[寸評]
ミステリだと勝手に思い込んで読み始めたが、家族に、仕事に、恋愛に奮闘し、混乱し、漂流する男の物語でした。
新聞に連載されていたそうだが、たしかに大きな出来事が次々と起こり、目まぐるしく展開が変わる波乱万丈の物語。
主人公の気持ちの昂ぶり、落ち込みが忙しく、全体として深みはないが、とにかくストーリーで読ませる。
会社組織、大学組織と舞台も変わり、地位目当ての権謀術数から恋愛劇まで、まさにてんこ盛り。
[寸評]
中篇の表題作と「職場の作法」との表題のもと短編4作、アルゼンチンのフィギアスケート選手ネタでつながる女子社員を描いた短編の全6作。
秀逸なのは職場の作法の短編で、設定はどれも他愛ないものだが、職場における人間関係が実にリアルで、思わず頷いたり、慄いたり、笑ったり、見事ですね。
それに比べると、表題作を含め他の2作はなにかだらだらと綴られていくだけで締まりのないまま終わってしまったという感じ。
[寸評]
ルソーの作とみなされる絵画の真贋をめぐるミステリ。
選ばれた2人の鑑定対決に加え、創作か史実か不明の作中作が挟まれた物語は、凝った設定と展開で実に興味深く、面白い。
鑑定期間にろくな鑑定もしていないところとか、鑑定人が互いに尊敬と好意を抱きあうあたりも、具体的な描写がないのでなにか唐突な印象。
それでもドラマチックなラストまで惹きつけられる。
あと、今の岡山の若い娘はあんな方言丸出しじゃないよ。
[寸評]
ミステリの名手たちの7短編が収められている洒落たショーケース。
ゴードンのような売り出し中の作家と、クックのような大ベテランの作品が上手に並べられている。
日本の短編ミステリのようなラスト1行でアッと驚かせる仕掛けの話はなく、流れるように終わる、よく言えば余韻を持たせて終わる話ばかりだが不満はない。
いずれも手抜きなくしっかりした構成で、とりわけ南北戦争時の家族を描いた「ライラックの香り」は絶品。
[寸評]
民衆が抑圧されている架空の国を舞台に、人気パーソナリティーと行方不明となっている彼女の夫をめぐるサスペンスフルなドラマ。
時間と空間を不意に飛ぶ語り口には少々戸惑うが、徐々に明らかになる夫の過去に緊張感は高まり、苦悩する妻らにしっかりした人間描写がある。
内戦状態の中での民衆の重苦しい姿など、開放への希求、自由への静かなメッセージも加え、新潮クレスト・ブックスらしくじっくり読みたい物語。
[あらすじ]
5年間のアメリカ勤務を終えた高澤修平はひとり帰国した。
証券会社社員の彼は、36歳のとき夢にまで見たニューヨークの現地法人勤務が実現した。
妻と6歳の子供と赴任。
息子はあっという間に英語の生活に馴れたが、妻は日に日に生気が失われていった。
そして出張中に子供を連れ帰国してしまう。
そしてある日、自宅のテレビに会社破綻のニュース映像が流れた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
朝出社したときは小雨程度だったが、警報も出て、豪雨と言っていいような状況になってきた。
交通機関が停止しないうちに帰宅するよう本社から通達も出た。
ハラは会社のある埋立州と本土にある電車の駅の間をつなぐ循環バスに乗るため、買ったばかりのレインブーツを履いて会社を出る。
しかし停留所には運行未定の汚い字の貼り紙が。
駅まで歩くしかない。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
早川織絵は倉敷の大原美術館の監視員。
突然館長室に呼ばれた彼女を待っていたのは新聞社の文化事業部長だった。
その新聞社は東京国立近代美術館と組んでアンリ・ルソーの大規模な展覧会を企画していたが、ルソーの代表作でニューヨーク近代美術館(MoMA)の至宝「夢」を借り出す交渉をしていた。
MoMA側は交渉の窓口として織絵を指名してきた。
[採点] ☆☆☆☆
[あらすじ]
私、デイヴィッド・ゴードンのもとにアルゼンチンの若い女から手紙が送られてきた。
彼女は自分を題材とした論文の制作にあたっており、近く取材のためニューヨークを訪れるという。
たしかに私はもの書きを生業としているが、まだ一篇の小説も世に出していないのになぜ論文の題材になるのか。
私はパソコンにスカイプのソフトを入れ、女の回線にアクセスした。
[採点] ☆☆☆★
[あらすじ]
不法集団が敗北し、反乱が終わって10年余り。
政府の締め付けが厳しい中、国営ラジオ局は1局だけ残った。
その看板番組であり、国民的な人気番組が「ロスト・シティ・レディオ」。
行方不明者を探すこの番組のパーソナリティーのノーマは国で最も信頼され愛される声となった。
一人の少年がジャングルの村から行方不明者のリストを持って局にやってきた。
[採点] ☆☆☆★
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