◎02年4月



[あらすじ]

 本所相生町の賄い屋(弁当屋)高田屋の庖丁人だった太一郎は、主人の七兵衛の後押しを得て、海辺大工町に料理屋を開くことになった。 店開きの支度で忙しい中、太一郎と妻の多恵の一人娘おりんが高熱を出し生死の境を彷徨っていた。 三途の河原から舞い戻ったおりんは、以後家の中で子どもや大人のお化けを目にし、彼らと話もできるようになる。

[採点] ☆☆☆☆★

[寸評]

 作者お得意の時代もの怪奇ファンタジー。 読者を怖がらせ、驚かせ、微笑ませ、はらはらさせ、そして泣かせる見事なエンタテインメント。 序盤おりんが病から生還してしばらくはやや弾みのない印象だが、怪奇大作戦のような終盤まで全編とにかく楽しめる。 親思いで多感な少女を主人公に据えて恐ろしい話を巧みに和らげ、伏線を張り巡らし、あっと言わせながらも、読者の望む方向へ気持ちよく上手に話を納めていくあたりはさすが。



[あらすじ]

 ブライアンは女教師を追って車を走らせていた。 彼は高校の仲間クライドに心酔していた。 クライドは不良少年のリーダーで、平気で人を残忍な方法で殺す。 ブライアンも彼に付いて悪事を繰り返していた。 しかし女教師ベッキーを襲った際、クライドは警察に捕まり独房で自殺してしまう。 やがてブライアンの中にクライドが入り込み、ベッキーの処刑を命じる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 最近矢継ぎ早に出版される作者の初期のパルプ・ノワール。 巻末にクーンツの推薦文が掲載されているが、本作はまさにクーンツの世界を思わせる。 一直線にひたすら突き進むホラー追跡劇。 近作に比べるとまだまだ荒削りで、物語として完全燃焼はしていながらも、もっと大きな火になったのではと思わせる出来だが、闇を突っ切るようなスピード感がたまらない。 残酷とか、倫理感とかを超えた暗黒の世界がここにある。



[あらすじ]

 瓢六は武家や商家の強請事件の首謀者として捕らえられたが、同心・弥左衛門の尋問にも口を割らず、牢屋敷送りになる。 彼は長崎の役人だった男で、オランダ語の通訳をしており唐絵の目利きでもあった。 そんな折、元岡っ引きの娘が殺される事件が起き捜査は難航。 弥左衛門の上役の与力・菅野は、瓢六を一時牢から出し下手人をあげさせようと言い出す。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者お得意の人情連作時代劇、全6編。 昨年の
「お鳥見女房」同様、手堅くまとめられた人情味豊かないい話ばかり。 特に「虫の声」という話は上手すぎる。 瓢六のあまりの名推理ぶりはどうしても4、50ページで事件に片を付けるため致し方ないか。 適度なユーモア、推理風味に加え、無骨な弥左衛門、色男の瓢六、勝ち気な瓢六の女のお袖等々、ヴァラエティ豊かな配役も見事。 現在も「オール読物」誌で不定期連載中で今後も楽しみ。



[あらすじ]

 作家志望の書店員キャルは、気持ちばかり先走りまだ1行も書くことができない。 一方、キャルのルームメイトのスチュアートはロー・スクールの学生。 キャルが連れ込んだ女がスチュアートのパソコンを盗んでいく事件が起き、2人の間に不協和音が。 しかしある日、スチュアートは小説を書いたので読んでほしいとキャルに頼む。 それは素晴らしい作品だった。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 巻末インタビューで作者自身が語るように、
「太陽がいっぱい」を想起させる。 歯噛みするような日々に突然訪れた千載一遇のチャンス。 富と名声を得たとき思いがけぬ所から綻びが・・・。 主人公に感情移入し読者もかなりはらはらさせられるが、サスペンス的にはややぎこちない。 終盤"後記"として一気に語られる部分はもっとじっくりと読ませてほしかった。 話の流れにいかにもアメリカ的なものの考え方を感じ、やや違和感があった。



[あらすじ]

 飛騨山奥の一軒家、時は明治後期か。 合掌造りの大きな家に少年の永吉と母の二人暮らし。 時折、北陸方面に通じる天鏡峠を目指す旅人が道を誤って通りかかることがあった。 そんなとき、母は疲れた旅人を家で休ませ、里の話をしてくれるよう頼むのだった。 今宵も道を間違えた老人が泊まっていき、大阪は堺の茶屋で働いていたみつという娘の話を始めた。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 江戸から明治にかけての山村の大家族制を、おおらかな性風俗を織り交ぜながら描いた6話からなる連作小説。 1軒に3、40人が暮らす大家族制の様子や当時の風俗・習慣が大変興味深い。 旅人の語るそれぞれの物語もある種面妖な話だが、もともと娯楽小説ではないので面白度という尺度ではこんな採点になった。 町に引き寄せられていく人々の様子など、そのまま日本の縮図といえる。 第三話「盆嬶」に描かれる青春の輝きがまぶしい。


ホームページへ 私の本棚(書名索引)へ 私の本棚(作者名索引)へ


▲ 「太陽がいっぱい」

 パトリシア・ハイスミス原作で、1960年にアラン・ドロンが主演したフランス映画で大評判になった。 貧乏青年が金持ちの友人を殺して彼になりすまし、彼の恋人にも愛を告げ、すべてを手にしたかと思われたが・・・。 サスペンスとどんでん返しが素晴らしい傑作。 まばゆい太陽とニーノ・ロータの音楽も印象的でした。 アラン・ドロンが魚市場を散策する場面が忘れられない。 近年、アメリカで再映画化(「リプリー」)された。