◎97年4月



[あらすじ]

 ファッション業界大手の女社長魚住江利が八ヶ岳山麓の別荘で焼死体となって発見された。 どうやら火事の前に殺されていたらしい。 地元警察の堀田刑事は江利が抱いて死んでいたキューピッド像が気にかかり、江利の昔の恋人らと協力して徹底的な捜査を行う。 事件は莫大な遺産を巡る争いから、江利の数奇な過去へと展開していく。

[採点] ☆☆★

[寸評]

 事件、構成、人物像、謎、小道具など物語全体にやや古い印象。 読者を飽きさせまいと次々に話が展開するのだが、すべて予定調和的でただ決められたレールの上を進んでいるだけ、といった感じ。 作者が意図している意外な展開、というのがさっぱり意外でなく、妖しげな雰囲気を醸し出すか、と見えたエロス像も効いてこない。 帝銀事件とリタ・ヘイワースの死から話が始まるようではやっぱり古いわな。


 

[あらすじ]

 生来怠け者の小池和義は、超売れっ子作家を妻に持ち髪結いの亭主状態に満足していた。 しかし昔からの作家志望の夢を捨てきれず密かに小説を書き続けていたところ、それを妻に馬鹿にされたことから殺意が芽生える。 彼にとって完全犯罪を成し遂げるのは容易なことだ。 なぜなら、超能力テレポーテーションが使えるのだから。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 相変わらずのこの作者独特の掟破りの設定ですが、今回はかなり謎解きが"本格ミステリー"しています。 事件は死体が1つだけ。 中盤以降延々とその事件の謎解きに終始するのですが、ロサンジェルス−東京間を何度もテレポートする(2人で!)ことで読み手を大いに困惑させると同時に楽しませてくれます。 そして伏線をいくつも張り、最後はしっかり謎を解く、本格推理ものでした。



[あらすじ]

 平賀誠吉は生け花用の花木を卸す花材屋。 妻は昔他の男と家を出て、娘は東京で大学に通っている。 彼には20年来、心の奥底で想い続けた女性がいた。 しかし彼女は華道の家元の娘。 彼女が若い頃、家を飛び出しジャズ歌手をしていたとき、見張りを命ぜられた誠吉はいつしか彼女に惹かれていた。 立場の違いから抑えてきた想いが彼女の離婚により微妙に変化していく。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
この作者初の恋愛小説というのに惹かれて読みましたが、非常にオーソドックスで古風な恋愛小説でした。 ドラマチックな展開もなく話は淡々と進むが、決して退屈させられることはない。 定石通りの悲恋話ではあるが、誠吉と家元の娘絹子の、思いを通わせながら立場の違いからけっして越えられない2人の感情がしっとりと全編を包んでいる。 ただ、エピローグは悲恋の幕切れらしく思い切り泣かせるぐらいの描写が欲しかったです。



[あらすじ]

 シュメール文明の発掘調査で光センサーを持つオルゴールと謎の記憶媒体が発見される。 それらは遠く1万2千年前のものと確認された。 オルゴールによってもたらされた夢の中の情報を頼りに、考古学教授シュナイツァーらは南太平洋の海底で巨大な遺跡を発見する。 その町に遺されていたコンピュータで記憶媒体の解析が始まる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 中編ながら遙か人類の起源にまで遡る壮大なSFロマン。 冒頭の不思議なオルゴールから巨大遺跡の発見までは読み手の興味を引き、次の展開を期待させる。 しかしその後南極から月にまで話は広がっていくものの、話のテンポにリズムが無く、一本調子で最後までいってしまった感じ。 すべてを現代人に語らせるのでなく、古代の世界を舞台に物語を展開していけばもっと面白くなったのでは。 なお、この本のホームページは
こちらです。



[あらすじ]

 桜子姫は播磨の国は三日月藩主の娘。 父が参勤交代により国へ戻った時を狙い江戸家老の暮林がお家乗っ取りの陰謀を企てているのを知り、乳母の楓と共に藩邸を飛び出す。 町中で暮林の手の者に囲まれ危ういところを救われた桜子は、恩人の浪人住之江廉十郎を「我が背の君」と決め、廉十郎の長屋に居座ることに。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 無類の美女で剣の達人ながら、世間知らずで人迷惑なほど天真爛漫な桜子姫のキャラクターが最高。 5章+番外編から成る本書の最初の1章が出色の出来で、これだけなら☆5つもの。 話が進むにつれややトーンダウンするが、文章に生き生きと跳ねるようなリズムがある。 悪徳浪人を気取っていた廉十郎が毒気を抜かれ、姫の言動に嘆息ばかりとなるのが傑作。 気楽に楽しみたい人向けです。


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▲ 「藤田 宜永」
 日本推理作家協会賞を受賞した大作「鋼鉄の騎士」のほか、ノスタルジックな「明日なんて知らない」、探偵竹花シリーズ、 フィルム・ノワールの雰囲気漂うフランス暗黒街もの、ミステリーの中で市井の職人たちを人情味豊かに描く「じっとこのまま」等々、味わい深い佳品揃いの作家です。 たしかミステリー作家小池真理子のだんなさんでしたね。