[寸評] 前作「黒き荒野の果て」に続き、ミステリーの主要な賞を軒並み連続で受賞した作品。 同性愛者への根深い嫌悪の中で息子を拒絶してきた二人の父親が、深い悔恨を胸に復讐に突き進む。 復讐劇自体に目新しさはなく、相変わらず警察の影は薄いが、全編疾走するクライムサスペンスの面白本。 哀しい男たちの挽歌だが、血で血を洗う暴力の嵐は前作よりもさらにヒートアップしており、サム・ペキンパーの映画ばりの凄絶さで、もはや戦争の域に達しているかのようだ。
[寸評] 戦国末期から徳川初期、石見銀山を舞台に、山師の喜兵衛に拾われた少女ウメが、自らの居場所を求めて逞しく生きていく姿を描く大河小説。 当時の銀山の死と隣り合わせの繁栄の世界が詳しく描かれ、たいへん興味深い。 また、女であることの葛藤に苦しみながらも懸命に生き抜いていく主人公の姿は感動的。 さほど長くはなく最後は端折られてしまったのは残念だったが、全編波乱に富んだ物語はめっぽう面白く、引き込まれて読んだ。 直木賞受賞も頷ける作品。
[寸評] 地下建造物に閉じ込められた限られたメンバーの中での殺人の連続と犯人探しの本格ミステリー。 そしてタイムリミットが迫る中で地下からの脱出は成るかという極限状況ものでもある。 なぜ早く脱出の手を打たないのかというもどかしさがあり、また物語の中盤はややだれ気味だし、殺人事件のちょっとゲーム的な書き方は気になったが、とにかく終盤の大どんでん返しが凄い。 それは恐ろしいほどの衝撃があった。 状況の反転は鮮やかすぎるほど決まりました。
[寸評] 隣家の夫が殺人犯だと確信した女性だが、彼女の主張はある事情から警察などには懐疑的に見られてしまう。 彼女は自ら調査を続け…というサスペンス・ミステリー。 複数の視点で語られる物語はテンポよく進み、徐々にサスペンス度は盛り上がり、面白く読ませるが、警察の対応はあまりにおざなり。 監視カメラの多いアメリカなら少し調べればアリバイは崩れると思うが。 肝心の真相はカンの悪い私でも途中で分かってしまい、結局驚きがなく終わってしまった。
[寸評] ミステリー仕立ての時代小説。 六章立てのうち前五章はどれも、菊之助の縁者が仇討ちを目撃した者たちに様子を聞くだけでなく、彼・彼女らの来し方を子細に語らせるという趣向。 この各人の過去の人生模様、我が人生の語りがそれぞれにとても興味深く、めっぽう面白い。 少しふくらませればどれも本1冊に出来そうなほど中身が濃い。 最終章が仇討ちの真相に迫るミステリーになっており、書名の「あだ討ち」も腑に落ちるが、ちょっとテンポが悪いかな。