AUGUST

◎16年8月


ジョイランドの表紙画像

[あらすじ]

 主人公の大学生デヴィン・ジョーンズは1973年の夏、大学からも故郷からも離れたノースカロライナの遊園地でアルバイトを始めることに。 恋人のウェンディは女友達とボストンでアルバイトするとさっさと決めてしまい、夏休み中は遠距離恋愛になる。 ”ジョイランド”という名の遊園地はディズニーワールドの足元にも及ばないが、それなりの広さがあった。 彼は事前の面接を受け、夏の間の宿も決めてきた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 キングの新作が文庫で出た。 キング作品でも純然たるホラーやミステリではなく、「スタンド・バイ・ミー」に近いノスタルジー溢れる青春小説。 ホラーやスーパーナチュラルな味付けが少し盛り込まれている。 主な舞台が遊園地という限られた場所での物語で、キングの作品としては小品だが、甘く切ない恋模様に友情、労働の喜び、少年との交流、加えて殺人事件といった要素がキングの手慣れた技でブレンドされ、十分に読者を楽しませてくれる。


許されようとは思いませんの表紙画像

[あらすじ]

 私は恋人の水絵と共に山形新幹線から支線を乗り継いで檜垣村を訪れる。 祖母が生きてこの村で生活していた18年前までは、毎年必ず盆と正月にこの村に来ていた。 私は水絵と結婚したいとは思っているが、その言葉を口にできなかった。 その理由は、私の祖母が殺人犯だったからだ。 その話は水絵にも伝えてあり、水絵はそれを承知で私と付き合い続けてくれているが、私はやはり躊躇ってしまう。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 4,50ページ程度の推理ミステリ短編5編。 各編とも、その出来はともかく、ラストでぴしっと決めようという書き方で、「姉のように」のようにアクロバチックに決まるものもあれば、表題作のようにもやもやしたままで終わってしまうもの、鋭さの感じられないものもある。 各編の内容は暗いものが多く、なんとも禍々しい表紙そのまま、猟奇的ともいえる雰囲気を漂わせている。 じわじわと追い詰められるような展開で読ませる、印象的な作品集といえる。


彼女がエスパーだったころの表紙画像

[あらすじ]

 S県歌島のニホンザルの群れにいたアグニという名の猿が、火をおこす方法を覚え、群れを離れた。 アグニは、海を渡りアスファルトを歩き長い旅の過程で、その技術を群れから群れへ伝えた。 そして高崎山や箕面山、下北半島といった遠地の猿も火をおこすようになった。 実のところ、火を発見したのはアグニではない。 天然記念物の島に密航した宗教法人のメンバーが猿に火を教えてみようとしたのだ。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 疑似科学というのか、ニセ科学、似非科学と言ったらいいらしいものを集めた6編のSF連作短編集。 マイクロナイフによるロボトミーであるオーギトミーという脳施術法とか、終末医療において薄ければ薄いほど効果がある量子結晶水といった興味を引かれるものがテーマとして扱われる。 内容の割に文章は読みやすいと思うし、ドラマとしての面白さもある。 最後の一行が”決め台詞”になっているものもいくつかあるが、いまいちピンとこなかった。


裸の華の表紙画像

[あらすじ]

 ストリッパーだったノリカは神奈川の小屋で正月公演の真っ最中に左足を骨折。 リハビリを続けていたが復帰は難しく、秋に廃業を決意した。 彼女はクリスマスイブの日に札幌に着いた。 すすきのゼロ番地で不動産業者に空き店舗を紹介してもらう。 ニューハーフのショーパブだったという店。 ここでノリカは酒を飲ませるダンスシアターを開くつもりだ。 不動産屋の担当者はダンサーも探してくると言う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 出身地から北海道東部を舞台にした作品の多い作者だが今回は札幌。 元ストリッパーが開いたダンスシアターでの約1年間の出来事が描かれる。 男と女の濃密で乾いたタッチの作品が多い作者だが、本作は傾向を少し変え、物語としてもうまく流れている。 個性の異なる若いダンサー二人の成長がまぶしく描かれ、バーテンダーの潔さも好ましい。 終盤、先輩ダンサーの小屋を訪れる場面はストリッパーの矜持というかプライドに圧倒された。


終わりなき道の表紙画像

[あらすじ]

 ノース・カロライナ州の地方の街、エリザベスは警官として13年勤めてきた。 彼女は、少女を拉致監禁した男2人を、18発の銃弾を浴びせて射殺したとして激しい批判を浴び停職中だ。 州警察に逮捕されるのも時間の問題という状況。 一方、13年前、女性殺害容疑で有罪となり服役していた元警官のエイドリアンが刑務所を出所する。 殺された女性の息子ギデオンは14歳になり、復讐の念にかられていた。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 少女拉致監禁犯を拷問射殺して停職中の女性警官と、かつて警察署のスター的存在だったが殺人罪で13年に及ぶ過酷な刑務所生活を経て釈放された元警官の2人の主人公で物語は進む。 女性警官は昔この元警官に心酔しており、2人それぞれの事情、そして2人が絡むことにより物語は大きく動いていく。 2人に次々に苦難が襲い、物語は様々な方向に根を張り広がって、先の読めない、600頁弱、息もつかせぬ面白さを感じさせる作品。


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