[寸評]
作者のデビュー作「となり町戦争」と同様、荒唐無稽な設定ながら不思議にリアリティを感じさせる。 物語は月ヶ瀬町の消滅から次の消滅までの30年における複数の絡み合う登場人物たちの想い、戦い、怒り、悲しみ、成長などを描いていく。 デビュー作同様、社会が非常に管理統制されており、それゆえ語り口も抑制され淡々としたもので、ドラマチックな物語が静かに綴られる。 盛り上がりはないが、それが作者の描き方でもある。
[寸評]
一気読みのクライム・アクション。 ジム・トンプスンを思い起こさせる文体、不条理な物語の流れ、そして派手さはやはり現代のもの。 200ページにも満たない短い物語だが、ぐっと凝縮された密度の濃さが感じられる。 単純なアクションものではなく、幼い頃から不条理な人生というものに翻弄され続けるドライバーの、自分探しの旅のドラマでもある。 ひどく血腥く、一方的な話で、読み手を選ぶかもしれないが、軽く読んでも面白い。
[寸評]
ホームドラマチックなスポーツ根性青春もの。 普段からろくに走ってもいない連中が、最初のタイム計測で1人を除いて5kmを15分台から18分台なんてそんなわけないだろ、とその時はしらけたが、とにかく引き込まれてしまう。 基本的にいいやつばかりなのも胡散臭いが、文句を受けつけない直球勝負の描き方に脱帽。 200ページに及ぶスリリングな駅伝場面も、ぐっと胸に詰まらせるシーンも織り交ぜ、あっという間に読み通せます。
[寸評]
娯楽性を兼ね備えた本格ミステリー。 「向日葵の咲かない夏」からさらに完成度を高めたようで、小道具を使い、伏線を張り、どんでん返しも鮮やかに決まる。 夢、精神分裂などの幻惑要素も上手く織り込み、十分に楽しませてくれる。 亜紀の母親との出来事はもっと強烈に彼女を追い込むだろうし、エピローグが余分な印象だったこと、ゴミ箱の使い方、犯人の造形が今ひとつなど残念な点も挙げられるが、次作が楽しみな作者である。
[寸評]
書店を舞台に、ちょっとした謎解きの短編が5編。 巻末に書店員の座談会があるが、自分たちの日常が非常にリアルに描かれており、たまらない本だとか。 しかし単なる書店のお客の私には、どうも盛り上がりに欠けた、"つくり"が見えてしまう軽ミステリーという印象でした。 中では表題作と「六冊目のメッセージ」が面白いが、いかにも女性が好みそうな物語です。 素人探偵の名推理ってのも、何度も続くと興をそがれてしまいます。