◎05年11月



[あらすじ]

 カリフォルニアで教師をしているロイは、癌に犯された一人住まいの父の最期を看取るため故郷ウェスト・ヴァージニアに戻ってきた。 20年前、奨学金を得て大学に行こうとしていた年、弟のアーチーが、恋人の両親を射殺し、自らも拘置所で首を吊った。 事件後、町を出たロイは、当時結婚を誓い合ったライラから一方的に別れの手紙を受け、今も独身のままだ。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 クックの作品は2年ぶりだが、相変わらず上手いですね。 派手なアクションなどはほとんどなく、じっくりと筋を追っていくのだが、絡み合う謎がほぐれてはもつれる様は実にドラマチックで、退屈さなど微塵もない。 すべてを拒否するような父と、朽ちていく彼に義務的に付き従っていた息子だが、大きな一気の衝撃の後、最後の3週間はお互いが安らぎの対象となる。 そしてさらに希望のラストへ、と彼の作品には珍しい輝く光で終わる。



[あらすじ]

 10歳の"ほう"は江戸の建具商の若旦那が女中に産ませた子だったが、家人が相次いで病の床に伏したところで、金比羅詣でに送り出される。 讃岐の丸海港に着いたところで供の女中に有り金すべて持ち逃げされ、丸海藩の藩医である井上家に行儀見習いの奉公人として住まわせてもらうことに。 折りしもこの地に幕府の罪人である加賀殿が流されてくる。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 前半はもうひとつ趣向が足りないとか、後半も意外性に欠けるとか、こんなにどんどん主要な登場人物を死なさなくても、などと思いつつ、ラストでは思わずぐっと胸が詰まりました。 そしていい物語を読んだという満足感・幸福感に浸りました。 いろいろな人の争い、理不尽な社会の姿を無垢な"ほう"と対比させることで、人の心の怖さが実に巧みに物語られています。 作者の巧さ・つくりも鼻に付くことのない、素直な感動作でした。



[あらすじ]

 カリフォルニアの町タスティン。 1968年10月、オレンジ出荷工場跡で首を切り落とされた若い女の死体が発見される。 急行したニック・ベッカー刑事は死体の顔を見て驚く。 ジャニル・ヴォン。 ニックが高校生の頃、ベッカー家の4兄弟はヴォン家の3兄弟と大喧嘩をした。 ジャニルはヴォン家の末娘だった。 ベッカー家の末弟アンディも新聞記者として事件に関わる。

[採点] ☆☆☆★

[寸評]

 ベトナム戦争時期を中心に半世紀に及ぶ犯罪ドラマ。 序盤から68年の殺人事件までは快調で、犯人と特定した男をメキシコまで追うくだりはスリリングだ。 ただその間の捜査段階が変化に乏しく長いため、少々退屈した。 また終盤の真相を掴むところはあっけないものの、家族・人間ドラマとしての読み応えは十分。 ラストの突き放したような苦いエピソードも、でも人間って、人生ってこういうものだよ、と納得させる明るさも併せ持っている。



[あらすじ]

 中西一平は叔父の羽鳥四郎と輸入業を共同経営していた。 その叔父が埼玉県行田市郊外、ワゴン車の中で集団自殺の一人として発見される。 車は内側から目張りされ、車内に七輪、一酸化炭素中毒死という。 リーダーとおぼしき女だけが助かったが、意識不明の重体だ。 叔母はこの事件を集団自殺に見せかけた殺人と考え、一平に犯人探しを依頼する。

[採点] ☆☆☆☆

[寸評]

 事件の顛末を複数の登場人物の語りで縦横に時間や場所を飛びながら描いていく。 作者お得意の叙述トリックだが、比較的とっつきやすいというか、平易でトリックのレベルは低め。 マニアにとっては物足りないかもしれないが、あまり作者が凝らなかったことが逆にとても読みやすくなり、面白さという点では十分に楽しめる作品となった。 不満は、集団自殺の一員となる双子の姉妹の描き方が不十分だったことくらいか。


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