だった男が随分饒舌になったのはちょっと気になった。
[寸評] 江戸時代、大型船の建造に挑戦する瀬戸内の船大工たちを描いた時代小説。 当時、五百石積みの船が大型船だった頃、千石積みの船を造って、荒れ狂う佐渡の海に挑む男たちのたいへん骨太な物語だ。 そして、老いを意識し始めた父と夢を追い血気にはやる息子という船大工の親子の激しいぶつかり合い、葛藤と愛憎のドラマでもある。 物語はまさにドラマチックに展開し、波濤が盛り上がる海に大型船で乗り出す場面はかなりの迫力がある。
[寸評] 作者の6年ぶりの新作長編で、得意の警察ものではなく建築士を主人公にしたミステリー。 もとはかなり前の雑誌連載を全面改稿したものだそう。 新築家屋を引き渡された家族が行方不明という冒頭の謎の提示はその後の展開を期待させるが、そこに事務所の設計コンペ参加というドラマが並行して描かれ、全体のテンポはややゆっくり。 ドラマは読み応えあるが、ミステリーとしては今ひとつ盛り上がらない。 終盤の謎解きは良く組み立てられていると思う。
[寸評] ホラー仕立てのミステリー作品だが、ホラーとしてはそれほど怖くはない。 またミステリーとしても真犯人は話半ばで分かってしまい意外性はさほどない。 それでも物語の流れは全体にスムーズで読みやすく、次の展開がどう転んでいくか、楽しみにページをめくる面白さがある。 とりわけ終盤のたたみかけるようなスリリングな展開はなかなかのものだ。 しかし最後のおぞましい場面は読みたくなかったな。 「イヤミス」を超えた「オゾミス」というそうです。