[寸評]
「カルカッタの殺人」、「マハラジャの葬列」に続くシリーズ第三作。
冒頭からテンポよく物語に引き込み、その後もスピード感を持って第二、第三の殺人へと淀みなく話は流れる。
状況はけっこう複雑でも、読みやすい文章で、話の流れが分かりやすい犯罪捜査劇。
クライマックスに英国皇太子のカルカッタ訪問を据えて緊張感を高めていく。
ガンジーを中心とした独立運動が激化する当時の現地の様子が物語にうまく取り入れられていて興味深く面白い作品。
[寸評]
戦前、戦中の大阪商人の家を舞台にした古典的・オーソドックスな本格推理もの。
時代背景、大阪船場の商家の様子がよく描けていると思え、方言まじりの文体だが読みやすく、話の流れはスムーズ。
お約束の名探偵に迷探偵まで登場するし、猟奇的な殺人も出てきて、横溝正史ばりのおどろおどろしくレトロな雰囲気で面白く読ませる。
最後の謎解きには納得できるようなできないような強引な感じもあるが、それがいかにも本格ものらしいとも言える。
[寸評]
「スモールワールズ」に感心した作者による、退職間近の29歳契約社員の女性とお笑い芸人とのちょっと変わった恋と友情の物語。
芸人コンビの大阪弁での会話はちょっとキツいが絶妙なテンポがあって、自然に話に乗っていける。
主人公が次第に前を向いて生きていく姿が潔く気持ち良い。
ただ、芸人のコントがいくつか出てくるのだがなにが面白いのか分からず、こういうものを受け付ける感性についていけなくなったように思え、残念な気持ち。
[寸評]
著者のデビュー作から、世界を席巻したSF大作「三体」の一エピソードを土台とした表題作「円」まで、十数ページから五十ページ弱までの十三篇が収められている。
たいへんヴァラエティに富んだ作品群で、壮大なスケール感を感じさせるSF的大風呂敷を広げた作品、時間旅行ものやほのかなユーモアを感じさせるものなど、どれも読みやすく面白い短篇ばかり。
短篇なので「三体」のように圧倒されるところまではいかないが、印象に残る作品が多い。
[寸評]
刑務所ミステリーとして見事だった「看守の流儀」に続く作品。
前作同様、キャリア刑務官火石をキーパーソンに据えた独立した五つの短篇にプロローグとエピローグが付く。
どの作品も、特殊な環境を舞台とした囚人と看守たちの人間ドラマが緊張感を持って描かれており、興味深く、面白い。
そしてこの作品にも前作同様に仕掛けがあるのだが、終盤のこの衝撃がとにかく凄いのだ。
ただし前作を読んでいないとその衝撃を味わえないのでそこは要注意です。
[導入部]
1921年12月、真夜中のイギリス領カルカッタ。
インド帝国警察のウィンダム警部は、阿片で朦朧とした頭で、寝静まったチャイナタウンの棟続きの建物の屋根を逃走していた。
阿片窟への警察の手入れだ。
今夜はガサ入れはないと思っていたのに、こんなところを捕まったら警察も免職になってしまう。
ところが逃げ込んだ上階の部屋で、両目をえぐり取られ胸にナイフが突き刺さった男の死体を見つけてしまう。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
明治三十九年、大阪。
鶴吉は大鞠百薬館という商家に丁稚奉公している。
3月のある日、ぼんぼんの千太郎に誘われてパノラマ館にお供することに。
パノラマ館は南海鉄道難波停車場の近くにあるけったいな丸い建物で、入口の看板には「日露戦争 旅順総攻撃」と出し物が書いてあった。
千太郎ぼんに連れられ鶴吉は中に入る。
パノラマに目を見張り、多くの観客に囲まれているうち、千太郎の姿が見えなくなる。
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
29歳の柳生美雨は大手の繊維会社で受付をしている。
受付嬢は30歳になると契約更新してもらえない。
美雨はその日、大阪城ホールのアリーナ最前列にいた。
ステージ上では本日の主役の人気バンドがアップテンポなナンバーを奏でている。
ステージと柵の間にはカメラマンやアシスタントのような人たちがいる。
その中のひとり、ツアーTシャツを着た男の人と1メートル足らずの距離でがっつり目が合った。
[採点] ☆☆☆★
[導入部]
ワーナーおじさんは三千トンもある豪華な自家用クルーズ船に高純度のヘロイン二十五トンを積んでいた。
南米のジャングルにある工場で二年かけて精製した最高級品。
二か月前工場はコロンビア政府軍に潰された。
このブツを急いで金に換え工場を新たに建設する必要があった。
しかし一か月以上、クルーズ船は海の上を漂い続けている。
麻薬を隠してアメリカ税関を通すことが不可能だったのだ。(「鯨歌」)
[採点] ☆☆☆☆
[導入部]
早朝五時、一台の車が金沢の西側の海岸に向かっていた。
車には三名の刑務官と出所間近の受刑者、坂本が乗っていた。
坂本の罪状は傷害、服役は二度目。
刑務所での矯正プログラムを重ね、仮出所前の更生プログラムとして外出するのだ。
外出の内容は海岸清掃ボランティアへの参加。
付き添う看守部長の亀尾は前例のない仕事に緊張していた。
亀尾には定年までに看守長までたどり着きたいとの目標があった。
[採点] ☆☆☆☆
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