◎05年8月



[あらすじ]

 1942年、日本軍はアリューシャン列島のアッツ島とキスカ島を占領。 翌年5月、アッツ島が米軍に奪還され、7月、濃霧に紛れキスカ島守備隊5200名余は島を脱出した。 残されたのは軍用犬4頭。 うち1頭は上陸した米軍を地雷原に誘い込み爆死。 3頭は米軍に属することに。 子を5匹産んで死んだ雌犬以外の7頭が本土移送のため輸送船に乗り込む。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 奇書
「アラビアの夜の種族」に続く作者の書き下ろし。 太平洋戦争のさなか、北の島に置き去りにされた4匹の軍用犬から始まる血がどのように引き継がれていくか、またそれぞれの世代の犬たちの波乱に富んだ生き方が描かれる。 一方、ソ連の崩壊まで、犬を媒介にした壮大な世界史が展開される。 決して読みやすい作品ではないが、とにかくこの物語の構想それ自体に、また全編にわたり疾駆しているような展開には驚きました。



[あらすじ]

 アメリカの推理作家エラリー・クイーンが日本のミステリ関係者の招きで来日。 彼は探偵としても有名だ。 クイーンの滞在中、日本の若いミステリファンとの懇談会が持たれ、ミステリ好きの女子大生小町奈々子も出席。 英語にも強い彼女はその席でクイーンと諸作について話し込み、結局、その頃起きていた幼児連続殺人事件の捜査にもクイーンと関わることに。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 クイーンの日本を舞台にした未発表原稿を作者が翻訳したという設定の作品。 ミステリ好きなら思わず手にとってしまう装丁にまず★ひとつ。 さて肝心の中身はというと、クイーンのファン、本格推理好きなら、この設定だけで十分満足するかもしれないが、ひとつのミステリ作品としてどうだろうか。 ややもたつき気味で、意外性のない展開は、作中多く記されている"訳者"である作者の"註"によりさらに増幅された感じで、全体に物足りず。



[あらすじ]

 関東地方N県の県警本部長公舎で警察庁キャリアの椎野は普段より早く目を覚ます。 その朝、近畿地方で大きな地震があったらしい。 一方、同じキャリアで35才にして警務部長の冬木のもとに、本部長から警務課長の不破が官舎にいないとの電話が。 不破は県警生え抜き警察官の中で最も優秀で信頼に足る男。 しかしその後も連絡はなく、失踪の疑いが。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者の傑作
「第三の時効」系列の警察を舞台とした小説。 犯罪捜査ものではなく、県警本部長と警務部長のキャリア2人、準キャリアの警備部長、そして刑事部長ら3人の叩き上げの部長たちによる心理サスペンス。 警務課長の失踪が彼らに与える大きな波紋、疑心暗鬼の渦が緊迫感たっぷりに描かれる。 権力欲にかられた彼らのせめぎ合いは、その妻たちまで加え、ドロドロとしてかつスリリングで、まるで馳星周の世界のようでした。



[あらすじ]

 1953年5月の日曜日。 コネチカット州ピッツフィールドの公園の茂みで、顔をつぶされた女の死体が発見された。 ベテランのダナハー警部が捜査を指揮するが、犯人どころか女性の身元も分からない日が過ぎていく。 その時部下のマロイ刑事が、頭蓋骨から顔を復元する案を申し出る。 出来上がった顔の写真を新聞に載せると、さっそく身元が判明するが。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 警察小説や私立探偵小説が多く、44年間に46作を著した作者の第5長編。 頭蓋骨を修復し、生前の顔を復元するところを突破口として、以降丹念に捜査の過程が綴られていく。 派手なアクションシーンなどはないが、被害者の素顔、家出から5年間の軌跡が徐々に明らかになっていくあたりは上手い。 娯楽性や意外性という点は希薄な印象で、凄腕警部のはずのダナハーもただ部下を怒鳴りつけているだけにしか見えなかった。



[あらすじ]

 売れっ子芸者お袖の家で暇を持て余していた瓢六のもとに、以前牢屋で知り合った鶴吉が訪ねてきた。 賀野見堂という屋号の古本屋の男を連れて。 賀野見堂の意味は蚊と蚤、うるさくお上につきまとい、ときにはちくりと刺す。 女浄瑠璃の花形太夫が行方知れずとなり、道斎という奥医師の仕業は間違いないようだ。 そこで疑いを瓦版にしてばらまこうという。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 瓢六を主人公にした連作短編集の第2弾。
前作ではひとつひとつの話のまとめ方が絶妙で舌を巻いたが、本書掲載の話もいずれもなかなかに見事。 権力者を瓦版でちくりとやったり、ひょんなことから意気投合したやもめの同心の恋を取り持ったり、牢内の騒ぎをおさめたりと、胸のすくような、また味のある活躍が描かれる。 あまりに上手くまとまりすぎて、どれももう一波乱ほしいと思ってしまうが、せいぜい40ページ弱では無理ですか。


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