[寸評]
「黄金旅風」に続く長崎もので、天草四郎らによる島原の乱をメインに据えた堂々たる大作。 キリシタンの反乱程度にしか認識がなかったが、社会、政治、経済等詳細な背景描写には圧倒される。 それにも増して、甚右衛門や恵舟、図らずも乱のきっかけを作ることとなった寿安という青年など、人物・心情描写が素晴らしい、信念のドラマ。 後半、籠城戦の長いくだりで人間の描き方が物語の他の部分に比べ不足しているのが残念だった。
[寸評]
重量級の本の次は気軽に楽しもうと、私自身以前は凝っていた"釣り"を題材にした本を選択。 "あゆ"や"おいかわ"といった川魚釣りを背景にしたライトコメディー短編6編。 いずれも「奇跡を信じたければ釣りをするがいい」という言葉そのまま、人生に迷いの出た者たちがふとしたきっかけで釣りに夢中になり、ちょっとした奇跡もあり、元気になっていくというもの。 あまりに簡単に、じゃんじゃん釣れすぎるところはご愛嬌かな。
[寸評]
青春スポーツ小説の秀作。 連戦連勝の鏑谷に対し、他の部員は試合で一勝もしたことのない者ばかり。 そこに見るからにひ弱な新入部員。 懸命に練習する部員たちと彼らを笑顔で支える女子マネージャー。 絵に描いたような平凡な物語を連想するかもしれないが、かなり長いものの巧みな展開でぐいぐい引き込まれ、読みだすと止まらない、まさに汗と涙の物語だ。 畳み掛ける終盤の迫力と、爽やかなラストも素晴らしい。
[寸評]
まずはよく練られた誘拐劇に感心。 韓国大統領来日という国家的行事に時を同じくした犯罪という舞台設定も派手で良い。 ずっと頭の片隅に引っ掛かっていた疑問にも最後にしっかり答えてくれる。 面白く読ませるが、全体的には遊びの少ない展開で、痛快さに欠けるのは娯楽小説として物足りない。 残念なのは、警察が犯人を特定する端緒となる"あること"。 用意周到、完璧を目指す犯人がこれはないでしょうという感じです。
[寸評]
設定は「ミスティック・リバー」を、心の奥深くに徐々に分け入るような描写はトマス・H・クックを想起させるが、芯はこの作者らしい迫力あるアクション警察小説。 26年前の連続殺人事件と少年だった主人公らを巻き込んだある出来事、それに現在の事件が絡まるが、無駄に複雑にはされていない。 結末を不足と感じる人もいるだろうが、私はこの終わり方でさほど不満はない。 ただ、殺人を過度に猟奇的にする必要はないと思う。