[寸評]
映画「エクソシスト」の原作・脚本で名高い作者の1978年作品の初訳。
精神病院のような施設に収容された者同士や彼らと精神科医との、いわば支離滅裂な会話が中心の物語で、さぞや邦訳には苦労したものと思わせる。
訳者によれば、その支離滅裂とみえる会話も、実は英文学をはじめとする広範な知識を有する読解力があれば十分に深いものらしい。
正常と異常の境界はどこか。
短いが凄みを感じさせる、興味の尽きない本ではある。
[寸評]
1930年代のアメリカ探偵小説の雰囲気も濃厚な第1作から、怪奇色満点のもの、SFそのものなどと1作ごとに趣向を変えた5話からなる短編集。
いずれも練った構成に、リジーとクリスタルの掛け合いもいいし、テンポの良い展開で実に楽しい作品だ。
まさに”怪奇”探偵の2人のぶっ飛んだ設定にも驚かされるが、そのおかげで様々な窮地もなんのそのの活躍はさらなるシリーズ化を期待したい。
この作品の雰囲気を見事に表した装丁も抜群。
[寸評]
「王とサーカス」と同様、フリー記者の太刀洗万智を主人公に据えた本格推理短編6編の作品集(冒頭の1編のみ新聞記者時代)。
6編ともスムーズな流れでさくさくとテンポ良く読める作品になっているが、どうも後味の良くないものが多いのは残念だ。
太刀洗がジャーナリストとしての気概を持って仕事をしている点は好印象だが、どの物語もあまりに警察の先を行く推理力・洞察力と行動で、もはや記者ではなく探偵になってしまっている。
[寸評]
第154回直木賞受賞作。
徳川時代、「太平の世における武士」としての男とその妻らを描く時代小説短編6編。
全体に時代小説らしい渋みは感じる。
男と女を題材とした話が多いが、表題作などさほど感心はしなかった。
題材の面白さとして読ませたのは、ようやく藩に召し抱えられた男に与えられた役目がやっかいなことで評判の地区の管理という「ひと夏」、無役の旗本らが出仕を求めて権勢を持つ人物の屋敷に日参する「逢対」など。
[寸評]
作者の「ロスト・シティ・レディオ 」以来の第2長編。
南米ペルーと思われる国を舞台に、総勢三名の小劇団が「間抜けの大統領」というちょっと危ない作品をもって、山あいの町や村を回るのがメインの展開。
序盤は少し停滞気味だが、公演旅行が始まると俄然物語は躍動し、途中語り手が誰かという謎にも翻弄され、終盤はネルソンに襲いかかる理不尽な悲劇に身もだえしてしまう。
語り口調は硬いが、物語の面白さを感じさせる作品。
[あらすじ]
1968年ベトナムでの戦いにおけるアメリカ軍の中で、将校が急に精神を錯乱させ驚くべき異様な強迫観念にとらわれる者が続出した。
任務を回避するための仮病か。
しかし一部の者は戦闘に関わっておらず、勲章を授与された者も多かった。
この謎を精査し原因と治療法を見つけるため、政府は秘密収容所に患者を隔離して研究した。
そのひとつ、センター18に海兵隊の精神科医ケイン大佐が配属される。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
1938年、ロサンゼルスのダウンタウンにあるコルト探偵事務所。
所員は所長のエリザベス(愛称リジー)と助手のクリスタルの2人。
三十代半ばの美人が相談に訪れる。
名前はジェーン・ドゥ。
つまり本名は明かせない事情があるらしい。
つきあい始めて半年の恋人の寝室でエロ、恐怖、サディズムを売りにしたパルプ雑誌をたくさん見つけ、さらに工房で血の染みのついたタオルを発見し、心配になったと言う。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
東洋新聞大垣支局の新人記者の藤沢は、教育係の太刀洗とともに列車で甲府に向かった。
急成長して有名になった新興企業が経営破綻し、社長の早坂一太と妹で広報担当だった真理が姿を消したのだ。
太刀洗は、真理が妹にかけた電話の内容を入手し、山梨県幡多野町の祖母の家付近にいると見当を付けていた。
甲府から乗ったタクシーで太刀洗は運転手にほうとうを出す店をリクエストする。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
長倉庄平は作成した釣り針を持って長倉克巳のもとを訪れた。
二人とも本条藩御馬廻り組の番士で、長倉家の惣領だが、克巳は長倉本家、庄平は分家の分家だ。
克巳は類いまれな容姿に、剣の腕も立つし、気持ちのあり様はいつもふんわりとした男だ。
その克巳が恋わずらいだと言う。
相手はこの春に本条藩の藩医に加わった医師の娘、世津。
世津は父の診療を手伝い、優しく美しい女だった。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
内戦のさなか、ディシエンブレという名の劇団は紛争地域を訪れては危険を冒して「人民のための演劇」を実践したことで名を馳せた。
その頃はまだ少年だったネルソンが、1995年に芸術学校に入学した頃には内戦はとっくに終わり、ディシエンブレは伝説のような存在になっていた。
2000年の終わりごろ、劇団は公演旅行を行うため新しい俳優を一人募集した。
ネルソンはやる気満々で応募する。
[採点] ☆☆☆★
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