◎99年9月



[あらすじ]

 日本では明治時代末期の中国は上海。 刑務所に収監されていた日本人詐欺師の伊沢修は、清朝打倒を目指す中国革命同盟会によって獄を抜け出す。 得意の詐欺のテクニックで日本の商社から大量の武器を騙し取ることを依頼される。 伊沢たちはかつて欧州で知り合った新橋の芸者屋の女将の家を根城に、日本陸軍の幹部を騙す巧妙な罠を張り巡らす。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 序盤はよくある大陸冒険ロマンかと思ったが、舞台が日本に移るとがらっと雰囲気が変わる。 痛快な騙しのゲームが実に面白く、伏線も上手く張られ、終盤の二転三転は読む側も騙されるのを楽しめる出来。 多彩な登場人物が魅力的に描かれ新人の作品とは思えないほど。 終盤への盛り上がりや緊張感に欠けることと、それからこのタイトルは良くない。 もとは「化して荒波」という志水辰夫の本みたいな題名だったそうだが、改題してもこの物語には似合いません。



[あらすじ]

 1790年、老中松平定信の緊縮政策真っ最中の江戸。 大嵐の夜、南町奉行所の同心仙波一之進は、行方不明の女の家を調べた。 どうも嵐に乗じて盗みに入った者に連れ去られたらしい。 やがて女は評判の絵師歌麿の女房おりよと知れる。 歌麿も急遽旅先から戻るが、おりよは無惨な瀕死の状態で見つかる。 やがて贅沢品を隠している店に対する不可解な押し込み事件が連続する。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 歌麿、松平定信、葛飾北斎といったビッグネームの外、主人公をはじめ脇役陣も生き生きと魅力的に描かれており、セリフ回しも読んでいて気持ちがいい。 また剣劇場面も迫力がある。 前半は次々と事件が起こり、テンポよく話が進み面白い。 しかし中盤は同様の事件が繰り返され展開も行きつ戻りつ、なかなか前に進まずかなりじれったい。 終盤もうまくまとまりすぎの感じ。 いっそ100ページほど削ってしまえばかなり点数も良くなるでしょう。



[あらすじ]

 永岡修は日本の信販会社ロス支社の調査部主任調査官。 彼はカリフォルニア州の私立探偵ライセンスを持っている。 本社からの直々の依頼で安田信吾という青年の住所を突き止めることに。 彼は7年前に家出し、最近州内で目撃されていた。 刑務所に収監されていたメキシコ人仲間の情報からようやく彼の行方を掴んだ永岡は、思いもかけず安田の襲撃を受ける。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 作者が初めて挑んだ私立探偵もの。 それもアメリカが舞台。 しかし残念ながら成功とは言い難い。 あまりアメリカの臭いが感じられず、ハードボイルドになりきれない生真面目な日本的探偵小説という印象。 序盤、永岡を巡るいくつかのエピソードが乾いたタッチで綴られるが、いずれもとって付けたような印象で苦しい。 地獄の天使として描かれる安田信吾も終盤まで本人の出番が少なく、結果として終盤の盛り上がりを欠いた。



[あらすじ]

 1961年、アラバマ州の田舎町チョクトー。 ハイスクールに通うベン・ウェイドは将来は医師を目指している秀才。 9月の新学期、北部ボルチモアから一人の少女ケリー・トロイが転校してきて、ベンは聡明で美しい彼女に一目で魅入られる。 やがて共同で学校新聞の編集を任された2人は徐々に親密さを増していくが、ケリーには過酷な運命が待ち受けていた。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 
「緋色の記憶」「死の記憶」と共に"記憶三部作"とされる作品。 主人公の苦悩が全編を暗い雲のように覆っているが、青春の日の悩み多き恋が寂しさと輝きをない交ぜに見事に描かれ、実に胸に応える物語に仕上がっている。 4つ星級だが、予定した結末へ向けて(無論最後はひねりますが)じりじりと進んでいくスタイルは、作者の技巧が少々鼻につく感じもある。 冒頭からクックの作品と分かるいつもの語り口にはちょっと飽きたので個人的に★減点。



[あらすじ]

 記録的な水不足により緑山ダムは干上がり、ダム底に沈んでいた緑山中学校校舎が姿を現した。 中学3年の私は遊び仲間の悪友3人とダム底の探検に出かける。 そのころ緑山には殺人鬼浦田清や過激派の女闘士で組織の脱落者を容赦なく殺した那珂川映子が逃げ込んでいるという噂もあった。 台風が近づく中、校舎に辿り着いた4人は怪談話の百物語を始める。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 5年前の
「沈黙の教室」に続く教室シリーズ第2弾。 相変わらず凝った造りで得意の叙述トリックは快調。 どこまでが4人の創作怪談話でどこからが今起きている事件なのか、渾然一体となった物語があっと言わせる展開を挟み続いていく。 ただちょっと長すぎませんか。 最後まで読み通すのに少々疲れました。 そして結末。 これで細かいところまですべて解明されたのかなぁ。 頭の巡りの悪い私には何となくもやもやが残りました。


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▲ 沈黙の教室
 交通事故で記憶を失った男が持っていた手帳には中学校の同窓会における殺人計画のメモがあった。 20年前、その教室では陰湿ないじめが横行しており、そこから恐ろしい復讐劇が始まる。 日本推理作家協会賞受賞作。