[寸評]
創刊されたハヤカワ時代ミステリ文庫の1冊。 養父の後を継いでよろず請負い稼業を始めたお市が、探偵初心者として苦悩しながらも、養父から教え込まれた知識、技能を生かして、前を向き事件に挑んでいく。 ジーファーという鋭く尖った琉球の簪を武器に悪党共に立ち向かうお市はカッコいいじゃないですか。 4作連作で事件そのものに深みはないし、時代ものの渋みにも欠けるが、読みやすく楽しめる女私立探偵ものだ。 謎は残ったままなので、次作にも期待。
[寸評]
5作のミステリ短編。 その中の「偽りの春」で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した。 狩野雷太は表情にも口調にも締まりのない軽薄な印象だが、実は鋭い推理を働かせる男。 ある事件でいきすぎた尋問をして交番に左遷された。 その狩野の、徐々に核心を突いていくような推理がなかなか見事な作品ばかり。 物語はいずれも加害者側の独白という形で語られる。 それゆえか、読んでいて少々イライラした感じ、イヤミスっぽく読後感はあまり良くない。
[寸評]
「カササギ殺人事件」が実に見事だった作者による正統派の謎解きミステリ。 前作ほど凝った作りではないが、遂に事件が解明された後、たいへん巧妙に仕掛けられた伏線の数々がしっかり回収されるさまには、やはり見事と唸らされる。 物語はいきなり引き付ける冒頭から最後まで全編無駄なく進んでいく。 そしてホロヴィッツ自身が登場して、ホームズものにおけるワトソン博士の役目を負う構成も、現実と小説を織り交ぜたもので、たいへん面白い。
[寸評]
オリンピック開催を控えた昭和38年の東京を舞台とした社会派犯罪ミステリー。 600ページ近い長編だが冒頭から終局まで全編緊張感に満ちており、まさに一気に読ませる力がある。 途中までは宇野寬治の視点と警視庁の落合刑事の視点を交互に描き、後半は主に捜査側の視点でスピーディーに捜査の様子を描いてサスペンスを盛り上げる。 社会背景、加害者側、被害者側、捜査側すべてしっかりと書き込まれ、読み手の興味をそらさない文章力が凄い。
[寸評]
第1作から33年を経てのシリーズ完結編。 物語は最初から続きものの体裁で、前作からもかなり時間が経っているものの、百舌について過去の経緯などは一切説明無く入っていくので、戸惑いがある。 似たような女性の名前の連発も読んでいて混乱の一因。 完結編らしく終盤へ向けての盛り上がりは流石だが、シリーズ初期にあったような冷たいサスペンスや物語としての面白さは感じられず、単なる娯楽アクションスリラーで終わってしまった感じ。