[寸評]
一昔前のテレビの連続ホームドラマの趣。 勝手気ままに生きる若き叔母さんに振り回される家族のお話で、かる~いコメディーだが、美晴さんはもちろん、登場人物みなの人物造形がしっかりしている。 けっして明るい展開ばかりではないが、物語世界すべてにイヤ味がなく、深刻になることはない。 傍から見れば愉快で、家族にいたらとんでもない美晴さんのキャラが秀逸。 8話の連作短編集だがこれで完結とはもったいない。
[寸評]
ドラマチックな設定のミステリー。 作者は、テレビやラジオ、映画などの脚本家で、この作品はラジオドラマ用に書き下ろされたものだとか。 全編ダレることなく話が進んでいく。 メインの流れの合間に、時代を遡ってある男が怪物となっていく流れが挿入され、そのため犯人の意外性という点はないが、どう話が収束していくのか興味が続く。 人物描写に深みはないが好感のもてる描き方で、陰惨な場面もあるものの楽しめる一編。
[寸評]
ガチガチの体育会系で自信満々、竹刀は"刀"、相手を斬ることしか考えない磯山香織。 もとは日本舞踊をやっていて中学に部活がないので剣道を選び、なんとなく上手くなってきた西萩早苗。 2人の交互の語りで話は進められる。 自分以外は全部敵という磯山のキャラはつらいが、全体的にはスポーツ青春ものとしての清々しさが感じられ、試合場面も適度に緊迫感のある好編。 磯山の心変りが唐突な印象なのは残念。
[寸評]
コミカルで痛快なサスペンス。 夫に殺されかけた妻の復讐話だが、全編ユーモアに満ち、軽快なテンポで存分に楽しませてくれる。 見事な物語だが、登場人物もすこぶる個性派揃い。 ヘビを飼っていて隣家の婆さんといつも揉めている刑事などはまともなほうで、湿地帯に隠棲するアブナい片目の老人も凄いが、最高はチャズのボディガードの大男トゥールだろう。 介護施設で療養中の老女とのエピソードはいい話すぎる!
[寸評]
相変わらずのクックの文体、筆致、語り、そして派手さのかけらもなく静かに進んでいく展開だが、今回もその巧さに唸らされる。 劇的な出来事があるわけでなし、サスペンスを煽るような言葉もないが、ページをめくる手は止まらない。 夫を疑い、徐々にエスカレートしていく姉と、それに感化されていく主人公の娘。 それに焦る語り手の弟。 姉弟の脳裏に色濃く宿る父親の狂気が内なる戦慄を煽っていく、悲劇の小説。