◎12年7月


ブルックリン・フォリーズの表紙画像

[あらすじ]

 ネイサンは60歳を前にして損害生命保険会社を退職し、肺ガン治療も一段落、妻には去られ、という状態で、ブルックリンにある庭付きアパートメントを借りて移り住んだ。 ここで「人間の愚行の書」を人生の集大成として書くことにした。 そんなある日、古書店で甥のトムが働いているのを発見。 7年ぶりの対面だが、彼は大学院を卒業し一流大学で職に就いているはず。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者の諸作品の中ではユーモア度が高く、小咄めいたエピソードも豊富、振幅の大きな展開で、実に楽しめる作品になっている。 家族、親族、恋人から隣人同士と、さまざまな人間関係の中での愚かな行いが描かれるが、根底はやはり人間賛歌のような印象。 その分、お話が少々うまく流れすぎるようなところもあるが、無縁社会の日本に比べアメリカ、少なくともブルックリンでは他人との触れ合いを日常的に楽しむ心の余裕を感じた。


秋霧の街の表紙画像

[あらすじ]

 私立探偵の神山は、弁護士の紹介で新潟市の依頼人宅に赴く。 依頼人の乙川義之は、2年前に殺害された娘の麻利子がなぜ殺されたのか、その真相調査を依頼してきた。 この事件では五十嵐佳吾という麻利子の高校の同級生が重要参考人として指名手配されているが、彼はすでに自殺しているとの噂もある。 依頼人は五十嵐を犯人とは思っていなかった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 この作品は私立探偵・神山健介シリーズの第4弾だそうだが前3作は未読。 スピード感溢れるハードボイルド探偵小説で、予想以上の面白さでした。 自分が罠にはめた連中のところにのこのこ戻っていったり、復讐を誓った相手にとどめの一撃を!でなく、あっけなく車の衝突死で終わらせるあたり、不満な点もいくつかある。 それでも語り口はドライで、活劇シーンもなかなか迫力ありの娯楽作で、採点はやや甘めの4つ星。


身を捨ててこその表紙画像

[あらすじ]

 昭和44年の大阪。 23歳の梨田雅之は相場の勝ち金3000万円を得る代わりに、先物会社に雇われたやくざ者に脇腹を刺され入院していた。 退院して金の問題にケリがつくまで梅田のホテルに滞在していたが、時間潰しに麻雀屋をのぞいて砂押という60前後の男と出会う。 梨田は、賭け事全般に強い砂押に気に入られ、梨田も砂押も師匠と呼ぶようになる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 梨田を主人公に、作者の自伝的小説ともいわれる「病葉流れて」シリーズの4作目。 唐突な始まり、中途半端な終わりも大河小説の中の一部分では致し方ないが、波乱に富んだ浪花節的ストーリーで、展開も速く、単独で読んでも十分面白い物語。 何カ所か挿入される麻雀対戦場面は麻雀を知らない人にはさっぱりだろうが、これも楽しめる。 23歳で大人びて落ち着きすぎの梨田の人物像と時代色が意外なほど希薄なのが不満だが。


竜虎の表紙画像

[あらすじ]

 1938年、日本の傀儡政権、満州国の大地。 熱砂の大平原を疾駆する軍用トラックと二台の馬車に徐輝英率いる50騎余りの保衛団が襲いかかる。 彼ら馬賊は関東軍や満州国軍に対抗し、村を守る自警団的な存在だ。 多くの武器弾薬を奪うとともに、馬車には人質らしき連中が乗せられていた。 その中に二十代前半の冷ややかな殺気を放つ女がいた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 あの柴火と伊達が帰ってきた。
「頭弾」そして「狼叫」から10数年、ようやく出た大陸冒険活劇の完結編。 前半はやや重く、シリーズの主要人物の動きも鈍かったが、中盤、伊達がひとりの男を呼び寄せようとするあたりからの疾走感は凄い。 柴火が再び武器を取ってからは怒濤の勢いで活劇場面が続く。 終盤の興奮の連続は近年稀に見るもの。 そしてカバー絵にある二人の対決、賛否あるかもしれないが私には納得の幕切れ。


湿地の表紙画像

[あらすじ]

 アイスランドの首都、レイキャビック。 二階建てアパートの半地下の部屋で男の死体が発見された。 名前はホルベルク、69歳。 分厚いガラスの灰皿で頭を殴られたようだ。 現場には「おれ は あいつ」と書かれた紙が残されていた。 捜査にあたるエーレンデュルは30年近く現場にとどまるベテラン。 被害者の机の引き出しから教会の墓石の写真を見つける。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 北欧の国、アイスランドの作家の犯罪ミステリとは珍しい。 作品全体にやや重い空気が垂れ込めたような独特の雰囲気を持っており、派手さのないこの物語に相応しい。 警察の丹念で地道な捜査とともに、エーレンデュルの娘との確執なども描かれ作品に厚みを持たせている。 地味だが退屈さはない流れで、事件の真相もしっかりと練られている。 ただ、エーレンデュルが娘に捜査の進み具合を話すのは守秘義務違反でしょう。


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