◎15年9月


悪魔の羽根の表紙画像

[あらすじ]

 西アフリカのシエラレオネ、内戦終結後も凶悪な殺害事件が頻発していた。 最近では5人の女性が暴行されめった切りに殺害されているのが発見された。 警察は三人の若者を逮捕したが、ロイター通信社の記者コニーはジョン・ハーウッドという男を疑わしく思うようになっていた。 ハーウッドは鉱山の権利者の運転手兼ボディガードをしているが、怒ると何をするか分からないような男だった。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 バグダッドで何者かに拉致され3日後に唐突に解放された女性記者が、イギリスに帰国後マスコミから逃がれイングランド南西部の田舎に移り住む。 ここから拉致・監禁・解放の謎が語られていくと思いきや、話はまったく変わって、小さな村での人間関係や家主の家族の問題が延々と語られていく。 あまり興味を惹かれない話が長々と続き、急展開後もすっきりしないままに。 犯罪者の側が何も語られていないのも盛り上がりに欠ける一因では。


長いお別れの表紙画像

[あらすじ]

 東耀子が三人の娘に電話を掛けたのは、夫昇平の誕生日のふた月ほど前だった。 長女と次女は結婚して久しく、三女は独身で、都内に事務所を構え事業に忙しい。 夫の昇平は中学の校長や公立図書館の館長を務めた人だったが、三年前に病院で初期のアルツハイマー型認知症と診断され、徐々に症状が進行していた。 娘たちは財産分与の話があるものと考え、そろって実家を訪ねる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 認知症を患う老人を巡って介護する老妻、離れて暮らす三人の娘を描く。 思わず笑ってしまうような、しかし深刻で切実なエピソードが語られていき、それは人間の尊厳を徐々に失っていくような悲惨さがあるが、ユーモアのあるソフトな語り口で、暗い話になっていないのは良かった。 妻と娘たちの、介護にとことん振り回されながらも、夫であり父親への愛情がほのかに見える。 ストレートに語らないことでとても感動的になったラストも素晴らしい。


声の表紙画像

[あらすじ]

 外国人観光客で賑わうアイスランドの首都レイキャヴィクにあるホテルの地下の小部屋でサンタクロースの衣装を着たドアマンが刺し殺されていた。 グドロイグルという名のドアマンはこの小部屋に住んでいたという。 部屋にはウィーン少年合唱団の本と昔の有名な子役スター、シャーリー・テンプルの映画ポスター。 警察の捜査官エーレンデュルは同僚とともにさっそく聞き込みを開始する。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
「湿地」「緑衣の女」に続き、エーレンデュル捜査官を主人公とするシリーズ第三作。 全体の暗さはそのまま、ミステリとしての面白さは一作ごとに上がっている印象で、読み応えのある物語になっている。 行きつ戻りつの警察の捜査も読ませるが、徐々に明らかになっていく被害者とその家族のたいへんドラマチックな物語がこの作品の肝。 これに相変わらずのエーレンデュルと娘の確執に、病理学研究所の女性との交流も加わり面白みを増している。


淵の王の表紙画像

[あらすじ]

 中島さおりは福井県の山奥の集落に住む受験を控える高校3年生。 西村三奈想という彼氏もいるが、杉田君のことが本当は好きだ。 東京の大学に合格し、調布に住むことになる。 同じく東京の日本橋に住み始めた三奈想くんとも付き合い続けた。 夏休みは福井に帰らず、東京でバイトして、休みの終わりに友達の真幸ちゃんと鹿児島に旅行する。 ホテルを出ようとしたとき桜島が噴火する。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ホラー中編3編。 ホラーではあるが、3編とも主人公の守護霊(らしきもの?)が語る人間ドラマの様相を呈している。 他愛もない会話が延々と続く場面が多いのは作者のスタイルなのだろうか。 3作目の「中村悟堂」編が呪いも入ってホラー度は最も高いが、気に入ったのは2作目の「堀江果歩」編。 主人公の小学生の頃から物語は始まり、マンガ家として成功していく一代記のような作品で、ホラー度は少ないが波乱に富んだ話で面白かった。


王とサーカスの表紙画像

[あらすじ]

 新聞社を辞めた大刀洗万智はフリーとなり、雑誌編集者の知り合いからアジア旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールのカトマンズに来た。 トーキョーロッジという名の安宿に滞在し街を見て歩く。 そんな折、王宮の宮中晩餐会で、皇太子が国王や王妃らを射殺するという事件が発生。 皇太子は自殺したらしい。 万智は雑誌編集者に連絡し、王宮事件の取材を任されることに。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 実際に起こったネパール王族殺害事件に材を取ったミステリ。 主人公の万智は作者の10年ほど前の作品「さよなら妖精」に登場しているが、本作は内容的には続いていない。 事件が始まるまでもページ数はあるが、旅行者から見たカトマンズの雰囲気がリアルに良く出ていると思う。 中盤以降のミステリ部分は比較的分かりやすい流れですらすらと読める。 伏線も適度に張られており、推理にさほどの意外性はないが、全体として楽しめた。


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