◎05年10月



[あらすじ]

 ロス市警署殺人課の刑事だったボッシュは、昨年退職し、とりあえず私立探偵の免許をとった。 彼には今なお気にかかる未解決事件があった。 4年前、映画会社の製作アシスタントだったアンジェラという女性が自宅の玄関前で絞殺された。 彼女の両手はなにかに懇願しているかのように頭上に差し上げられていた。 その姿がボッシュには忘れられなかった。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 
前作で50歳を越え早々と警察を引退してしまった主人公だが、シリーズはまだまだ続くようで嬉しい限り。 すでに本書以降2冊がアメリカでは発刊されているそうな。 その本書だが、さまざまな謎が徐々に結びついていき、終盤驚くべき真相が雪崩のように激しいアクションと共に読者を襲う。 "屈しない男"ボッシュを描く典型的なハードボイルドで、物語に身を任せていれば上質の娯楽が味わえる。 ラストのおまけは少々こそばゆいが。



[あらすじ]

 カフェのオーナー店長の桧山は保育園児の愛美と二人暮し。 妻は4年前自宅で刺殺された。 犯人として捕まったのは3人の中学1年生。 遊ぶ金欲しさに空き巣に入り居合わせた妻を殺した。 刑事罰の対象とならない彼らは児童自立支援施設などに送られた。 突然カフェに刑事が来訪。 3人のうちの1人が昨夜、近くの公園で刺殺死体で見つかったと言う。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 今年度の江戸川乱歩賞受賞作。 近年、質の低下を感じて手を出していなかった乱歩賞だが、この作品は歴代の受賞作の中でもかなり上位に位置するのではないか。 幾重にも練られた構成、登場人物も良く整理され、意外な展開が連続し、終盤の盛り上げもなかなか。 なにより文章がしっかりしているし、少年犯罪という題材にしても上辺だけをなぞるような底の浅い人権論などではなく、人間としての視点がある程度感じられた。



[あらすじ]

 バリーとニューヨークに住むローラ夫妻は借金でいよいよ追い詰められ、生命保険に手を付けようとしたが、それは貯蓄型ではなく掛け捨てだった。 そこで死亡を偽装して保険金を手に入れようと企む。 ローラの故郷、南米のちっぽけな国ゲレラでバリーが事故に遭い、幼くして亡くなったローラの弟の出生証明書を使って別人に生まれ変わるという算段だ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 作者お得意のクライム・コメディ。 首尾よく別人になりすまして、あとは保険金の支払いを待つばかり。 そこから一難去ってまた一難。 ごろごろ転がるように状況が悪くなり、深みにはまっていく様が痛快で、そそられる娘のところに身を隠す羽目になるあたりはなかなか傑作。 大爆笑とはいかないが、陰惨な殺人などは出てこないところもいいし、悪賢い連中が騙し騙されずっこける姿に、気持ちの良いラストまで安心して楽しめました。



[あらすじ]

 今から30年近い前、私と比沙子は東京の下町にある古アパートの2階に移り住んだ。 近所に買い物に出て迷子になった私は、電柱の陰で小さなラーメン屋を見上げている男に気付く。 その店には数週間前に強盗が入り、主人が殺され犯人はまだ捕まっていない。 それからも私は同じ場所で5、6回その男を見た。 張り込みの刑事か、いやまさか犯人では。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 
「花まんま」で直木賞を受賞した作者の受賞後第1作。 ただ、内容は「小説新潮」誌に2年ほど前から隔月掲載していた連作もの短編7編。 趣向は「花まんま」と同じで、不思議度をさらに増した感じ。 7編は時代を若干ずらしつつ、すべて同じ町内を舞台としており、共通の登場人物なども多い。 当時の風俗描写が私の年代にはとても懐かしく思え、ふんわりと包み込まれるような人情話は心地良いものの、前作と同内容で新味はない。



[あらすじ]

 高校の優等生だった原之井は医大に進み、認められてアメリカに留学。 しかしある事件に巻き込まれ現地で失踪していた。 その彼が10年ぶりに日本に帰ってきた。 約束を果たしに。 高校の同級生だったヤオに、10年後、これが自分の人生だと他人に胸を張れる日々を過ごしていたなら1億円を渡すという約束。 しかし彼女は来ず、夫と名乗る男が現れる。

[採点] ☆☆☆

[寸評]

 原之井の昔の恋人探しと、富豪の跡取り息子の家で起こる幽霊騒ぎを交互に描き、定石どおり終盤に交わらせて大団円に至る。 そこにはやはり大きなサプライズを用意してあるが、これってどこかで読んだことがあるなぁ。 後半も急ぎすぎた感じで、特殊な能力や才能ばかり登場させて解決に導くのもどうか。 最後までそれなりの面白さを維持しているし、素直な語り口・人物の描き方には好感が持てるが、全体に軽く印象が薄い作品。


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