- 書 名 イベリアの雷鳴
- 作 者 逢坂 剛
- 出版社 講談社
- 単行本 569ページ 2200円
[あらすじ]
1940年1月。
内戦が終わりフランコが総統の任についたスペインのマドリードに北都昭平はいた。
日系ペルー人の宝石商を装っているが、実は日本のスパイ養成学校を出てスペインからヨーロッパ情勢の情報収集を任務としていた。
当時はドイツとイギリスが睨み合う状態が続いており、スペインがどちらに与するかが焦点になっていた。
北都は高名な伯爵夫人に巧みに取り入る。
[採点] ☆☆☆★
[寸評]
各国のスパイが暗躍する様子から北都を巡る女性たちまで、手慣れた筆さばきで最初から最後まで面白く読ませてくれる。
特にウィンザー公のエピソードなどは魅力的で1冊の本にしてほしいほど。
当時の複雑なヨーロッパ情勢も手際よくまとめられていてとても分かりやすい。
娯楽作としては水準以上だが、人間の描き方(特に北都)がやや浅く、諜報戦も描き切れておらず、全体にもうひとつ緊迫感に欠けるのが残念。
- 書 名 Miss You
- 作 者 柴田 よしき
- 出版社 文藝春秋
- 単行本 414ページ 1905円
[あらすじ]
文潮社小説フロンティア編集担当の江口有美は東大卒の若手文芸編集者。
人気作家の香川浩三などを担当し、私生活でもCGデザイナーの間宮丈に求婚されている。
ある夜会社で残業していると最近落ち目の作家伊佐木芳郎から、以前の担当の竹田沙恵あてに脅迫じみた激しい電話が入る。
そして翌日、腹部を切り裂かれた無惨な死体となって沙恵は発見される。
[採点] ☆☆☆★
[寸評]
出版業界の内幕や作家と編集者の特殊な関係、新人作家の確執など、興味深く盛り沢山な内容。
個性の強い人物が次々出てきて、読みやすい文体、快調なテンポと相まって十分に楽しめる。
しかし、犯人の動機や事件のつながり、主人公の推理や行動など、疑問符を付けたくなるような点が多い。
それでも多岐にわたった複雑な展開をともかくも収束させていく作者の力業には驚き。
それにしても出てくる男がまともでないやつばかりなのはなぜだろう。
- 書 名 永遠の仔
- 作 者 天童 荒太
- 出版社 幻冬舎
- 単行本 上下巻912ページ 3700円
[あらすじ]
1979年、小学6年の久坂優希は深刻な拒食と不登校からさらに不安定な状態となり、児童精神科のある愛媛県の双海病院に入院することになる。
両親が入院申込みをしている間に優希は、車中から見た海のまばゆい光を求めて病院を離れ、海岸へ出て新しく生まれ変わるため海に入っていく。
病院内の学校の授業をさぼっていたジラフとモウルは海に入る優希を見て、共に救いを求め海へ飛び込む。
[採点] ☆☆☆☆☆
[寸評]
図書館リクエストで長い間待ってようやく読むことができました。
こういう場合、期待が大きくなりすぎて読んでガックリということが多いのだが、これは見事に違った。
この採点も本当に久しぶり。
私の拙い文章力では読み終わってのこの感動をとても伝えることはできない。
たいへん悲惨で残酷な物語だが、最後には生きていることの素晴らしさをしっかりと伝えてくれる。
ページ数は多いが、現在と20年前の病院時代を交互に描き、常に緊張感にあふれ、ラストまで息もつげない力作。
- 書 名 転生
- 作 者 貫井 徳郎
- 出版社 幻冬舎
- 単行本 395ページ 1800円
[あらすじ]
重い心臓病に罹っていた大学生の和泉は心臓移植手術を受ける。
手術後、食事の好みが変わり、今まで聞いたこともないはずのクラシックの曲のメロディーラインや作曲者もすぐに頭に浮かぶようになる。
ドナーは若い女性とだけは病院側から教えてもらえた。
そのうち、自分が殺される恐ろしい夢を見る。
また、恵梨子という女性がたびたび夢に現れるようになる。
[採点] ☆☆
[寸評]
題材としてはさして新鮮味のあるものではない。
しかし料理の仕方によっては滅法面白いものになる可能性の強い設定だし、
例えば「スキップ」のように気持ちの良いファンタジーの線もある。
しかし読み進めてもさっぱり意外性の無い展開が続き、徐々に興味も失せてしまう。
そしておきまりの「組織」が出てくるともういけません。
この組織が強硬なのか軟弱なのかはっきりせず、また肝心の「転生」も結局中途半端なまま。
- 書 名 高く孤独な道を行け (Way Down on the High Lonely)
- 作 者 ドン・ウィンズロウ (訳・東江一紀)
- 出版社 東京創元社
- 文庫本 445ページ 740円
[あらすじ]
前の仕事の関係で中国の山奥の僧坊に3年に渡って幽閉状態にあったニールに新たな指令が。
銀行の顧客の個人的な難問を処理する"朋友会"に復帰し、ハリウッドの女プロデューサーの息子を捜し出すというもの。
2才の息子は別れた夫にさらわれたらしい。
2人を追ってニールは、広大な土地にわずかな人間が牧場を営んでいるネヴァダ州の"孤独の高み"と呼ばれる土地に行き着く。
[採点] ☆☆☆☆
[寸評]
探偵ニールものの第3作。
相変わらず減らず口を叩き、臆病風に吹かれながらも強がって相手に立ち向かっていくニールの冒険ぶりがいい。
今回も最後まで快調なテンポで話が進み、また狭い日本にいる身としては"孤独の高み"という土地にも魅力を感じてしまう。
敵対するカルト教団にいまいち迫力がないが、OK牧場の決闘まがいのガンファイトもあり、娯楽作として十分に楽しめる。
前2作に比べ派手なシーンが多くサービス精神旺盛だが、文学青年だったニールの変貌ぶりがちょっと淋しい。
元ストリート・キッドの探偵ニールを主人公とするシリーズ。
腕っ節も決して強くはないが、怖じ気づく心を生意気な態度で隠しながら前に進んでいくニールの姿が魅力。
第1作は副大統領候補の娘をイギリスで捜す「ストリート・キッズ」、第2作は中国を舞台に中国娘と駆け落ちした生化学者を追う「仏陀の鏡への道」。
すでに第5作まで書かれており、それでこのシリーズは終わりらしい。